
2005年、ニューヨークで著名投資家カール・アイカーンと夕食を共にした。
『何で〇〇社を攻撃しているのか?』と聞くと『たまたま。大会社ならどこでもいいんだ』と答える。
彼が続ける。『大企業のCEOは前任者の大のお気に入り。細かい気配りや失敗回避に全力を尽くす、いわゆる「いい奴」だ。尖った所がなく、大戦略や緻密戦術が不得手で凡庸な経営に陥りがち。概ねチョロい』。
映画化もされた辣腕買収王にとっては、いかなる対象企業にも何らかの攻め手が見えるのだろうが、『その彼が企業と勝負する際、第一に注視するのがその企業のCEOなんだ』と得心した次第だ。
アイカーンに舐められないようなCEO、企業を一層飛躍せしめ得るCEOをどの様に選ぶのか。あらゆる組織にとって最重要・最優先の課題だろう。
GEのジャック・ウェルチが引退後出版した回顧録『jack』は479ページ・26章に及ぶ大著だが、その冒頭の序章は、いかに彼が腐心して後継者を選定したかという裏話だ。
20世紀最強の経営者・ウェルチにとっても最優先の課題だったのだ。
CEO選任は、従来から取締役会決議事項ではあるが、過去は取締役会が現職CEOの推薦者を後追いで承認することが多かった。単に現職CEO1人が指名決定していてはベストの人材が選出される保証はない。どうしたらいいのか。
賢い試みもあった。家康は徳川幕府の安定的継続の為、次期将軍・秀忠のみならず更に3代目・家光まで決めていたという。かつて三菱銀行では現頭取ではなく、さらに先輩の会長が現頭取とのバランスも考え次期頭取を選出していた由だ。
幸い、現在は説明責任が求められるガバナンス強化の時代だ。現CEOの言いなりではなく、中立的な取締役が複数の目で厳正に選定することが求められている。
独立役員が多数を占める指名委員会が後継CEOを選出するところも多い。
ただ社外取締役は毎月、1、2度しか出社せず全人材を知悉している執行部隊を超える人事情報は持ち得ない。執行部からの推薦候補者名簿や外部人事コンサルタントによる人材評価報告書の提供等、選出過程においては執行部の積極的協力が必須だろう。
後継CEO選出方法の一段の進化が求められている。
因みにウェルチ引退後、AAAだったGEは見る影もない低価値会社に陥ってしまった。20世紀最強の経営者・ウェルチが懸命に選んだ筈の後継者・ジェフリー・イメルトは結果的には失敗だった。良い後継CEO選出はかくも難しい。