SBI・北尾吉孝の「金融・IT・メディア融合戦略」、フジ・メディアHDの改革にも乗り出す

20年前は「ホワイトナイト」 今回は改革者として

「私どもがメディア事業に取り組むことが、フジ・メディア・ホールディングスの件と関連付けて捉えているが、必ずしもそうではない。メディアと金融、ITの融合を、我々の大戦略として行っていく」─こう話すのはSBIホールディングス会長兼社長の北尾吉孝氏。

 フジ・メディアHDの株主で、「物言う株主」として知られる米ダルトン・インベストメンツが4月16日、株主提案を公表。その中で現在のフジ・メディアHDの全取締役の退任、12人の社外取締役の起用を求めている。

 その候補の筆頭が北尾氏。だが北尾氏は、それに先立つ25年3月18日、日本経済新聞と金融庁が主催するイベント「FIN/SUM」で、「インターネットメディアをフル活用し、メディア・IT・金融を融合した生態系をつくっていく」という構想を明らかにしていた。

 北尾氏は「金融、ITにとってメディアというものが大事になってくる。その中で奇しくも今回、フジの問題が出てきている」と話す。

 この構想の背景にあるのは北尾氏の「危機感」。すでに米国では、この金融・IT・メディアの融合が進んでいるというのが北尾氏の認識。

 例えば、米大統領のドナルド・トランプ氏はソーシャルメディア・プラットフォームや、分散型金融(DeFi、ブロックチェーン技術を利用し、中央の金融機関を介さずに、自律的に金融サービスを提供する新たな金融システム)実現のための会社を早くから設立している他、テスラのイーロン・マスク氏はSNSのツイッターを買収して「X」とし、決済ブランドのVISAと提携してデジタル決済プラットフォームを築こうとしている。

「これで日本に来たら、大きくやられてしまう可能性がある。だから早く、当社もそれを作らなければいけないと躍起になっている」(北尾氏)

 加えて、「激変するメディアの立ち位置の中で、新たなメディア環境が誕生している」と北尾氏。「政治的言論を支配していたテレビネットワークや新聞など、従来の報道機関の影響が縮小」していると指摘する。

 米国では大統領選挙、日本では兵庫県知事選挙で、いずれもソーシャルメディアの影響力が、テレビ、新聞を上回ったというデータが明らかになっている。

 まだ、信頼度という点では既存メディアの方に高い数字が出ているものの、「どんどん落ちてきている。なぜなら、偏った報道や既得権益の主張通りの報道に対して、一般の人々はFed up with(ウンザリ)なんです」(北尾氏)。それに加えて、もはやネットは若者だけのものでなく、高齢者にも浸透している。

 当初はメディアとITの融合が起きていると認識していた北尾氏だが、それが金融と結びつく潮流が起きていると見た。

 ただ、前述の通り、既存メディアに信頼で後れを取っている要因は「フェイクニュースが多いのではないか」という印象。これに対して北尾氏は「AI(人工知能)を使って、フェイクに引っかからないような情報を提供する仕組みをつくらないといけない」と、AI活用で誤情報を防ぐ取り組みを提案する。

 その上で北尾氏はフジ・メディアHDに対し、意識改革、経営理念・ビジョンの確立といった改革の必要性を提案。フジ・メディアHDが提示した、5人の取締役を交代する人事案を「不十分」だとした。

 また、ダルトンと同様にガバナンス改革、不動産事業の切り離し、政策保有株式の解消、メディア事業の改革の必要性を強調。「本業であるメディアコンテンツ事業が、利益のほとんどを占める体制に持っていかなければいけない」

 北尾氏は、ダルトンが提示した自身以外の11人について、ネクシーズグループ社長の近藤太香巳氏以外は「全く関与していない」とする。北尾氏は電子雑誌事業などを展開する近藤氏をネット活用のメディアづくりに必要な人材と考えているようだ。

 そしてダルトンが取締役の総入れ替えを求めたのに対し、北尾氏は「全部排除という考えは取っていない」という立場。しかし同時に「敵対するとしたら徹底的に勝負する」と語り、フジ・メディアHD経営陣を牽制。

 4月30日にはフジ・メディアHDは現フジテレビジョン社長の清水賢治氏以外の取締役が全て退陣するという人事を発表。今後、総会に向けてどんな人事案を出すかが焦点。

 4月10日時点で、フジ・メディアHD株式については、村上世彰氏の長女・絢氏ら旧村上ファンド系が11%超、ダルトンが関連ファンドも含めて7%超、SBIグループの運用会社・レオス・キャピタルワークスが5%超と、ファンド勢で20%以上を保有している。ファンド間が連携しているかは不明だが、株主総会で委任状争奪戦を争える比率といえる。

 05年の旧ライブドアとフジとの経営権を巡る争いでは、北尾氏はフジ側の「ホワイトナイト」として登場。しかし今回は「20年前は珍しく判断が外れていた」として、立場を変え、改革を迫る立場となった。20年の時代の激動を表している。

 北尾氏はすでに金融・IT・メディアの融合に向けて動き出している。SNSに関する専門チームを立ち上げており、今後提携やM&Aを含め、「急速に組織体を充実させる」と話す。この組織がフジ・メディアHDと連携して動くことができるか、それとも独自の成長を目指すことになるかは、北尾氏がフジ・メディアHD取締役として選任されるかにかかる。