千葉大学医学部附属病院(千葉大病院)は7月23日、次世代医療構想センターおよび千葉大学大学院医学研究院・消化器内科学の加藤順准教授、小笠原定久講師、對田尚助教、太田佑樹助教を中心とする研究チームと、NTTドコモビジネス(旧 NTTコミュニケーションズ)と共同で、IBD(Inflammatory Bowel Disease:炎症性腸疾患)における新しいePROシステムを用いた観察研究を2022年12月より実施してきた結果について発表した。

ePRO(electronic Patient Reported Outcome:電子的患者報告アウトカム)は、疾患が患者に与える影響や治療の有効性について、スマートフォンなどの電子機器によって患者の主観的なデータを取得する手法。IBDのような慢性疾患の管理においては、医療の質向上に寄与する有力な手段として注目されている。

研究実施の背景

PRO(患者報告アウトカム)は患者が自身の健康状態や症状、生活の質(QOL)などを、医療従事者の解釈を介さずに直接報告するもの。PROによるデータ収集は本質的な洞察の獲得が期待できる一方で、患者のプライバシー保護や回答バイアスといった課題が指摘される。

特にIBDのような慢性疾患では、症状に関する情報がプライバシーにも深く関わるため、従来の方法では「他人に回答が見られてしまうかもしれない」という心理的負担が生じ、実際の症状と調査結果に乖離が生じる可能性がある。

そこで今回の研究では、プライバシーを守りつつ偏りのないデータ収集を実現するために、NTTドコモビジネスの秘密計算サービス「析秘」と「SmartPRO」を活用した新しいePROシステムを実装し、その有効性を評価した。

研究概要

研究では千葉県内の15施設が参加するIBDコホート(長期間にわたって臨床情報や検体データを集積し診断・治療・予後などを包括的に調査・解析する集団)を対象に、同意を得た322人から収集した2回分のePRO回答データとEDC(Electronic Data Capture:症例報告書などを電子的に管理するためのシステム)上の臨床データを結合し、診療記録とひも付いた解析を実施した。

その結果、患者のプライバシーを保護しつつ、回答の秘匿性を担保したまま分析可能なePROシステムにより、従来の診療では把握しきれなかった患者の声を可視化することが可能となることが確認された。

服薬アドヒアランス(患者が治療方針を理解し納得した上で、積極的に治療に参加し処方された薬を指示通りに服用すること)に関しては、28.9%の患者において自己申告と実際の服薬状況に乖離があったという。これはePROデータが信頼性と臨床的有効性の向上に寄与する可能性を示唆している。