サイボウズは4月15日、名古屋市内でkintoneの公式ユーザーイベント「kintone hive 2025 nagoya」を開催した。同イベントでは、独自システムを補完する形でkintoneによる業務効率化を図った豊田プレステージホテルの事例が紹介された。
「ユーザーファーストで広がるkintone」というタイトルの下、講演を行ったのは、社員ではなく、アルバイトでIT系の通信生大学に通いながらホテルの仕事を兼任している早田結菜氏だ。アルバイトという立場の同氏は、どのような形で業務効率化を実現したのだろうか。
紙による引き継ぎ、PCの共有が生んでいた課題
豊田プレステージホテルは、名鉄豊田線豊田市駅より徒歩4分の位置にあるビジネスホテルだ。豊田スタジアムに一番近いホテルのため、サッカー観戦の宿泊者が多いという。
同ホテルは、朝食や夕食の提供を行うレストラン、チェックインやチェックアウトを行うフロント、客室清掃を行うハウスキーパーという3つの組織に分かれており、ホテルの独自システムを10年ほど利用している。kintoneは、このシステムを補う形で導入された。
そして、同ホテルでは業務の引き継ぎをすべて紙で行っていたため、1年間で1000枚以上の紙を消費し、情報を探す際も1枚ずつ探す必要があり、大きな手間がかかっていたという課題があった。
また、社内の情報が分散している中、フロントにある5台のPCを社員全員で共有。PCはそれぞれ機能やインストールされているアプリが異なっていたため、このPCでないと作業ができないということが起こり、PCの順番待ちというタイムロスも発生していたという。
kintoneで引き継ぎアプリと社内ポータルを開発
そこで同ホテルは、kintoneを活用してこれら2つの課題を解決した。
まず、紙の管理にまつわる課題は、引き継ぎアプリを作成することで解決した。引き継ぎアプリでは、検索欄(プラグイン)を設けることで、見つけたい情報をすぐに見つけられるようにしたほか、デザイン面でも登録から1週間以内の最新のものがすぐ分かるように色分けする工夫を行った。
引き継ぎアプリは部署ごとに作成、ハウスキーパー部の画面では当日の清掃数などが分かるようにし、数が多い日は赤く表示するようにした。このアプリにより、引き継ぎ書の作成はなくなり、検索も簡単に行えるようになったという。
社内情報の分散化という課題は、社内ポータルを作成して解決した。社内ポータルは、部署ごとにスペースを作って、それぞれアイコンを使って使うアプリを見つけやすくした。これにより、情報の統一化に成功したという。
「どこにいても同じ情報を見ることができ、最新の情報も社内ポータルを開けばすぐにわかるようになりました」と、早田氏は効果を語った。
パソコンに不慣れなスタッフに使ってもらうための工夫
これら2つの仕組みを導入するにあたっては、大きく2つの点で苦労したという。
1つは、高齢のスタッフなど、パソコンに不慣れなスタッフにどうやって使ってもらうかということだ。この点に関しては、隣で作業を見ながら、マンツーマンで使い方を指導した。実際に手順を見てもらうことで、まったく使えなかった人も1カ月近くで操作できるようになったという。
また、操作方法も改善した。発注書の画面において、通常は、注文する商品と個数を入れてそれを一行一行追加していく形式だったところ、ボタン1つで商品を選択できるようにして、作業量を減らした。
もう1つの苦労は、新しい仕組みを使うことに対する抵抗の解消だ。
「『今まで通りのやり方ではダメですか』といった質問を多数受けていました。『慣れるまでに時間がかかり、操作を覚えるのも大変』という声も多数ありました。そこで、アプリを使う理由、アプリを使うメリット、作業がそれだけ減らせるのかを説明しました。その結果、利用がかなり広がったと感じます」(早田氏)
それまでも顧客管理アプリやExcelを使っていたが、すべてのシステムをkintoneに置き換えるのではなく、できない部分をkintoneで補おうと考え、運用しているという。
「すべての仕組みをkintoneで運用するとなるとハードルが高くなります。ですが、できない部分だけをkintoneでやるという心持ちになることで、アプリを作ってくれる人も増え、使ってみようという人も増えていきました」(早田氏)
kintone活用が生んだ想定外の効果とは
kintoneを使ったことで、当初、想定していた以外の効果も生まれたという。
その1つは、発注や修繕の履歴などがすべて記録に残っているため、それぞれの仕事が見える化できるようになった点だ。もう1つは、kintoneで、発注から在庫の管理まで幅広い管理が可能になった点だという。
そして、早田氏は今後の展望として3点挙げた。
1つ目は、さらなるアクセシビリティの向上だ。
「一目でわかるデザインを意識していますが、よりパッと見てわかるアプリの構造にしていきたいと思っています」(早田氏)
2つ目はアプリ間の連携強化で、在庫管理や発注管理をもっとスムーズに行えるようにして、他のアプリも使いやすいように改善していくこと。
3つ目は、グラフを活用した集計を行い、実践的に使えるような形にしていくことだという。
最後に早田氏は、今回の取り組みで一番大事だと感じた点はユーザーファーストだという点を強調して、講演を終えた。
「ユーザーの目線に立ってシステムを作る。これがシステムを作る上でも、システムを使ってもらう面でも大事なポイントになると思います」(早田氏)