早稲田大学(早大)は7月3日、サッカーやラグビーなどの状況判断を要するスポーツ中に生じる「認知疲労」(長時間の認知的活動に伴う認知機能の低下)を軽減させるサプリメントについて、カカオの有効成分である「ココアフラバノール」のカプセルを2錠を運動の1時間前に摂取すると、認知疲労下で行う運動中の判断力が向上することを明らかにしたと発表した。
同成果は、早大 スポーツ科学学術院の塚本敏人講師、立命館大学 スポーツ健康科学部の橋本健志教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、行動に影響を与える神経化学的メカニズムを扱う学術誌「Psychopharmacology」に掲載された。
試合終盤の判断力を維持させるサプリメント開発に光
スポーツ、特にサッカーやラグビーのような有酸素運動主体の競技では、試合時間の経過と共に肉体の疲労に加え、認知機能が低下する認知疲労が生じる。認知疲労に陥れば、正確な状況判断が困難となり、試合序盤にはできていた適切な判断ができなくなる。その結果、ディフェンスにほころびが生じて失点するなどの事態につながるが、これはプロの世界でも珍しくない事態だ。
しかし、事前に摂取することで、認知疲労下の運動での判断力を向上させるサプリメント(栄養素)が存在したらどうだろうか。相手選手の判断力が低下する中、自分や味方選手の判断力が維持されれば、大きな武器となる。そこで研究チームは今回、安静時の精神的疲労感を軽減させる作用があり、カカオの有効成分で抗酸化作用を持つ栄養素(ポリフェノールの一種)であるココアフラバノールに着目し、その効果を検証したという。
研究チームは今回、認知疲労下での有酸素性運動前に高用量のココアフラバノールを摂取しておくことで、精神的疲労感が軽減し、低下する認知機能が改善する可能性を推測し、二重盲検無作為クロスオーバー試験により、高用量と低容量のココアフラバノールが入ったカプセル(各2錠)の摂取条件を設定して、比較検証が実施された。
具体的には、2錠のカプセルを摂取した1時間後に、認知疲労下の運動判断力(速度と精度)の測定を実施。サッカーを想定し、認知疲労は50分間かけて誘引するプロトコルが設定された他、心拍数、血圧、血液バイオマーカー(脳のエネルギー基質である血糖値と乳酸値、脱水の指標である血漿量、酸化ストレスマーカーのチオバルビツール酸反応性物質、神経細胞の成長を促す脳由来神経栄養因子)、気分(精神的疲労感、主観的集中力、意欲、不快感、イラつき、覚醒度)が評価された。その結果、高用量ココアフラバノールの摂取は、認知疲労下の有酸素性運動中の判断力向上につながることが確認された。なお、精神的疲労感などその他の測定データに影響は観られなかった。
今回用いられたサプリメントの効果は、カカオの木の実の種子から抽出された天然素材のフラバノール摂取によるもので、ドーピングの対象外である。類似食品には、緑茶のカテキン、りんご、ウコンのクルクミン、赤ワインのレスベラトロールなどがあるが、カカオが最も効率的なフラバノール摂取源とされる。
フラバノールは習慣的な摂取により、血管機能などを中心とした健康増進効果も確認されている。また、プロサッカー選手は認知症になりやすいとのデータもある中、競技前の高用量フラバノールの摂取による短期的効果だけでなく、長期的な認知症予防効果などが解明されれば、より有益なサプリメントとして認知される可能性があるとした。
一方で、高用量ココアフラバノールを摂取しても、運動時の精神的疲労感は軽減しなかった。精神的疲労感は、特に日々のトレーニングにおける重要な要素であり、今後はその軽減に向けたアプローチの検討が必要である。また、認知疲労下での運動判断力が向上に至った機序は未解明であり、今後のさらなる検証が必要としている。