日進月歩で進化しているAI技術。世界中が驚愕した生成AI「ChatGPT」が登場してからはや2年以上が経過するが、当時よりもより優れた技術や体験が実現されている。
一方で、筆者の場合は生成AIを十分に活用できているとは言い難い。取材準備として質問案を考えてもらったり、記事の校正をお願いしたりするなど積極的に活用はしているが、劇的に生産性が上がったかと聞かれれば、NOと答える程度でしか活用できていない。一番よく使うシーンは「他愛のない雑談」というのが実情だ……。
技術はものすごい勢いで進歩しているのに、その技術を扱う人間がそれに追いつけていない。もっと生成AIのポテンシャルを引き出せる使い方はないのか。
「そうだ!生成AIをサービスとして提供している企業の社員なら、生成AIの底力を発揮させる方法を知っているのではないだろうか」単純な思考回路を持つ筆者はそう思い立ち、生成AIを活用したAIアシスタント「Microsoft 365 Copilot (コパイロット)(以下、Copilot)」を提供する日本マイクロソフト(以下、マイクロソフト)の広報担当者に電話をかけてみた。
マイクロソフトの社員は「Copilot」をどう使ってる?
マイクロソフトの広報担当者が紹介してくれたのは、仕事とプライベートの両方でCopilotを普段から使い倒しているという業務執行役員の山田恭平氏。モダンワークプレイスGTM本部 本部長を務める山田氏が、Microsoft社員ならではのCopilot活用法を伝授してくれた。
音声入力×Copilotの時短術
最初に教えてくれたのが、音声入力機能(ディクテーション)とCopilotを組み合わせた使い方だ。
社内外でプレゼンを行うことが多いという山田氏は「私自身、頭の中を整理しながら話すのが大の苦手」と語る。そこで同氏は、音声認識を使用してテキストをディクテーションし、その文字起こしした発言内容をCopilotに整えてもらっているという。
実際にその流れをデモンストレーションしてもらった。プレゼンのテーマは「グロースマインドセットはなぜ重要なのか」。マイクロソフト社内向けに「グロースマインドセット」の重要性について説明しなければならないシーンを想定した。
まずWordを開き「ディクテーション」から「トランスクリプト」を選択。そして、グロースマインドセットがなぜ重要なのかを、音声で説明の順番などを気にせずに思いのままに話す。
すると、話した内容がそのままテキスト化されるので、ここからはCopilotに要約をお願いする。プロンプトも音声入力ができるため、山田氏は『あなたは社内に向けてグロースマインドセットがなぜ重要なのかという点をキャリアセッションの位置づけとして短いプレゼンテーションを行います。この文章はその考えをアウトプットしたものになります。より多くの社員に伝わるように、文章を成型してください』と音声で指示した。
すると、Copilotは「プレゼンテーションの台本」のような形式で、発言内容を要約してくれた。「グローバルな社員が多い」(山田氏)とのことなので、英語でも話せるように翻訳もしてもらっていた。
ここまででも十分に「業務の時間短縮」を実感したが、山田氏はさらにプレゼン資料の作成もCopilotに指示。すると先ほどのようやく内容に沿った資料がものの数分で出力された。
山田氏は「プレゼン発表だけでなく、上司・部下との1on1ミーティングの事前準備として、音声入力とCopilotを組み合わせた情報整理をしています。業務時間の短縮だけでなく自分の頭の中の整理整頓にもつながっています」と教えてくれた。
なお、山田氏のようなCopilot活用はマーケティング部門にとどまらず、さまざまな部門や業務レベルでも日常的に実践され、業務改善や顧客提案に生かされているという。マイクロソフト社内では、「カスタマーゼロ」と呼ばれている取り組みだ。
2024年12月に営業部を中心に部門を横断的に取り組んだ、「Copilotを徹底的に使う月間」では、繁忙期にもかかわらず、会議録画の徹底とCopilotによる要約を駆使した結果、業務が効率化し、提案資料作成やアンケート分析の自動化といった具体性のある活用が定着し始めた。この取り組みには、子育て中の社員も参加しており、徹底的に使うことを意識、実践することで、「短時間で重要情報を把握しやすくなる」など、多様な働き方の支援効果も得られたとのこと。
