三菱電機は5月28日、IR Day 2025を開催した。はじめに、執行役社長 CEOの漆間啓氏が2025年度の経営戦略について説明した。
同社は、グループのありたい姿として「循環型デジタル・エンジニアリング」を掲げている。循環型デジタル・エンジニアリングにより、「データの集約」「顧客の潜在課題・ニーズの把握」「新たな価値を創出」「幅広い顧客への価値の還元」というサイクルによって、社会課題の解決を目指す。
また、循環型デジタル・エンジニアリングの実現に向けてデジタル基盤「Serendie(セレンディ)」を構築した。Serendieは、データ分析基盤、事業領域を横断したサービスを提供するWebAPI連携基盤などから構成されている。
変革に向けて新たな価値の創出、経営体質の強靭化に取り組む
漆間氏は、2025年度から『イノベーティブカンパニー』への変革に取り組むと述べた。変革の実現に向けて、新たな価値の創出、経営体質の強靭化、サステナビリティの推進・風土改革を行う。
重点事業に投資を行い、25年度の見通しは売上高が2.5兆円、営業利益率9.3%と着実に成長しているという。価値再獲得事業においては、事業の見極めと収益性改善を継続する。
事業の見極めとしては、24年度までに5000億円規模の終息を決定、2025年度中に8000億円規模の終息・継続を判断する。見極めのポイントについて、「今後、あるべき姿を目指すうえで必要かどうか、価値を増大させるか、パートナーがやるほうが適しているのではないかなどを踏まえて、見極めたい。循環型デジタル・エンジニアリング企業に変わるために資源を集中させたい」と漆間氏は説明した。
成長投資としては、3年以内を目途に新たなM&A投資枠1兆円を計画している。投資の対象は既存事業強化、事業間シナジー創出、AI・デジタル領域の強化。
収益性改善に向けては、不採算事業の終息やグローバルサプライチェーン強化と資材部品共通化・集中購買の推進によって事業の体質を強化するとともに、関係会社の数を3分の1削減するなどして間接費用の最適化を図る。
デジタルを活用してイノベーティブ企業に向けた変革を
続いて、専務執行役 CDO 武田聡氏がイノベーティブカンパニーに向けた3つの取り組みについて説明を行った。
Serendieによるビジネスモデル変革
ビジネスモデルの変革は、Serendieによってコンポーネントを利用することで生まれるデータを起点に行う。武田氏は「われわれはコンポーネントを強みとしており、コンポーネントから生まれたデータを分析して新たなサービスを創出し、さらにデータから得られた知見をもとにコンポーネントに機能追加し、強みを強化する」と説明した。
2030年度までに、Serendie関連事業で1.1兆円の売上高を目指す。
デジタル基盤強化
IT・DX・AI に関わる部門が一体となった組織運営により、Serendie関連事業の対応力強化と業務プロセス改革を推進する。
デジタルイノベーション事業本部を新設し、DX・AI活用の推進部門、グループ会社の情報システム・サービス事業会社(3社)を統合した三菱電機デジタルイノベーションを集約した。これにより、分散していたDX人財4,000人が集約された。
加えて、IT・DXの活用による社内業務プロセス改革に1300億円を投資し、1900億円の費用削減効果を見込む。
同社は昨年から生成AIを活用しており、業務効率の倍増に向け、1,000以上のアイデアに基づく60の業務改革プロジェクトを開始しているという。
「生成AI活用のノウハウをパッケージ化して社外に展開するも考えている。現在、変種変量生産が求められているが、これに対応には自律的なオペレーションが必要。AIエージェントにより、現場に近いエージェントとしてバーチャル生産管理者を実現したい」(武田氏)
さらに、DX・オープンイノベーション拠点をグローバルに展開するため、横浜とボストンにそれぞれ拠点として「Serendie Street Yokohama」「Serendie Street Boston」を設立した。
武田氏は「自前で開発は行わない。Amazon Web Servicesやマイクロソフトといったハイパースケーラーと協業して最新技術を獲得する」と語った。
マインドセット変革
制度の整備、風土の醸成により、アジャイルなマインドセットを有するDX人財を拡充する。同社は30年度までにDX人財を2万人まで増やすという目標を立てている。武田氏は「デジタルによる変革にはアジャイルなマインドセットを持ったDX人財が不可欠」と述べた。
人財の育成に向けて、育成機関 「DXイノベーションアカデミー」 を設立し、認定制度や7つのスキルセットと学習コースを整備した。
ボトムアップの施策として、風土の刷新にも取り組んでいる。「文系人材もDXを理解し、改革を進めていく必要がある」(武田氏)として、ビジネスモデル変革や社内の業務改革をスクラムで進めるためにアジャイル研修を実施しているという。
また、実践型AI人材を育成するため開発環境を整備したが、開設10カ月の時点で178のPoCが進行中している。