【金融国際派の独り言】長門正貢・元日本郵政社長「トランプの米国拡張志向」

 トランプ大統領がパナマ、グリーンランド、カナダを米国の一部にすると発言した。

 

米国はそもそもアメリカン・インディアン原住民を駆逐して始まり、テキサスやカリフォルニア、アラスカ等を組み込みながら出来た国だ。

 トランプ発言の背景は何か。大きな戦略か、あるいは利潤目当ての彼一流のディールの一環か。考えるヒントとして、アリスター・クックの米国史観を紐解いてみたい。

 北米に最初に入った欧州の白人は16世紀初頭、スペイン人だった。中南米での略奪後、更なる金銀を求め北上する。黄金獲得は果たせなかったが、彼らは米国史に二つ貢献した。

 一つは原住民女性と直ちに懇ろになり、結婚を通じ白人として初めて北米定住を開始する。二つ目は野生バッファロー等の牧畜業を開始、北米の生産性を大きく高めた。しかし米国全域の征服は出来なかった。

 次に現れたのがフランス人だった。1534年、毛皮を求めてカナダ・ケベックから北米に入る。その後、五大湖、ミシシッピ川沿いに南下して行く。ルイジアナ州ニューオーリンズは「ルイ15世の摂政オルレアン公」に因んだ、北米産物を欧州に輸出するための港町である。

 フランス人の北米縦断の名残は今もある。Chicagoはチャイカーゴだろうにシカーゴと呼ぶ。Arkansasをアーカンソーと読む。Mississippi(ミシシッピ)ではSを二つ重ねる。

 フランス語ではSが一つだとズ・Zとの発音になってしまうため、SSと綴らねばならない。

 長らく米国のミス・ユニバース候補は多くミシシッピ川沿いから輩出されて来た。美形が多いラテン系の人々が、その地域に多く居住しているからだ、と言われている。

 ただ、フランス人にも高い鼻を超える戦略はなかった。北米を南北に縦断したにもかかわらず、その東西に拡がる北米全体には視野が及ばなかった。北米征服の機会を活かせなかったのだ。

 フランス人の北米到着から遅れること90年、1621年、英国で虐げられていた清教徒たちの、あのメイフラワー号が新天地を求めてボストン近郊のプリマスに到着する。

 結果的にはこのアングロサクソン系が主力になり、原住民を駆逐して米国を治めることになる。英国勢がスペインやフランスよりも戦略的だった、というのがクックの分析だ。

 ドイツからの移民がルーツであるトランプの今般発言。狙いはスペイン的かフランス流か、あるいは……。久し振りの米国拡張主義宣言の帰趨を注視したい。