BlueMemeと九州大学(九大)の両者は7月8日、ソフトウェア開発のさらなる効率化・高度化に向けたネットワーク構造解析の研究を通じ、複雑なネットワーク(グラフ)構造の「見えない違い」を、スペクトル解析の枠組みで精緻に可視化する新手法を開発したと共同で発表した。

  • 今回の研究の概要図

    今回の研究の概要図(出所:九大Webサイト)

同成果は、BlueMemeと九大 生体防御医学研究所の藤田アンドレ教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、複雑ネットワークを扱う学術誌「Journal of Complex Networks」に掲載された。

高精度・高速・高安全性のネットワーク実現へ前進

現代の情報システムや社会構造は、複雑かつ巨大なネットワーク(グラフ)として捉えられる。従来の解析手法では、似通ったネットワーク間の微細な構造差を正確に把握することは困難であり、意思決定や異常検知の精度に限界があった。例えば、同じ通信ログでも、一方は正常挙動、他方は不正アクセスの兆候を含むといった“見えにくい違い”を的確に把握し、可視化する技術が強く求められていた。

研究チームは今回このような課題を受け、グラフ構造の違いを行列の固有値(スペクトル)で捉える従来手法を発展させ、各頂点がスペクトルにどのように寄与しているかを個別に解析する新たな手法「頂点ごとのスペクトル密度分解(vertex-wise spectral density decomposition)」を提案した。

今回開発された「頂点ごとのスペクトル密度分解」は、ネットワークを構成するノードごとの貢献度を数値化し、視覚的な把握を可能とする。これにより、グラフ全体を単一スペクトルとして扱う従来手法では捉えきれなかった、構造の細かな差異までも明確に示すことが可能となった。

ネットワーク解析は膨大な計算量を要する。特に、大規模かつ高次元のデータに対しては、従来のコンピュータでは処理能力に限界があったが、この制約を打破する鍵となるのが、量子コンピュータである。量子コンピュータの高並列処理能力と連携することで、数百万規模の遺伝子ネットワークや都市全体の交通のリアルタイム解析において、解析精度を維持しながら飛躍的な高速化を実現することが将来的に期待される。

将来的には、今回のスペクトル解析技術と量子AIを融合させることで、これまでは困難だった大規模かつ複雑なネットワーク解析が現実となる可能性があるという。そして主な応用例としては、製薬分野とサイバーセキュリティ領域の2分野が挙げられた。

製薬分野:新薬候補分子の効率的なスクリーニング

同じ分子式を持つ異性体や類似化合物のわずかな構造差を、スペクトル解析で識別。化合物選別の精度向上と新薬開発への貢献が期待されるとする。

サイバーセキュリティ:金融取引などにおけるネットワークの高精度な異常検知

ネットワーク通信やアクセス履歴の構造変化をスペクトルの変化として捉え、異常挙動や不正アクセスの早期発見が可能となるという。さらに、量子AIとの連携により、従来の解析限界を超えた高速かつ高精度な処理が可能になるとした。医療、物流、製造、金融などの多様な分野で、システム設計や最適化、予測などの高度な課題に対応し、意思決定や問題解決の質を根本から向上させる基盤技術としての活用が期待されるとした。

今回の研究は、従来のネットワーク解析の枠組みを超え、複雑化・多様化する情報構造をより深く、実践的に捉える新たなアプローチだ。その学術的意義に加え、医療、製造、金融、サイバーセキュリティなど、幅広い分野での実用化が期待され、社会や産業に大きなインパクトをもたらす研究として注目される。BlueMemeは今後も、今回の研究をはじめとする先進的な技術開発を通じ、多様な領域での課題解決と価値創出に取り組み、社会全体の発展に貢献していくとした。

今回の成果に対し藤田教授は、「本技術により、これまで見えにくかったグラフ構造の違いをより詳しく明らかにできるようになりました。例えば、見た目は似ていても異なる性質(スペクトル密度)を持つ2つのネットワークがあったとします。これらが別々の仕組みで生成されたことは分かっていても、『具体的にどの部分(ノード)が異なるのか』は分かりませんでした。今回のアプローチにより、その差異に関わるノードを特定できるようになり、IT分野においても、複雑なシステムの中で“どこがどう違うのか”をピンポイントで把握することが可能になります。今後は、システム設計や異常検知、最適化といった領域において、この技術が“構造の違いを読む力”として広く活用されることが期待されます」とコメントしている。