日立製作所は4月28日、2024年度通期決算を発表。2024年度は前年超えの9兆7,833億円の売上高に当たる売上収益、前年比4.4%増の6,157億円の当期利益(親会社株主帰属)と、増収増益を達成した。さらに、2025年度も増収増益の見込みだ。

このように好調をキープする同社だが、同日、4月1日付けで執行役社長兼CEO(最高経営責任者)に就任した徳永俊昭氏が新経営計画「Inspire 2027」(FY2005~FY2027)について説明を行った。新社長の下、同社はどんな戦略で臨むのか。

  • 日立製作所 執行役社長 兼 CEO 德永俊昭氏

Inspire 2027が目指す姿

德永氏は、2024中期経営計画について、「すべてのKPIが伸長し、キャッシュフローとROIC重視の経営が定着した。オーガニック成長へのモードチェンジを実現し、企業価値が大きく向上した」と振り返った。

そのうえで、持続的成長に向けた主要課題として、「収益性と資本効率の向上」「規律ある成長投資の実行」「不断の事業ポートフォリオ改革」「リスクマネジメントの継続強化」を挙げた。

これら課題の解決に向け、「Inspire 2027」では、環境・幸福・経済成長が調和するハーモナイズドソサエティの実現に貢献し、持続的に成長することを目指す。

推進体制としては、主力4事業をグローバル6極で展開、新設した部署である戦略SIB(Social Innovation Business)でOne Hitachiの成長事業を創出する。 主力4事業とは、「デジタルシステム&サービス」「エナジー」「モビリティ」「コネクティブインダストリーズ」だ。戦略SIBの詳細は後述する。「Inspire 2027」においては、「売上収益」「Adj. EBITA 率」「キャッシュフローコンバージョン」「ROIC」「Lumada」を財務KPIとする。

  • 「Inspire 2027」の推進体制

Inspire 2027の成長戦略

徳永氏は、Inspire 2027の成長戦略として、Lumada、Lumadaをコアとした主力4事業の強化、戦略SIBなどについて語った。以下、それぞれのポイントをお伝えする。

Lumada 3.0への進化

Inspire 2027のKPIとして、Lumadaの売上収益比率は50%と設定されており、日立の主力事業と言える。徳永氏は、投資の主な対象としてLumadaを挙げていた。

LumadaはIoTプラットフォームとしてスタートしたが、その後、GlobalLogicの買収によりデジタルエンジニアリングで進化し、「Lumada 2.0」となり、次は、日立のドメインナレッジで強化したAIでLumada 3.0を目指す。

徳永氏は、Lumada 3.0について「拡大しているインストールベースからデータを収集し、それらデータにドメインナレッジとAIを掛け合わせて価値に変換する。事業内容に明確にして、簡素化を図る」と説明した。

「Inspire 2027」では売上収益比率のKPIを50%としているが、長期目標として、80%を目指すという。徳永氏は、この数値を「高い目標」と評したうえで、その達成には投資はもちろんのこと、事業ポートフォリオ改革が必要と述べた。

具体的には、以下のような改革を掲げている。

  • ドメインナレッジを学習した特化型LLM開発
  • 主力4事業のサービス事業強化M&A
  • 他社インストールベースへのインターフェース強化
  • 成長性・収益性向上が見込めない事業の整理

Lumadaをコアとした主力4事業の強化

主力4事業においては、Lumadaをコアに据え強化を進める。

エナジー事業では、GXスーパーサイクルを捉えて成長持続し、サービス強化により収益性向上を目指す。具体的には、拡大する送配電システム市場での成長を加速させる。

  • エナジー事業の戦略

モビリティ事業では、HMAX(Hyper Mobility Asset Expert)ソリューションを通じてサービス事業を車両・鉄道インフラ全体に拡大する。HMAXは、NVIDIA AIテクノロジーを搭載した鉄道事業者向けの管理プラットフォーム。デジタルモビリティサービスの拡大が見込まれることから、その市場を狙う。

  • モビリティ事業の戦略

コネクティブインダストリーズでは、事業ポートフォリオ改革を加速し、産業オートメーション市場での成長を掲げている。産業オートメーション市場では、バッテリー、バイオファーマ、高機能材料での成長を目指す。

  • コネクティブインダストリーズ事業の戦略

デジタルシステム&サービス事業では、DX(デジタルトランスフォーメーション)市場の拡大を捉えて成長と収益性向上を持続、Lumada事業をリードしていく。徳永氏は、「DX市場は国内外で成長が見込まれる中、OTとAIを融合するケイパビリティの強化に注力する」と説明した。

  • デジタルシステム&サービス事業の戦略

戦略SIB

前述した戦略SIBを統括するのは、シリコンバレーでLumada事業拡大をリードしてきた、執行役専務 戦略SIBビジネスユニットCEOの谷口潤氏だ。戦略SIBでは、CEO直下にOne Hitachiとしてリソースを結集する。同事業部における開発投資費は最大5000億円が見込まれている。

戦略SIBのミッションは新たな成長領域での事業創生、 R&Dによる持続的イノベーション創出など。戦略事業領域として、データセンター、eモビリティ、スマートシティ、ヘルスケアを据えている。

これらのうち、「生成AIによる規模が拡大しているデータセンターに特に力を入れている。アプリからエネルギーまで、われわれはトータルでデータセンターをインテグレーションできる」と徳永氏は語った。データセンターのエキスパートとして、Equinixからカウシック・ジョシ氏を獲得した。

  • 「Inspire 2027」の概要