NTTドコモは2022年、NTTコミュニケーションズ(NTT Com)とNTTコムウェアを子会社化し、新NTTドコモグループとして活動を開始した。その中で法人事業ブランド「ドコモビジネス」を手掛けるNTT Comが、2025年7月1日より社名をNTTドコモビジネスへと変更し新たな一歩を踏み出した。
そこで今回、NTTドコモビジネス(旧 NTT Com)の代表取締役社長を務める小島克重氏に、社長就任からの約1年間を振り返ってもらうとともに、NTTドコモビジネスとしての今後の方針を取材した。
中堅・中小企業向けの販売拡大に向け仮説検証中
小島氏は2024年6月13日付で社長に就任。ここまでの約1年間の活動について、「社長は思っていたよりも大変」だと振り返る。
2024年度決算は増収減益だった。PSTN(Public Switched Telephone Network:公衆交換電話網)マイグレーションなど一過性の影響を除けば増収増益ではあるものの、「当初思い描いていたところには達していない」(小島氏)という。
NTTドコモ2024年度の決算を見ると、DX(デジタルトランスフォーメーション)需要の高まりを受けて大企業向けのソリューション販売は2桁成長を果たしたものの、中堅・中小企業向けサービスはマイナス成長と課題が残る。
特に中堅・中小企業向けの主力サービスを構成するモバイルは競合が多く、また、顧客企業も数が多く業種が幅広い。こうした状況に対し、NTTドコモビジネスはセグメントマーケティングを強化する。パートナー企業と連携しながら、販売手法を検討している段階だ。
「最初の3カ月くらいは現状把握と仮説検証に苦労したが、少しずつ数値が上向きになり兆しが見えてきた。今年度は昨年度を上回る売上高で推移できている」(小島氏)
人口減少が進む地方では、後継者不足やITの専門人材の不足といった課題が顕在化している。そのため、同社は全国の営業拠点を中心としてICTサービスやDX支援を展開することで、全国各地の企業を支える。「ひいては、日本全体の経済状況の活性化にも貢献する」(小島氏)としている。
小島氏は同じタイミングでNTTドコモの社長に就任した前田義晃氏とも連携しながら、社内向けのメッセージ発信にも注力してきた。前田氏と一緒に、または小島氏が1人で、1年間かけて全国各地の支社を訪れたそうだ。
小島氏の社内とのコミュニケーションでユニークなのは、「コジー珈琲」の取り組み。これは、小島氏が社内のカフェスペースでコーヒーをふるまうというもの。社員と直接会話できる貴重な機会となっている。
1回目にコーヒーを配った際のアンケートには、社員から「小島社長を目の前で初めて見た」と回答があったという。これがきっかけの一つとなり、より密なコミュニケーションを図るために、「コジー珈琲」をはじめ意識的に時間を作って社内でコミュニケーションを取るようにしている。
NTT Comからの社名変更「さみしさはない」
慣れ親しんだNTT ComからNTTドコモビジネスへと社名が変更となるが、小島氏は「さみしさはない」と話していた。
NTT Comは1999年に、NTT東日本やNTT西日本らと同じタイミングで分社化。以来、NTT法の規制を受けない独自の立場を強みに、国際通信やデータセンター、セキュリティなど新規事業を多く立ち上げてきた。
上記の通り、中堅・中小企業へのビジネス拡大もその一例だが、モバイルやIoTなど企業のDXを支えるソリューションは需要が高まっている。
小島氏は「私を含め、当社の社員はNTT Comの名前にそれぞれ思いや誇りを持っている」としながらも、「現在はチャレンジのステージが変わりつつある」と、事業の変革に伴う社名変更のタイミングを前向きにとらえていた。
社内では社名変更に伴い、これまで4回のアンケート調査を実施。第1回目の調査ではポジティブな意見よりも驚いたという反応が多かったという。しかし小島氏からのメッセージ発信や対話を通じて、最新の調査ではポジティブな意見がおよそ8割を占めた。
「社内でも一定のさみしさはあるようだが、前を向いて新たなチャレンジを受け入れてくれると感じる」と小島氏。
新社名がNTTドコモビジネスとなったことで、これまで以上にドコモグループの一員であることが強調された。同社は中堅・中小企業から大企業まで、NTTグループ全体の商材を扱えるという従前からの強みをそのままに、ドコモグループとなったことでモバイルを活用したソリューションの販売をさらに強化する。
自由な働き方やリモートワークの需要が高まる昨今において、モバイル端末の活用を前提としたDXの需要が高まっている。ここに対し、さらなるソリューションの展開と事業の拡大を狙うのだろう。
パートナーシップを強みに地域のDX推進し、共に成長を
同社は今後、単なるネットワークプロバイダーとしてだけでなく、多様な企業のビジネスパートナーとして共に成長する事業に注力。企業と地域が持続的に成長できる自律分散型社会を支える「産業・地域DXのプラットフォーマー」を、価値提供のコンセプトに掲げている。
こうした戦略を表現するように、同社は6月に「AI-Centric ICTプラットフォーム構想」を発表。AI時代に適したICTプラットフォームを展開し、ネットワークと連携したプライベートAIデータセンターや分散型コンピューティングなどを提供する。顧客の事業を支援しながら自社も共に成長するサービスを手掛ける方針だ。
こうしたビジョンの中で、小島氏ならではの強みはどこにあるのだろうか。
「偶然にも、これまでのキャリアでいろいろな業界を経験し、キャリアの半分以上は法人向け事業に携わっている。そこで出会った方々はお客様でもあり、パートナーでもある。お客様の経営課題を当社だけで解決するのは難しさが増している。これまで一緒に仕事をしてきた方々が各社のキーマンになっているので、幅広い関係性を強みにパートナーシップの拡大につなげたい」(小島氏)