GitLabはこのほど、DevOpsやDevSecOpsに関わる人々が集まるイベント「DevOpsDive2025~セキュアなAI活用を実現する3つの方法とは~」を新宿で開催した。本稿では、規制の厳しい医療機器業界において、GitLabを導入しプラットフォームエンジニアリングとセキュアな生成AI活用を進めるオリンパスの事例セッションをレポートする。
オリンパスが挑戦した「プラットフォームエンジニアリング」とは?
オリンパスは2021年に映像事業を譲渡、2023年には科学事業を譲渡し、現在は医療・メドテック分野へ経営資源を集中している。その中で、内視鏡など病変の早期発見や診断に貢献し低侵襲治療を実現する組込みソフトウェアの開発を手掛けている。このソフトウェア開発にプラットフォームエンジニアリングを取り入れているという。
ガートナーの定義によると、プラットフォーム・エンジニアリングとは、ソフトウェアの開発とデリバリを目的とした、セルフサービス型の開発者プラットフォームの構築と運用に関する専門分野とされる。自動化と標準化を通じて開発プロセスを最適化し、開発者の生産性向上に寄与することが求められる。また、開発チームの効率化と運用の信頼性を確保するための技術的アプローチとも考えられる。
オリンパスが手掛ける医療機器は、国により異なる多数の法規制がある上、それらの規制は増え続けるとともに厳しくなっている。また、開発サイクルが5~10年と長いものが多く、開発開始時の古い技術や開発インフラを継続して使用しなければならない。一方で、サイバーセキュリティやAIなど新しいテクノロジーが台頭したことでソフトウェア開発が複雑化し、オリンパスでは今後のソフトウェア開発費が膨れ上がることが予想された。
こうした課題に対し、オリンパスで開発インフラの整備を担当する柳田修太氏は「ソフトウェア開発の効率化とコスト適正化を開発インフラによって支えようと考えた。グローバルで利用可能、新しいテクノロジーにも対応する、効率的なリソース活用ができる、開発インフラを集中管理できる、法規制にも対応する、といった当社の要件を満たすDevSecOpsプラットフォームがGitLabだった」と、振り返った。
医療機器に搭載するソフトウェアは、初回の使用前にバリデーション(動作検証)を実施することが定められている。そのため、法規制への対応としてバージョンのコントロールが可能なツールが必要だったという。
導入障壁を解消するポイントは現場との連携
GitLabの導入時には、新しい開発ツールや開発手法の導入に対する抵抗感が障壁となったそうだ。そこで柳田氏らは、開発側の担当者と地道に定例会を開いて課題をヒアリング。その課題に対し柳田氏らの部署からGitLabやコンテナ環境を使った改善を提案し、実際にビルドやテストの速度向上を体験してもらった。
「開発者との密な関係性を構築したことで、徐々にGitLabを導入できた。現在は新規のプロジェクトを中心にユーザーが増えている」(柳田氏)
GitLabの導入後、柳田氏ら開発インフラを整備するチームは、GitLabのグローバルなサポート体制を活用しグローバル向けの教育を実施した。また、組込みソフトウェアの開発でありながらもGitLabを中心としたアジャイルな開発手法も浸透し始めているとのことだ。さらには、統合開発ツールであるGitLabの導入により、開発インフラ管理や運用に要するコスト低減にもつながっている。
生成AI活用によるソフトウェア開発の効率化にも期待
オリンパスは現在、GitLabに生成AIを搭載した機能群「GitLab Duo」の導入に向けた検討を開始している。特に検討の初期段階においては、生成AIを導入するための社内ガイドラインや導入ルートが無く、新たな障壁となっていた。その後、社内にAIガバナンスのチームが組成されるなど、一定程度は生成AIの導入に向けた動きが見られた。
AIガバナンスチームとのGitLab Duo導入に向けた検討の中では、社内のソースコードがGitLabの生成AIに使用されるリスクと、AIにより生成されたコードが他社の著作権を侵害するリスクの2点が大きく指摘されたという。
そこで柳田氏らは、オリンパスのコードを学習に使わないことを明記したMoU(覚書)をGitLabと締結したほか、リスクアセスメントを各部署で実施しガイドライン管理部門に申請。これにより社内ガイドラインの管理部門から承認を得て、開発チームでの試行を開始したとのことだ。
これまでの試行の結果、GitLab Duoによるソフトウェア開発効率の向上が期待できることが明らかになった。コード関連では、既存コードの理解やリファクタリングなど、主に調査・保守目的で有効と考えられる。
また、チャット機能の利用者からは、多量のコメントがあるIssueの要約機能など、要約によって作業効率が向上しているという声が寄せられている。また、GitLabの機能に関する質問に対しても生成AIから有用な回答を得られるため、マニュアルなどを参照しなくてもさまざまな機能を使えるようになった。オリンパスは現在、これらの結果をもとにGitLab Duoを正式に製品開発で使用するべく、動き出しているという。