将来宇宙輸送システム(ISC)は7月2日、Letaraと共同で、燃料内部に複数の中空筒を通すことで燃焼面積を保ち燃焼を安定させる「CAMUI型設計」を採用したハイブリッドエンジンの燃焼試験を実施したことを明らかにした。
3つの戦略で新たなエンジンの開発を進めるISC
宇宙輸送の高頻度化と低コスト化を目指すISCは、日本発の再使用型ロケット開発プロジェクト「ASCA(アスカ)ミッション」を推進している。現在取り組まれている「ASCA 1.0ミッション」は、このプロジェクトの初期フェーズとして位置づけられた技術実証機で、高度0.1km以上への上昇および着陸目標地点への誤差5m以内の着陸を目標とした各種データの取得が目的とされている。
ASCA 1.0ミッションにおいては、米国のエンジン専業メーカー・Ursa Majotと協業し、エンジン開発に向けた共同検討を進めているとのこと。またそれと並行して自社によるエンジン開発にも取り組んでいるといい、さらに第三の選択肢として、ISCとの間で2025年4月に包括連携協定を締結したLetaraとの共同開発による“ハイブリッドエンジン”に関する研究開発も進められている。こうした多岐にわたるエンジン開発の方針について、ISCは、エンジンがロケット開発における“肝”であることを踏まえ、性能・スケジュール・コストなど複数のリスクを分散させることが目的だとしている。
7秒の安定燃焼と5000N推力の目標を達成
そして今回は、Letaraと共同開発するハイブリッドエンジンに関する成果を目指し、7月1日に北海道赤平市のLetara試験場にてハイブリッドロケットエンジンの燃焼試験を実施。推力を効率的に維持しながら燃焼を継続できる構造であるCAMUI型の合成ゴム素材による固体燃料の着火・燃焼確認、7秒間の安定燃焼の達成、5000N推力の達成を目的とした試験を行い、3つの目標の達成に至ったとした。
なおISCによると、今回の試験ではHTPB(合成ゴム)という特殊なゴム素材を燃料に使用したとのこと。これまで広く用いられてきたプラスチック系燃料とは異なる新しい選択肢であることから、HTPBを用いたCAMUI型ハイブリッドロケットの燃焼試験を通じてその特性を把握することは、人工衛星打ち上げ用ロケットの開発に向けて必要な取り組みであるという。
ISCは、今回の安定燃焼時間7秒・推力5000Nを目指した燃焼試験の成功は、極めて大きなマイルストーンだとする。7秒間の連続燃焼は、燃焼挙動の安定性を確認するのに十分な時間であるうえ、この間に得られる大量のデータからエンジン内部の流れや燃焼の様子の精密分析が可能となる一方、5000Nという推力レベルでの試験を通じて、エンジン設計の信頼性に関するデータも得られたとのこと。同社は今後、得られた試験データに基づいて、Letaraと共同でハイブリッドエンジンを用いた人工衛星打ち上げ用ロケットの開発に関する検討を進めていくとしている。