
日本の立ち位置は
日本の立ち位置をどう取るか?
今は世界中が混沌として、先行き見通しも立てにくい時を迎える中、どう生き抜くのかが問われている。逆に言うと、新しい秩序を構築する好機とも言える。
私は「日本は繋ぐ役割と使命を担う時がきていると思います」と語るのは、キヤノン会長兼社長の御手洗冨士夫さん。
この混沌期でも、経済人は踏ん張っている。キヤノンも2025年12月期の第一四半期は増収増益。売上高は1兆円、営業利益は965億円をあげた。
これもこれまでの構造改革が効いてきた結果だが、これからの世界の情勢について「今後の為替動向の変化もあり、先行きが見えにくい」と御手洗さん。
しかし、どんな状況になろうとも、やるべき事をやり、しっかり経営に取り組むという御手洗さんの経営姿勢である。
繋ぐ使命と役割とは
日本は繋ぐ使命と役割を担う―ということについては、例えば米中関係においても言える。
日本は日米同盟の関係を維持しつつも「隣国・中国との関係もしっかり維持しないといけない」と御手洗さんは語り「米中の橋渡しをやることも今の状況ではとても大事」だと強調。
日中の国交回復が成ったのは1972年(昭和47年)、当時の田中角栄首相と先方の周恩来首相との信頼関係があって国交が回復したという経緯。
その前には、高碕達之助氏ら経済人が先方との交流を深め、政治の交流へと繋いでいった。経済人がリードした国交回復であった。
これも人と人との繋がりがあったから出来たということである。
政治と経済は不可分
日中国交回復当時、〝政経分離〟という言葉が使われた。
政治の争いを経済に持ち込まない。その頃、米国の陣営と旧ソ連邦の陣営の間で冷戦構造があり、資本主義対社会主義の対立という図式があった。
そこで政治信条の対立はさておき、経済の領域で友好を深めようという双方の同意から国交回復がなった。その時の言葉である。
しかし、それから50年余経った今、政治と経済は不可分となった。安全保障が経済に深く関わるようになったからである。
御手洗さんは経団連(日本経済団体連合会)会長の時代(2006―2010)、日中交流のため、度々訪中した。
その数は十数回になる。「胡錦濤主席、温家宝首相などのリーダーと日本の経済人との交流を深めることができました」と回顧。
結局は人と人の繋がりである。
政治と経済の領域のリーダーが〝率先して繋がる〟という役割を果たしてほしいものである。
可能性を掘り起こす
可能性、潜在力を折り起こしていく─。今ほど、このことが求められることはないのではないか。
人口減少、少子化・高齢化という流れは日本で当分続く。市場は縮小の方向を辿るということだが、国内市場も掘り起こせば、成長できる可能性を持っている。
アサヒグループホールディングス社長の勝木敦志さん(1960年=昭和35年生まれ)は、同社が2020年(令和2年)から進めているキーワードに、付加価値を高めていけば「まだまだ成長できます」と力強く語る。
日本の20歳以上の人口は約9000万人。このうち約2000万人はほぼ毎日のように酒を飲む。さらに約2000万人は月に1・2回を含めて、たまに飲む人達だ。
「残りの約5000万人の人はほとんど飲まないか、飲めないという人ですね。ただ、そうした方々もお酒のある場所が好きだったり、いろいろな触れ合い、コミュニケーション、繋がりが好きだという方々で、決してお酒のある場が嫌いなわけではないと。そういう人たちが気持ちを上げたいとか、逆に落ち着きたいという人もおられるわけですね」
視点を変えれば、この5000万人の層のニーズを深掘りしていけば、新たな市場が創出できるということ。
隣接領域を開拓する!
ビールの味がしながらも、ノンアルコールの新商品だとか、大人向け、贅沢な気分が味わえる清涼飲料水(アダルトソフトドリンクス)だとか、新領域の商品開発が相次いでいるのもそうしたニーズの深掘りだ。
最近は、健康を意識する傾向が強く、低アルコール飲料も人気。またビールそのものの〝味〟を追い求めて、濃いビールを作って、そこからアルコールを抜いた〝アサヒゼロ〟などにも人気が集まる。
内外でその傾向が強まっており、「グローバルにはBeer Adjacent Categories(ビア・アジェイセント・カテゴリーズ)、つまりビール隣接という形で商品化を推し進めています」と勝木さん。
同社の売上高に占める海外比率は50数%。新たな成長の糧として、海外市場開拓にも注力してきた結果だが、国内市場もまだまだ成長するという勝木さんの考えだ。
「ええ、ブルーオーシャンと言いますか、今後も市場を創造していけると思っています」
勝木さんが社長に就任したのは2021年春、4年が経過した中で一番嬉しかったこととは何か?
「就任後、すぐコロナ禍が始まったので、各事業場を回れなかったのですが、2022年6月から出張ができるようになって、世界各国の事業場を回り始めました。わたしが何者であって、何がしたくて、どんな未来に従業員と一緒に築いていくのか、ということをテーマに、タウンホールミーティングをいままで70回位やってきました」
現場との対話を重ねてきて、共に、顧客価値を高めることに自分たちの使命があると共感し合えたという。経営と現場が融合し合える企業は強い。
公益資本主義論の意義
この混沌とした状況下を生き抜くには、結局、「会社経営は誰のためにあるのか、何のためにあるのか」をよく考えることであろう。
『財界』誌で今年4月9日号でアライアンス・フォーラム財団代表理事・原丈人さん(1952年=昭和27年生まれ)の『公益資本主義論』を取り上げた。
自国第一主義がはびこり、専制主義国家が自由主義・民主主義国家の数を上回っていることもいわれる。ややもすると、時勢に流されがちになる昨今にあって、国の運営はもちろんのこと、企業経営、個人の生き方・働き方に一本筋を通すためにも、ここは一度立ち止まって、本質的かつ全体観のある問い掛けをする時だと思う。
「会社は社会の公器」として、『豊かな中間層づくり』を進めることで社会の安心・安定を築くために、自分たちは何をすべきかという問い掛である。
株主だけでなく、顧客、従業員、取引先、地域社会と全ステークホルダーとの縁や関係を今一度見つめ直そうという原さんの訴えだ。