宇宙航空研究開発機構(JAXA)は4月18日、山川宏理事長による定例記者会見を都内で開催。2028年3月末まで引き続き山川氏が理事長を務め、JAXAの役割を拡大する姿勢を改めて示した。また、報道関係者からの質問に応えるかたちで、トランプ政権の影響への見方や、大阪・関西万博の手応え、さらに拡張ミッションに挑む小惑星探査機「はやぶさ2」の現状についても言及した。

  • 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の山川宏理事長。今春の人事で再任され、2028年3月末まで続投する

山川氏は2018年4月1日から2025年3月31日までの7年間、理事長を務めてきており、今春の人事で再任されたことで2028年3月31日までの続投が決まっている。

山川理事長は「2018年に就任して以来、国民の生活・経済も含めた国益と、政府の政策に貢献するために、JAXAの役割を拡大していくことに力を注いできた」と、報道陣からの質問に応えるかたちで7年間を振り返り、役割拡大のために国内外の政府や研究機関、産業界をはじめとするパートナーとの連携を強め、あるいは開拓を進めたと説明。安全保障関連や、2024年にはじまった宇宙戦略基金、「アルテミス計画」などグローバル規模の巨大な探査計画への参画といった、これまでの具体的な取り組みを挙げたうえで、「今後もJAXAの役割を拡大する方向性は変わらない」と強調した。

7年にわたる新たな第5期中長期計画は、以下の3つを重視して策定。宇宙航空研究開発分野の中核機関としての位置づけと、多分野との連携のための“結節点”としての役割を強化する方針を示している。

  • 国際情勢や産業構造の変革が進むなかでも、引き続き基礎的・基盤的研究開発と先導的な研究開発を進め、独創的な成果を創出すること
  • 日本の宇宙活動の自立性の確保や産業振興への寄与に向け、安全保障機関や利用省庁との連携推進、JAXAの産業振興策の整備・強化、宇宙戦略基金の運用などによる民間事業者の事業性・成長性を向上
  • 政府の宇宙開発利用や、日本全体の宇宙産業を支える技術的優位性・自立性の確保に継続的に取り組む
  • 第5期中長期計画策定にあたってのポイント

会見冒頭では直近の主な動きとして、国際宇宙ステーション(ISS)に現在滞在中の大西卓哉宇宙飛行士が、4月19日未明にISS船長に就任予定であることや、油井亀美也宇宙飛行士の2度目の宇宙飛行が決まり、スペースX「クルー・ドラゴン」Crew-11に搭乗し2025年7月以降に打ち上げられる予定であることを説明。これにより、日本人飛行士が連続でISSに長期滞在することになる。

  • 大西飛行士、4月19日未明にISS船長に就任へ

  • 油井飛行士の2度目の宇宙飛行決定

また、地球観測分野に関する話題として、北極の冬季海氷域面積が40年以上にわたる衛星観測史上で最小となったという同日18日の発表にも触れ、「(この現象は)地球規模の気候変動と関連するもので、気象や海洋環境への影響が懸念されるため、今後も継続的なモニタリングと解析を続ける。地球規模の観測データを追加し、研究解析を続けていくことはデータ継続性の観点において非常に重要であると、今回の観測成果からも改めて認識した」と述べた。

  • 北極の冬季海氷域面積が、40年以上にわたる人工衛星観測史上、最も小さくなったことが明らかに

報道関係者との質疑応答では、米国トランプ政権下での米航空宇宙局(NASA)の予算に関する話題が、日本に与える影響について質問が集中。山川理事長は、日本と米国の数十年にわたる宇宙科学分野における連携はとても有益であり、国際的な科学コミュニティにも大きく寄与しているとしたうえで、次のように述べた。

