静岡大学と福島県立医科大学の両者は4月21日、受精の成立には、卵子の“食作用”に類似した生理反応「SEAL」(Sperm Engulfment Activated by IZUMO1-JUNO Linkage and gamete fusion-related factors)が必須であることを発見したと共同で発表した。

  • 今回の研究の概要

    今回の研究の概要(出所:静岡大Webサイト)

同成果は、静岡大 農学部 応用生命科学科の齋藤貴子助教、福島県立医科大 医学部附属生体情報伝達研究所 細胞科研究部門の井上直和主任教授、同・和田郁夫名誉教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、ライフサイエンス全般を扱う学術誌「Cell Reports」に掲載された。

受精とは、オスの配偶子である精子とメスの配偶子である卵子が1つに融合して受精卵(胚)となる、生命の誕生の瞬間ともいえる生命現象だ。一見すると容易に行われているように思えてしまうが、精子と卵子が1つに融合できるのも、複雑な仕組みがあってはじめて成り立つ。たとえばヒトを含むほ乳類の受精では、精子側の配偶子融合因子のタンパク質「IZUMO1」(研究チームの井上主任教授らが2005年に発見し、縁結びで有名な出雲大社に因んで命名された)が、卵子側のIZUMO1受容体(卵子側の配偶子融合因子)であるタンパク質「JUNO」(ローマ神話において結婚と出産を司る女神に因んで命名された)を特異的に認識することで、精子と卵子の融合が成立する。

これまでIZUMO1-JUNO複合体を含め、細胞膜結合型の7種類の配偶子融合必須因子のタンパク質群(卵子の「CD9」、精子の「SPACA6」、「TMEM95」、「FIMP」、「TMEM81」、「DCST1」、「DCST2」)が同定されているが、これら分子の作用機序やよ受精成立への寄与の詳細は不明だった。そこで研究チームは今回、多数の遺伝子改変マウスを用いてそれらを解析したという。

上述の通り、精子のIZUMO1と卵子のJUNOが結合することで配偶子間の認識が行われるが、この過程には卵子表面に無数に存在する微絨毛が重要となる。両者が結合しIZUMO1-JUNO複合体が成立した後、卵子上の微絨毛は精子頭部に集合し、精子との接着面では、先端が葉状に広がった「ラメリポディア」(「波うち膜」や「膜状仮足」とも呼ばれる)様構造体である「Oocyte tentacle」(直訳すると「卵母細胞触手」)が形成される。

  • 精子が卵子に接着した直後の様子

    精子が卵子に接着した直後の様子。卵子の微絨毛が精子に接着し、「Oocyte tentacle」が形成されている。この後、SEAL形成に進み、最終的に精子は卵子に飲み込まれる(出所:静岡大Webサイト)

そしてその後、配偶子融合必須因子であるSPACA6など、上述した7つの因子が協調して、まるで卵子が精子を食べるかのような生理反応のSEALを惹起し、配偶子融合を経て受精が成立することが明らかにされた。IZUMO1、JUNO、CD9、SPACA6など、これまでに同定された精子と卵子それぞれに備わる、合計9種類の融合必須細胞膜結合型タンパク質は、それぞれSEAL活性化の異なるステップを制御することが示されたのである。

なお、SEAL形成後の卵子表面では、必ずJUNOが消失していることも確認されたとのこと。卵子は精子を1つ受け入れて受精すると、2匹目を受け入れない多精子受精拒否機構を備えているが、これはその仕組みの1つと考えられるという。

研究チームは今後、SEAL形成の詳細な分子メカニズムを解析することで、マウスだけでなくほ乳類に共通の受精機構の解明が期待されるとする。また今回の研究成果の波及効果は大きく、細胞生物学・発生生物学のさらなる発展を促すと共に、生殖補助医療の進展にも貢献することが考えられるとした。さらに、ほ乳類の受精メカニズムの理解が深まることで、生殖異常の原因解明や治療法の開発にもつながる可能性があるとしている。