愛媛県今治市に本社を置く国内最大手の造船メーカーである今治造船。瀬戸内海沿岸を中心にグループで10カ所の造船所を保有し、日本1位の建造量を誇る。1956年に鋼船の建造をして以来、3000隻を超える船舶を送り出している。
今治工場や丸亀工場、広島工場など各拠点がそれぞれ特化した技術や製造能力を持っており、全長約400メートル級のコンテナ船や環境配慮型のLNG燃料船など、幅広い船舶を手掛けている。
そんな同社は、2024年1月に経営企画本部配下にDX(デジタルトランスフォーメーション)推進室を新設。システム部門を経営企画本部に集約し、社員業務の負荷低減および効率化をテーマに会社としてDXを推進。今後加速する人材不足の解消につなげる取り組みだ。
その施策の1つが「経理業務の効率化」。同社は24年1月にTOKIUMが提供する「TOKIUM経費精算」と「TOKIUMインボイス」を導入した。紙ベースでの運用が中心だった同社の経理部門は、業務システムの導入を通じて、電子帳簿保存法とインボイス制度の法令対応に加え、経理部の業務効率化や大規模なペーパーレス化に取り組んでいる。
具体的にどのような成果が得られているのだろうか。今治造船 経理・財務本部 丸亀経理グループ 丸亀経理チーム チーム長の青井太吾氏に話を聞いた。
紙での運用が“当たり前”だった今治造船
今治造船が「経理のDX推進」に舵を切ったのは、コロナ禍において、さまざまな経理業務に関する課題が浮き彫りになったからだ。新システム導入前は、支払業務や経費精算において、紙ベースでの運用が中心だったため、業務が滞っていたという。
「請求書や経費精算書類に各部門の責任者がハンコを押して承認を行い、それを経理部門に回すといったアナログな運用をしていた。承認者が不在の時は待つ必要があり、業務プロセスが滞っていた。また、紙と従来システムに入力された情報が一致しないこともあり、確認などに多くの時間を割いていた」と、青井氏は振り返る。
他にも、ホッチキスに別の請求書が引っかかり行方不明になるようなアナログ運用ならではの事故もあったという。複数の拠点をもつ今治造船にとって、紙の処理に時間と手間がかかる承認プロセスは、大きな負担となっていた。
ペーパーレス化の必要性に加えて、インボイス制度と電子帳簿保存法への対応も欠かせない状況だった。そこで、法対応とペーパーレス化を同時に対応でき、業務場所を選ばないシステムとしてTOKIUMの導入を決断した。
電子帳簿保存法に準拠した経費精算クラウドのTOKIUM経費精算と、請求書受領クラウドの同インボイスを導入した。両サービスの特徴は、TOKIUM専任のオペレーターが99%以上の精度で入力を代行してくれる点だ。領収書や請求書、納品書などあらゆる書類をTOKIUMが代行で受け取り、すべて代わりにスキャンする。
取引先が紙文化の企業であっても負担をかけずに、完全ペーパーレス化を実現できるのが特徴。また、電子帳簿保存法の検索要件を満たしたデータ保存に加えて、領収書は専用アプリから領収書を撮影するだけで、自動的にタイムスタンプが付与される仕組み。申請者と経理担当者の負担を増やすことなく法対応できる。
青井氏は「ユーザーが意識することなく法対応できていることや、外出先でも申請・承認できる点がいい。また、アドオン開発することなく標準機能でさまざまな業務に対応できる。TOKIUMにフィードバックを送って、それを新機能としてシステムに反映してくれる点も導入の決め手となった」と、TOKIUMのシステムの選定理由をこう説明する。
新システム導入後に感じた課題
請求書や領収書の承認プロセスを根本から見直し、ペーパーレス化に踏み切った今治造船だが、新システム導入直後は現場からの反応がイマイチだったという。
「紙での運用に慣れ親しんだ従業員にとって、システム画面上で処理するという行為に抵抗感があった。今となっては笑い話だが『年寄りをいじめているのか』と声をあげる年配の従業員もいた」と青井氏は苦い顔を見せる。
また、従来システムを4年しか運用していなかったことも、一部の従業員が渋い反応をみせた要因の1つだ。「最近ようやくシステムになれてきたのに、また新しいシステムに替えるのか……」といった反応も少なくなかったという。
しかし、ペーパーレス化と法対応は待ったなしの状況だった。そこで、説明会やシステム操作のレクチャー会などを通じて、ユーザーの理解を深めていった。
「一気に導入を進めるのではなく、効果が出やすい部署と業務から着手した。請求書受領代行の利便性をユーザー自身が実感するスピード感と、他部署に展開するスピード感を合わせた」と青井氏は振り返る。
「また良いか悪いかは別として、TOKIUMには代理申請の機能があるため、本当にシステム操作が苦手な従業員に対しては、利用を強制しなかった。新システムになってペーパーレス化が実現したからといって、誰かを置いてけぼりにしては意味がない。実現できるところ、実現しやすいところから徐々に普及させていった」(青井氏)
「もう以前のような働き方には戻れない」
今治造船では新システム導入によって、具体的にどのような成果が得られたのだろうか。 「ペーパーレス化の実現によって、経理が請求書などを探し回ってハンコを貰って持ってくる業務や、支払チェック時の並べ替え作業、穴を開けてファイリングする業務などがなくなった。紙が回付されるまで承認されなかったものが、メールで通知されるので経理の負担が大幅に減った。正確に数値はできていないが、感覚として経理の業務時間を2~3割削減できた」(青井氏)
もちろん、ホッチキスに別の請求書が引っかかり行方不明になるような事故もなくなった。あるフロント部門の担当者は「現場から帰ってきて、封筒を開封して内容確認して従来システムに登録してというアナログな作業がなくなり、データ入力するだけで済むようになった」と新システム導入の効果を実感しているという。
「新システムに移行してから業務効率は断然に上がった。もう以前のような働き方には戻れない」(青井氏)
今治造船は今後、TOKIUMインボイスと同経費精算を活用し、経理業務のさらなる自動化と効率化を進める考えだ。
「導入後も打ち合わせなどを通じて、システムの改善点や追加してほしい機能といった要望をTOKIUM側に伝えている。すべてではないが反映してくれることも多く、システムがどんどん便利になっている。例えば、もともとTOKIUMのシステムには、数量や単価の情報を入力する項目がなかったが、当社での本番導入に合わせて新機能として追加してくれた。今後も積極的に要望を上げていきたい」(青井氏)