パナソニック インダストリー(PID)は7月15日、同社が提供する透明導電フィルム「FineX(ファインクロス)」に関する説明会を開催。同製品のユースケースとして期待される“透明電磁波シールド”での販路拡大を見据えて標準仕様品を開発し、2025年内をめどとした製品化に向けて動くことを明らかにした。
“見えない配線”で透明性を確保した導電フィルム「FineX」
PIDが開発し販売を行うFineXは、極めて細い金属配線を張り巡らせることで高い透明性と導電性を両立させたメタルメッシュタイプの導電フィルムで、タッチセンサへの活用をはじめ、高周波化が進む5G/6G通信領域での透明アンテナなどへの適用や、自動車業界の共通トレンドとなっている“CASE”における透明デバイスの実現など、さまざまな分野での活用が期待される。特に、導電性を活かしたヒーター用途では、山本光学が2025年10月に発売する予定の面発熱レンズ搭載ゴーグルでの採用が発表されており、厳冬期の低温環境下でもくもらないことで安全な視界を確保し、雪山での救助活動などに貢献していくという。
このFineXにおける技術的特徴について、PID メカトロニクス事業部 ファインコンポーネントビジネスユニット ファインエレメント総括部 技術部の野並勇治部長は、同社独自の構造・工法による配線の“厚み”だとする。金属配線をより深く形成できることにより、配線幅が狭い状態でも断面積を確保し、抵抗を低く抑えられるとのこと。そのため最小2μmという“見えない”細さでありながら、導電性も両立できるのである。
需要が高まる“EMC”領域での販路拡大へ
そして今般同社は、透明かつ導電性を持つという特徴を活かしたFineXの注力用途として、「透明電磁波シールド」に着目した。電子機器の増加や高周波化、通信規格の増加などに伴い、“EMC(電磁両立性)”に関する規制強化が進んでおり、ノイズを排除し機器の安定動作に貢献する電磁波シールドの重要性が高まっているとのこと。多くの産業機器が互いに干渉なく動作する必要のあるFA機器や、多数の物品を正確に認識し分ける必要のあるRFID、内部の状態を目視で確認しつつノイズとの干渉を避けることが求められる工場およびサーバーラックの窓など、さまざまな領域で電磁波シールドが必要とされている。
現在では主に、高いシールド性能を有する金属箔付きフィルムや、高い透明度を強みとする「ITOフィルム」が用いられている。しかしながら、前者は透明ではないためシールド内の様子が目視できず、後者はシールド可能な周波数の選択性が低いなど性能面での課題を残している。そこでPIDは、高い透明性とシールド性能の両立により従来の課題を解決した“中が見える電磁波シールド”へのFineXの展開を目指すという。
1枚のフィルムで99.99%のノイズ除去性能を発揮
電磁波シールドとしてのFineXの性能について、PIDによる検証では、回路やモーター、液晶などから発される1000メガヘルツ帯以下の領域において99.99%(電力比換算)の電界シールド性能を発揮するとした。またWi-FiやBluetoothをはじめとする40ギガヘルツ以内の周波数帯でも-30~-40デシベル程度の電界シールド性能が見られるなど、幅広い周波数帯への対応が可能だとする。
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それぞれ飛行機・バナナと記された電波を発する物体は、通常時にはアンテナによりその存在が検出される。しかしFineXを貼り付けた箱をかぶせると、中が見えながらも物体の電波は検出されず、シールドとしての役割を果たしている
なおPIDの野並氏は、FineXの強みとして「後貼りが可能な点」を挙げ、大規模な工事を必要とせず、FA機器などの保護カバーに1枚のフィルムを貼りつけることで、すぐに電磁波シールドの実装が可能になるという。
そしてPIDは、こうした透明な電磁波シールドとしての販路拡大を目指すため、粘着剤であるOCAがついた状態での標準品を2025年内に発売予定だとする。同製品は、83%という可視光透過率(開口率は92%)を基本仕様としており、同社としての量産体制はすでに整っているとのこと。これまではカスタマイズ品としての販売が行われていたFineXの販売効率を向上させ、2028年度に10億円の売り上げを達成することを目指すとしている。
なお、標準品の発売が発表されたFineXについては、7月23日から25日まで東京ビッグサイトで開催される生産技術の総合展示会「TECHNO-FRONTIER 2025」のPIDブースにて展示される。