すばる望遠鏡を用いた観測で、太陽系外縁の特異な軌道で公転する小天体群「セドノイド」に属する新天体「2023 KQ14」(通称:アンモナイト)を発見したと、国立天文台、台湾中央研究院 天文及天文物理研究所(ASIAA)、近畿大学、千葉工業大学、神戸大学、日本スペースガード協会の6者が7月15日に共同発表した。

  • 4番目のセドノイドとして発見された新天体「2023 KQ14」(通称アンモナイト)のイメージ
    (C)AI-generated illustration by Ying-Tung Chen (ASIAA)
    (出所:すばる望遠鏡Webサイト)

また、アンモナイトは太陽系形成初期から安定した軌道を持つことが数値シミュレーションで示されたことで、未知の第9惑星の存在を確かめるための手がかりとなる可能性も併せて発表された。

同成果は、産業医科大学 医学部 医科物理学の吉田二美准教授(千葉工大 惑星探査研究センター 客員上席研究員兼任)、ASIAAのイントン・チェン氏、近大 総合社会学部 総合社会学科 マスメディア系専攻のパトリック・ソフィア・リカフィカ准教授、国立天文台 天文シミュレーションプロジェクトのユウクン・ホワン特任研究員らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。

“太陽系の化石を見つけ出す”プロジェクト「FOSSIL」

すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「HyperSuprime-Cam」を用いた探査プロジェクト「FOSSIL」は、2020年に日本と台湾を中心とする国大共同研究チームによって開始された。このプロジェクトは、太陽系形成初期にできた微惑星の痕跡を留める小天体を観測し、太陽系の歴史を探ることが目的で、太陽系外縁部の氷の世界がターゲットだ。プロジェクト名のFOSSILは、英語で「化石」の意味を意味し、「太陽系の化石を見つけ出す」との思いが込められている。

アンモナイトは2023年3月、5月、8月のすばる望遠鏡による観測で発見された。その後、2024年7月にすばる望遠鏡と同じマウナケア天文台群に位置するカナダ・フランス・ハワイ望遠鏡による追観測が行われ、詳細な軌道が判明した。

さらに、データアーカイブの過去画像も調査された。その結果、2021年と2014年にはチリ北部にあるセロ・トロロ汎米天文台に設置されているビクター・M・ブランコ4m望遠鏡に搭載されたダークエネルギーカメラ「DECam」が、2005年には米・アリゾナ州のキットピーク国立天文台が、それぞれアンモナイトを撮影していたことが判明。これらにより19年にわたる観測データが揃い、アンモナイトの軌道の正確性を大幅に高めることに成功した。

  • 新天体アンモナイトの軌道(赤線)と、他の3つのセドノイドの軌道(白線)。アンモナイトは近日点に近い、太陽からの距離が71天文単位(太陽〜地球間平均距離の71倍)の位置で発見された。黄色の点は2025年7月時点での位置
    (C)国立天文台
    (出所:すばる望遠鏡Webサイト)

  • すばる望遠鏡のHSCで撮影されたアンモナイトの移動の様子を示すアニメーション。観測時の明るさから、アンモナイトの直径は220〜380kmと推定されている
    (C)NAOJ/ASIAA
    (出所:すばる望遠鏡Webサイト)

新天体「アンモナイト」の軌道は45億年も安定。“第9惑星”への影響は?

アンモナイトは、準惑星候補の1つであるセドナを代表とする、太陽系外縁部を特異な軌道で公転する小天体群セドノイドの4番目のメンバーだ。セドナは、 太陽に最も近づく近日点が約75天文単位、最も遠ざかる遠日点が1000天文単位弱と、きわめて太陽から遠い軌道を公転する天体だ(海王星は約30天文単位)。またセドノイドの中には、既知の太陽系天体として屈指の遠日点(2000天文単位以上)を持つ「レレアクホヌア」(通称:ゴブリン)も含まれる。

今回の研究では、国立天文台が運用する計算サーバーなどを用いて、アンモナイトの軌道進化に関する数値シミュレーションも実施された。その結果、アンモナイトは少なくとも45億年間、安定した軌道を維持していることが判明。加えて、現在は他のセドノイドとは異なる軌道を持っているものの、約42億年前は非常によく似た軌道だったことも示唆された。

現在のアンモナイトが他のセドノイドと異なる軌道を持つ事実は、太陽系外縁部が従来考えられていた以上に、多様で複雑であることを示唆するという。加えて、近年存在が取り沙汰されている未知の第9惑星「プラネット・ナイン」にも、新たな制限を与えるという。

今回の数値シミュレーションは、もしプラネット・ナインが存在すると仮定した場合、その軌道は従来の予測よりもさらに外側にあるべきことを示唆しているとする。アンモナイトの現在の軌道が他の3つのセドノイドと一致していないが、それはプラネット・ナインが存在する可能性が低いことを示唆するものだ。また、アンモナイトが他のセドノイドと軌道が分離した原因は、かつて太陽系から放り出されてしまった惑星の影響があるかも知れないとしている。

アンモナイトの軌道は、海王星の重力の影響がほぼ及ばないほど遠方にある。それにもかかわらず、大きな近日点距離を持つ楕円軌道で公転する天体が存在することは、その形成時期に何か特異なイベントが生じたことを示唆しているという。アンモナイトのような特異な太陽系外縁天体を発見し、その軌道の変遷を解明することは、第9惑星の存在や、太陽系形成史の全貌を明らかにする上できわめて重要としている。