東北大学は3月31日、熱電発電デバイスへの応用が期待されるマグネシウム(Mg)・スズ化合物「Mg2Sn」の単結晶において、電気をよく流し熱は流しにくいという相反する特性を、空孔欠陥領域の制御により両立させ、n型とp型の両方で高い熱電性能を実現したと発表した。

  • 今回作製されたMg2Sn単結晶の高倍率透過型電子顕微鏡像と格子面の画像

    (左)今回作製されたMg2Sn単結晶の高倍率透過型電子顕微鏡像。(右)それから得られた格子面の画像(出所:東北大プレスリリースPDF)

同成果は、東北大大学院 工学研究科 応用物理学専攻の黄志成助教、同・林慶准教授らが参加する国際共同研究チームによるもの。詳細は、ナノ/マイクロスケールに関する全般を扱う学術誌「Small Methods」に掲載された。

身の回りで“無駄に”捨てられている熱は多く、そうした排熱を回収して有効活用するエネルギーハーベスティング材料として、熱電材料への期待が集まっている。熱電発電デバイスはn型とp型の熱電材料をπ字型に直列接続した構造で、デバイスの片面を排熱で加熱すると発電する仕組みとなっており、クリーンかつ振動や騒音の心配もない。そんなエネルギーハーベスティングの実現には、熱電材料の性能評価に用いられる無次元性能指数「zT」の向上が不可欠だ。

こうした背景から、研究チームはこれまでの共同研究で、Mg2Sn単結晶にMgの空孔欠陥(原子が欠損した点欠陥)を導入する作製法を確立していた。Mg空孔欠陥は単結晶内に均一に分布せず、凝集して微細な空孔欠陥領域を形成する点を特徴とする(空孔欠陥領域の周囲には、線状欠陥である「転位」が存在する)。

  • 熱電材料を使った熱電発電デバイスの模式図とMg2Sn単結晶の透過型電子顕微鏡像

    (a)熱電材料を使った熱電発電デバイスの模式図。(b)アンチモンで部分置換が行われたMg2Sn単結晶の透過型電子顕微鏡像(出所:東北大プレスリリースPDF)

この単結晶において、電子またはホールを増やすためアンチモンやリチウムで部分置換した結果、多結晶より高いzTが得られたとのこと。これは主に、電気伝導率が多結晶よりも高いことによるという。また、ホウ素で部分置換して化学的圧力を加えた結果、多結晶よりも低い熱伝導率を理論的な最低熱伝導率まで低減できたとのこと。これは格子欠陥が増加し、熱を運ぶ「フォノン」(固体中の原子の振動が量子化した準粒子)を強く散乱するためだ。このように、Mg2Sn単結晶は熱電材料として有望である。

以上の考察から、アンチモンやリチウムの電気伝導率増大効果と、ホウ素による熱伝導低減効果を両立できれば、実用レベルの熱電性能が得られる可能性があるとした研究チームは今回、Mg2Sn単結晶をアンチモンとホウ素で共置換したn型試料と、リチウムとホウ素で共置換したp型試料を作製し、その両方を詳しく分析したという。

今般作製されたn型試料とp型試料を調べたところ、両試料共にMg空孔欠陥が存在する単結晶であることが確認された。ホウ素置換による化学的圧力により、Mg空孔欠陥の量はホウ素置換量の増加に比例することが理由である。また、空孔欠陥領域の周辺には転位が確認され、ホウ素置換量の増加に伴い転位密度が増大することも明らかにされた。

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