東京大学(東大)は4月16日、半透性の中空糸を用いた新たな灌流システムを開発し、従来の培養肉製造法では困難であった厚みのある組織内部への栄養素や酸素の均一な供給を実現することで、これまでにないサイズの大型培養肉の作製に成功し、組織内部の細胞の壊死を抑制できることを実証したと発表した。
同成果は、東大大学院 情報理工学系研究科のニエ・ミンハオ講師、同・島亜衣特任助教、同・山本幹久大学院生(研究当時)、同・竹内昌治教授らの研究チームによるもの。詳細は、バイオテクノロジーの応用研究を扱う学術誌「Trends in Biotechnology」に掲載された。
従来の培養肉は、培養液に組織全体を浸した静置状態での培養が一般的であり、組織外部からの栄養素拡散に依存していた。そのため培養組織の厚みが数mmを超えてくると、栄養素や酸素が組織深部まで十分に届かなくなる。その結果、中心部の細胞が低酸素状態や栄養飢餓に陥り、最終的には細胞死、つまり壊死を引き起こしてしまうという課題を抱えていた。中心部の細胞の壊死は、筋肉組織の主要な構成要素である筋線維の正常な形成を阻害することで、筋繊維の配向が不均一となり、培養肉全体の食感のばらつきを生じさせる。さらに細胞の代謝異常は、培養肉特有の風味成分の低下にもつながる可能性があり、品質の面からも実用化に向けた大きな障壁の1つとなっていたのである。
そこで研究チームは今回、高精度の3Dプリンタを用いて、内部が空洞であり、細胞への栄養供給を可能にする半透性の膜を持つ極細の中空糸を、培養組織内に3次元的に均等に配置した独自のバイオリアクタ(培養装置)を開発し、この長年の課題であった厚い培養肉の実現と品質向上を目指したという。
今回のバイオリアクタでは、外部からの拡散に頼ることなく、また培養組織の厚みに依存せず、組織内部の個々の細胞にまで安定した栄養素と酸素を供給できる仕組みの構築が目指された。そして完成したバイオリアクタの性能の詳細な評価が行われた結果、中空糸の内腔を培養液が連続的に灌流し、その培養液中に含まれる栄養素や酸素が、半透性の膜を通して徐々に周囲の細胞へと効率的に供給される様子が確認できたとした。
また細胞の生存状態を詳細に評価するため、培養後の組織断面の染色画像を顕微鏡で観察した結果、従来の培養法と比較して、中心部を含む組織全体の細胞の壊死が抑制されていることが確認された。これは、中空糸が持つ半透性の膜の特性により、内部の培養液から外側の細胞へと、必要量の栄養素と酸素が適切に供給されていることを示唆するとしている。