「(一連の報道は承知しているが、)米政府内における予算が決まるまでの長いプロセスの最初の段階だという風に認識していて、最終的には議会が決めるものだと私は思っている。我々としてどういうことができるか、政府と連携しながら対応を検討していくことになるだろう。現状まだはっきりしないことが多いので、まずは情報収集をしていく。私はトランプ政権になってから2回渡米しているが、今後どうなるか分からないというのが関係者共通の認識だ。(JAXAの観点からいえば)今、この時点で特に何か大きな支障があるわけではない」(山川理事長)

宇宙輸送分野に関しては、2025年度もさまざまなトピックがあることを山川理事長が紹介。新たに開発された温室効果ガス・水循環観測技術衛星「GOSAT-GW」や、宇宙ステーションへの物資輸送だけでなく技術実証プラットフォームとしての機能も盛り込まれた新型補給機「HTV-X」の打ち上げなどが予定されている。H3ロケットも今年度は打ち上げを重ね、さらに固体ロケットブースター(SRB-3)を装着せずLE-9エンジン3基のみで打ち上げる「H3-30形態」の飛行実証も行う予定だ。山川理事長は「多くの打ち上げが今年も続くことになる。具体的な打ち上げ時期は調整を進めており、改めて案内する」と述べた。

JAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」が何らかの異常を検知し、自動で機体の安全を確保する「セーフホールドモード」になっていることを、はやぶさ2公式Xアカウントが4月2日に発表したことについても質問があり、山川理事長は以下のように述べた。

「まずは非常に多くの応援をいただいており、ありがとうございます。セーフホールドモードの状況は今も変わっておらず、何が起こっているのか原因究明を続けている。詳細な状況把握と、そのためにどういった運用すればいいかという点を慎重に検討しているところ。具体的にいつ、次に何をするといった話は、まだ私の方では聞いていない。(拡張ミッションを続けられるよう)プロジェクトチームが一生懸命努力している」(山川理事長)

山川氏が2018年理事長に就任後、立ち上がった研究開発プログラム「JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ」(J-SPARC)への評価について問われると、「J-SPARCも、(2024年にはじまった)宇宙戦略基金も、どちらも重要。両方やっていく必要がある」と回答。

宇宙戦略基金は政府が方針を定め、JAXAが基本的な運用・選定を担当しているもので、その基金は産業界や大学・研究機関に配られる。一方J-SPARCは、JAXAが直接連携する各企業事業者のビジネスモデルの出口を見すえて、JAXAが伴走していくという趣旨の取り組みで、両者は考え方が異なるものだと説明した。

「JAXAが技術的な開発を支え、直接的に各企業やスタートアップのビジネスが花開いていくのを支援することについては、これまで多くの企業の参入を得て成果も出ており、その重要性を認識している。(前出の中長計画のポイントとして挙げた)JAXAの産業振興政策の整備・強化というのは、(JAXAの中で)人手をなんとか確保しなければいけない状況の中で、どのように効率的に両方の考え方の産業振興策を進めていくか、ということを今整理しているところだ」(山川理事長)

先日開幕した大阪・関西万博には、JAXAも多彩な展示を出展している。会場西側のフューチャーライフヴィレッジには「月に立つ。その先へ、」と題したJAXAの常設展示ブースを出しており、没入感ある高精細な映像や体験型コンテンツなどをそろえた。また、会場東側の日本館では小惑星「イトカワ」と「リュウグウ」のサンプル展示を行っている。

山川理事長は、1970年の大阪万博で目玉の展示だった「月の石」に並ぶような展示を日本も行えるようになったことは「非常に感慨深い」と語り、開幕初日はJAXAブースに多くの来場者が来ていてホッとした、とコメント。「若い人だけでなく、日本や世界中のさまざまな世代の人に見てもらって、元気になってほしい。個人的には宇宙の世界にどんどん興味を持って、実際に(そういった仕事に)携わってほしい。ぜひ会場に来ていただきたい」と呼びかけた。

  • 大阪・関西万博での展示内容を紹介する山川理事長(左)