日本オラクルは7月8日、新たな会計年度を迎えたことに伴い、事業戦略説明会を開催した。同社は4月に東京証券取引所上場25周年、10月に創業40周年を迎えるということで、今年は節目の年となる。
取締役 執行役 社長の三澤智光氏は、米国本社の株が上がっている背景を次のように説明し、「Oracleが再成長を始めた」と、好調ぶりをアピールした
「契約済みの受注残を示す指標であるRPOが20兆円に達しているが、その8割がクラウドを締めている。さらに、33%が1年間で収益として計上される見込みになっており、ここが評価されている」
また、日本オラクルも2025年度の売上高は前年比7.8%増と、通期で過去最高を達成。三澤氏が同社に戻って現職に就いた2021年度の売上高は前年比減だったとのことで、「米国にならい、日本も再成長を遂げる会社となった」と同氏は述べた。
2026年度の重点施策「日本のためのクラウドを提供」
同社は、2026年度の重点施策として、「日本のためのクラウドを提供」「お客様のためのAIを推進」を掲げる。これは、2024年度、2025年度と3年連続で同じ内容となる。
「日本のためのクラウドを提供」の実現に向けては、以下5つの施策を講じる。
- ミッションクリティカル:ミッションクリティカルシステムをクラウドシフト
- AI:AI-Readyなデータプラットフォームを展開
- 専用クラウド:日本企業が提供するソブリンクラウドを展開
- マルチクラウド:あらゆるクラウドにAIデータプラットフォームを提供
- SaaS:ERP SaaSのリーダーの地位を確立、AIネイティブなSaaSによりアプリケーションのパラダイムシフトを牽引
三澤社長は常々、ミッションクリティカルシステムのモダナイゼーションを標榜しているが、今年度は同社が蓄積したナレッジをパートナーに展開することに注力する。モダナイゼーションに加えて、パートナーによるAI活用も支援する。
「基幹システムのモダナイゼーションをより加速させたい。これまで、主にオラクルが中心にクラウドリフトを進めてきたが、ノウハウをパートナーに展開することで、日本全体のモダナイゼーションに貢献したい」(三澤氏)
また、三澤氏は基幹システムのモダナイゼーションについて、次のように述べ、クラウドリフトの優位性を強調した。
「基幹システムには、オンプレtoオンプレ、オンプレtoクラウドの2つの選択肢がある。われわれは基幹システムの移行をたくさん経験しているが、オンプレtoオンプレの移行においてはかなりの確率で時間とコストがオーバーする 。しかし、クラウドリフトは期間も短く、コストも抑えられ、メリットがあることをわれわれは証明してきた」
モダナイゼーションについては、Alloyのパートナーと推進する。例えば、野村総合研究所(NRI)、富士通、NTTデータとはソブリンクラウドにおいて提携している。NRIと富士通のソブリン対応のクラウドは東西リージョンで稼働済みだ。NTTデータは今年12月に「OpenCanvas」を拡張したサービスの提供を予定している。三澤氏は「今年は日本からソブリンクラウドを提供する年になる」と語った。
同日、日本の企業・団体によるAI活用のイノベーション推進と、ソブリンクラウドの導入加速を目的として、「ジャパン・オペレーション・センター」の開設が発表された。
同センターは、「Oracle Alloy」のパートナー企業に対し、運用ノウハウの提供や技術支援を通じて、クラウドおよびAIサービスの提供とビジネスの拡大を支援する。
また同センターは24時間365日の体制で稼働し、業界トップレベルのSLA(Service Level Agreement)に準拠したエンタープライズ向けのサポートを提供する。
「ジャパン・オペレーション・センターはソブリンクラウド要件を満たすために開設した。これにより、日本国内でクラウドのオペレーションもできる環境を整備したが、日本のクラウドベンダーとしては唯一といえる」(三澤氏)
2026年度の重点施策「お客様のためのAIを推進」
もう一つの施策「お客様のためのAIを推進」に向けては、データプラットフォーム、SaaSを強化する。
データプラットフォーム
昨今、AIの分野ではAIエージェントの注目度が高まっているが、三澤氏は「静的なAI活用から、自律的なAIエージェント活用へ進化している」と語った。「今後、ユーザーインターフェースは自然言語になるだろう。AIが複雑なビジネスロジックを実行する時代が来ている」と同氏。
今後、AIネイティブな開発が主流になることから、「これまで以上にデータベースの重要性が増し、エージェンティックAI用のデータプラットフォームが必要になる」と三澤氏は指摘した。
同社が考えるAI-Readyなデータプラットフォームは、「マルチモーダルデータ、コンテキスト管理」「マルチLLM対応」「高度なセキュリティ、ガバナンス」「大量のトランザクションに耐えうるパフォーマンスとスケーラビリティ」といった性質を備えている。
「エージェンティックAIはとてつもない量のトランザクションを生み出す。これらのトランザクションを確実かつスケーラブルに処理できるデータベースはOracle Databaseしかない」(三澤氏)
SaaS
SaaSに関してはAIネイティブな進化を目指す。AIネイティブなSaaSとは、データとコンテキストを包含し、AIエージェントを実現するものを指す。
三澤氏は、一般的なERPでAIを利用する場合、Bolted On型となるため、外付け用の専用データストアでAIを回すことになるが、リアルタイム性を欠くことになると指摘した。
AIはデータの意味をあらわすコンテキストが重要でるため、これをいかにAIに食わせるかでAIの活躍度が決まることから(三澤氏)、Oracle Fusion Cloud Applications/Oracle NetSuiteでは、AIをBuilt in型としている。
つまり、同社のSaaSにはAIが組み込まれている。組み込まれたAIは無償で利用可能だ。三澤氏は「シングルデータモデルでデザインしている唯一のクラウドベンダー」と語っていた。
現時点で、Oracle Fusion Cloud Applicationsにおいて、152の生成AI機能と54のAIエージェント機能が利用可能だという。
三澤氏は最後に、「今後、AIプラットフォームを提供することが求められる。データのコンテキストを表すには、ベクトルデータベースとGraphデータベースを混在させることが重要。今、よりすぐれたAIアプリケーションに進化させられるようになってきた。AIがオラクルを再発見し、再発明してくれた」と、語っていた。