新型コロナウイルス感染症の経験を生かし、新たな感染症危機などに備える新組織「国立健康危機管理研究機構(JIHS、ジース)」が1日発足し、4日に発足式が行われた。医療現場の情報を持つ国立国際医療研究センター(国立医療センター)と、さまざまな感染症の発生動向把握や調査分析機能を持つ国立感染症研究所(感染研)を統合し、今後も起こり得る重大な感染症危機への対応能力の強化が狙いだ。

JIHSは基礎研究から臨床研究までの研究開発、感染症危機発生時の先進的診療機能のほか、人材育成・国際協力機能も担う。理事長は國土典宏・前国立医療センター理事長が、副理事長に脇田隆字・前感染研所長が就任した。國土氏は1981年東京大学医学部卒業後、米ミシガン大学留学などを経て2007年東京大学大学院医学系研究科教授、17年国立医療センター理事長。現在68歳。

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    4月4日にJIHS(東京都新宿区)で行われた記念式の様子(JIHS提供)

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    國土典宏・JIHS理事長(JIHS提供)

政府は2022年6月に当時の岸田文雄首相が米国の疾病対策センター(CDC)のような感染症の基礎と臨床両方の研究を一体的に行う組織として「日本版CDC」を創設する方針を表明。翌23年5月に国立健康危機管理研究機構法が成立し、新組織づくりを進めてきた。

「コロナ禍」では初動体制の遅れや関係機関間の情報共有の不徹底などが問題になった。このためJIHSは感染症危機が起きた場合は厚生労働省や内閣感染症危機管理統括庁に科学的、客観的知見を提供することが求められている。

JIHSには災害派遣医療チーム(DMAT)の事務局も置かれ、平常時からさまざまな感染症の発生状況や対策について、国民の理解を深める情報発信も行うために「感染症情報提供サイト」もスタートした。

政府は2024年7月に「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」を閣議決定した。この行動計画は「幅広い感染症による危機に対応する社会を目指す」と明記し、「平時の準備の充実」を掲げた。JIHSは行動計画実施のために政府に的確な助言をする中核施設と位置付けられている。

福岡資麿厚生労働相は1日の閣議後記者会見で「(統合した)両組織の機能・役割を承継、発展させることで感染症有事の初動対応などの役割を担う新たな専門家組織となることが期待される。JIHSの設立を契機に地方自治体や国内外の機関などと一層連携を深め、わが国の感染症危機管理体制を強化し、次の感染症危機への備えを着実に進めていきたい」などと述べた。

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    旧国立国際医療研究センター(東京都新宿区、JIHS提供)

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    旧国立感染症研究所戸山庁舎(東京都新宿区、JIHS提供)