プライベートでも積極的に活用
マイクロソフトの社員は業務だけでなく、プライベートでもCopilotをよく使うという。話を聞いた山田氏を含め、「子育ての支援で活用する社員も多い」と教えてくれた。
例えば山田氏は、小学4年生のゲームが大好きな息子さんに「ゲームで遊ぶこと」と「勉強してもらうこと」を両立してもらうべく、Copilotに具体的な相談をしていた。
ブラウザの検索では、「子供にゲームをやめさせるためには?」「勉強集中方法」などと、抽象的な表現しかできないが、Copilot相手ならより詳細な“問いかけ”ができる。
例えば、山田氏の場合、
・ゲームができる日とできない日を定めている
・ゲームができる日の勉強ははかどるが、できない日は色々と後回しにしがち
・そうすると「勉強やったの?」と、どうしても聞いてしまう
・これはお互いにとって良くないと思う
・本人が自発的に宿題や勉強に取り組むための具体的な提案をしてほしい
と、ブラウザ検索なら長すぎる内容を音声でCopilotに投げかけていた。するとCopilotは、現在の状況に応じた解決策を提案してくれた。
「私の場合、仕事でもプライベートでも育児でも、少しでも違和感があれば、全部言語化してCopilotに投げかけていますね。そして重要なことは、『このことについていくつか質問してもらえますか?』といったようにCopilotからも質問してもらうこと。質問したりされたりを繰り返すことで、自分の考えだけではたどり着かなかった解決の糸口が見つかるケースもあるということです」(山田氏)
新たな「エージェント」機能でさらに効率化
また、Microsoft 365 Copilotでは、4月下旬に「Microsoft 365 Copilot Wave 2 Spring」という形で、Copilotへの新たな「エージェント」機能が追加発表された。これらのAIエージェント機能は、ユーザーの業務をより適切かつ、幅広く支援するために設計された役割別のAIエージェント。主なエージェントとしては、「Researcher(リサーチャー)」「Analyst(アナリスト)」「Interpreter(インタープリター)」などがある。
ResearcherとAnalystは、Microsoft 365 Copilotに搭載された推論型エージェント。Researcherは、複雑な調査業務の自動化が可能。社内外の情報を横断的に収集・要約し、たとえば「競合分析」「業界トレンド調査」「クライアント向け準備」「プロジェクトの状況把握」などに活用できる。
従来のCopilotがユーザーの指示に応じて情報を部分的に処理するのに対し、「まとめたいテーマ」を入力するだけで、社内外の情報を横断的に収集・分析し、一貫した構成のレポートを自動生成するのがResearcherだ。Copilotが単発の質問に強い「秘書型AI」だとすれば、Researcherは調査設計からアウトプットまでを担う「戦略アナリスト型AI」だという。
Analystは、複雑なデータ分析を自動化できる。OpenAIのモデルを活用し、Pythonコードを使ってデータを段階的に読み解き、仮説を立てながら検証・修正し、最適な結論を導くことが可能だ。例えば、複数のExcelからの需要予測、購買パターンの可視化、収益予測などに活用できる。
そして、Interpreterは、Microsoft Teams会議における多言語コミュニケーションを支援するAIエージェントだ。参加者は自分の母国語で話し、他の参加者はそれをリアルタイムで自分の言語で聞くことができる。
同時通訳のような体験を提供し、話者の声を模倣する音声合成機能により、自然で一体感のある会話を実現する。グローバル会議や営業・サポート対応、経営層のメッセージ発信などに活用され、言語の壁を越えた会議環境を支える。ユーザーの同意取得や管理者による制御、通知機能など、プライバシーとガバナンスにも配慮されている。日本語対応は現在パブリックレビュー中で、今後一般提供が予定されている。