ギブリーはこのほど、同社としては初となる生成AIやAIエージェントの導入・利活用「AIイネーブルメント」をテーマとしたイベント、「Givery Summit 2025 - AI Enablement Day」を開催した。

本稿では、同イベントで行われたセッション「日清食品ホールディングスが見据えるAIエージェントとの協働」の模様をお届けする。セッションには日清食品ホールディングス 執行役員CIO(グループ情報責任者)の成田敏博氏、ギブリー 創業取締役CAIOの山川雄志氏が登壇した。

  • 日清食品ホールディングス 執行役員CIO(グループ情報責任者)の成田敏博氏

    日清食品ホールディングス 執行役員CIO(グループ情報責任者)の成田敏博氏

全社にわたるAI活用推進が目標

成田氏によると、日清食品は「社内でAIを活用している人が限られてしまう」という課題を抱えており、AIの普及し始めた当初は1割~2割程度しか活用している人がいなかったという。

そこで、「DIGITALIZE YOUR ARMS (デジタルを武装せよ)」をスローガンに掲げ、全社でデジタル技術を活用した「業務改革」を推進する取り組みをスタートさせた。

このスローガンは「IT部門へ任せきりにするのではなく、社員一人ひとりが自主的に業務を見直し、自らデジタル技術を身につけて活用する組織文化を作ろう。そのために意識を変えていこう」という意味が込められている。

このスローガンの下、デジタル技術を活用した「ビジネスモデル自体の変革」「効率化による労働生産性の向上」を目指し、財務経理、生産、調達、営業などさまざまな部門で積極的な業務改革を推進しているという。

副題として「テクノロジーの進化に乗り遅れるな 自己研鑽なき者に未来はない」という言葉も掲げられており、成田氏は「日清食品のような非IT企業であってもAIを業務に取り入れ、学んでいかなくては進化に乗り遅れてしまう」とAIの活用の重要性を語っていた。

対話型AI「NISSIN AI-chat」を導入、その効果は?

日清食品は2023年、生産性を飛躍的に高めるためのツールとして、日清食品グループが独自開発した対話型AI「NISSIN AI-chat」を導入した。

「NISSIN AI-chat」は日清食品グループの社員のみがアクセスできる、情報漏洩リスクに対処した当グループ専用のChatGPTのこと。

同社では「NISSIN AI-chat」の社内での活用を推進するために、IT部門とセールス部門が連携して、全国8拠点からプロジェクトメンバーを選抜し、セールス業務への活用検討をスタートしたという。

「NISSIN AI-chatが活用できそうな業務」を部員自身で考え、対象業務で使用するプロンプトテンプレート(NISSIN AI-chatへの指示文のひな型)を作成することで、売り場企画の案出しや資料作成、市場調査など約30業務でNISSIN AI-chatの活用を実現したという。

こうしたセールス部門での事例を参考に、他部署でも同様のプロジェクトを実施し、現在はマーケティング部門や広報部門、サステナビリティ推進部門などさまざまな部門において200以上のプロンプトテンプレートが完成。NISSIN AI-chatの画面上で簡単に使用できる。

このように成功事例を軸にAIの活用を横展開していくという施策をとったことで、2023年8月には26%しかなかった全社の月間利用率が、2024年8月には52%にまで上昇する結果になったという。

  • 全社利用率の推移

    全社利用率の推移

教育プログラム「NISSIN DIGITAL ACADEMY」

さらに日清食品は、デジタル技術活用の一環として、社員のデジタルリテラシー向上をサポートする教育プログラム「NISSIN DIGITAL ACADEMY」を用意している。このプログラムは7つの重点領域(デジタルリテラシー・アプリ活用・システム開発・データサイエンス・デザイン思考・プロジェクトマネジメント)ごとに用意された多彩なカリキュラムを、オンラインで社員が自由に受講することができる

  • 7つの重点領域

    7つの重点領域

上記に挙げた7つの重点領域は「武器磨き(専門的な知見・手法)」「身体作り(汎用的な思考・働き方)」の2つのジャンルに分けられ、以下のような取り組みが行われている。

「武器磨き(専門的な知見・手法)」

デジタルリテラシー:セキュリティも含めた一般的なデジタルリテラシーの知識
アプリ活用:Microsoft365の各種ツールを徹底機に使いこなす
システム開発:業務効率化に必要なシステムを自ら開発する術
データサイエンス:データの分析・可視化や解析の手段や活用スキル

「身体作り(汎用的な思考・働き方)」

デザイン思考:デザイン思考に基く問題解決の方法論とその実践的な使い方
プロジェクトマネジメント:デジタル化企画・プロジェクト推進の方法論とその実践的な使い方

なお今後、日清ではAIエージェントの活用も積極的に推進していくといい、成田氏も期待を寄せていた。