New Relicは3月19日、オブザーバビリティプラットフォーム「New Relic」でAIを活用した新機能を発表した。同日に都内で記者発表会を開催した。

今回、「Response Intelligence」「Agentic Integrations」「Predictions」、顧客体験の改善によるビジネス貢献として「Streaming Video & Ads」「Engagement Intelligence」「Public Dashboards」の計6機能を発表した。

「Observability 3.0」を提唱するNew Relic

冒頭、New Relic 副社長の宮本義敬氏は国内ビジネスのアップデートとして「ユーザーが3万2000人を突破し、デジタルネイティブのお客さまだけでなく、伝統的な流通業や製造業、通信業、金融など、さまざまな日本国内のお客さまに活用されている。急速にNew Relicの活用が広がる背景の1つに参加者が延べ2100人のユーザー会の存在があり、自らのノウハウやユースケースを積極的に発信してもらっている。また、パートナーさんなどでの認定コンサルタントは500人に達し、支援してもらっていることも大きい」と述べた。

  • New Relic 副社長の宮本義敬氏

    New Relic 副社長の宮本義敬氏

次に、New Relic 執行役員 技術統括 兼 CTOの松本大樹氏は、新機能に関するロードマップビジョンについて説明した。同氏は2025年におけるオブザーバビリティのトレンドとして「成長過程にあるマーケット」「エンジニアのためだけのツールではない」「AIシステムの管理とAI活用の両輪」の3点を挙げている。

これら3つのトレンドは、同社のロードマップビジョンに反映されており、特に松本氏は「AIについては当社におけるロードマップビジョンのコアだ。オブザーバビリティツールの中にAIの機能を取り込み、使いやすくすることがトレンドになっている」と話す。

  • New Relic 執行役員 技術統括 兼 CTOの松本大樹氏

    New Relic 執行役員 技術統括 兼 CTOの松本大樹氏

オブザーバビリティ自体は、APM(アプリケーションパフォーマンスモニタリング)の登場を機に「Observability 1.0」としてアプリケーション以外のホストやブラウザ、モバイルなどあらゆるシステムの領域に広げた。ただ、サイロ化してしまうため、これを単一のプラットフォームとして統合してきたフェーズを「Observability 2.0」と位置付けている。

同社では昨年まで多くの機能をリリースし、インサイトを得ることが可能にはなったものの、情報量が加速度的に増加したことから人間が理解することが難しくなってきたという弊害があったという。そこで、同社では「Observability 3.0」を提唱している。

松本氏はObservability 3.0に関して「プラットフォームのAIエンジンを強化して、システムの変化や障害の理解・予知などを人間が簡単にできる仕組みで、AIが重要な役目を担う。AI for Intelligent Observabilityとして、すでに昨年からLLM(大規模言語モデル)を用いた『AI Assistance』や、ユーザー所有のAIシステムの性能やリソース状態を把握する『Ai Monitoring』をリリースしている。そして、Agentic AIとしてユーザーの要望の深掘りや自律的にエージェント経由で他システムとの情報やり取りを行う機能の提供に至っている。今後もこうした機能を拡充していく」と説明した。

  • AI for Intelligent Observabilityの概要

    AI for Intelligent Observabilityの概要

AIを活用した新機能群

今回の新機能はResponse Intelligence、Agentic Integrations、PredictionsがAIによるビジネスのアップタイム向上、Streaming Video & Ads、Engagement Intelligence、Public Dashboardsが顧客体験の改善によるビジネス貢献につながるものとして位置付けている。

  • 今回発表された新機能

    今回発表された新機能

新機能を説明したNew Relic コンサルティング部 兼 製品技術部 部長の齊藤恒太氏は、AIによるビジネスのアップタイム向上について「昨今では、デジタルサービスが常に利用できる状態を維持することが特に重要になっている。そのためにはシステムで発生するインシデントを検知して、解決していく時間を短縮しなければならない。一方、現状のインシデント対応はNew Relicを含めて、さまざまなツールやデータソースを駆使し、対応しなければならない」と指摘。

  • New Relic コンサルティング部 兼 製品技術部 部長の齊藤恒太氏

    New Relic コンサルティング部 兼 製品技術部 部長の齊藤恒太氏

問題発生から影響分析、過去の類型確認、因果分析、根本対策検討・実施まで、さまざまなツールやデータに対応する必要があることから、コンテキストの分断やツールを行き来してしまうなどの弊害があり、ひいては効率の低下、問題解決の長期化につながる恐れがある。また、障害などの検知は、問題が発生してからの対応になるため、初動対応の遅れが生じてダウンタイム長期化の要因にもなる。

こうした課題を解決するものとして、Response Intelligence、Agentic Integrations、Predictionsを提供する。Response Intelligenceは、ITSM(IT Service Management)などの外部ソースを含むすべてのメトリクス、変更、サービスをコンテキスト化して、インシデントの解決を迅速化。

また、すべてのテレメトリーデータを統合し、1つのビューで相互に関連付け、AIによって強化された影響分析と因果分析、過去のインシデントに基づいた緩和策のレコメンデーションを提供する。

  • Response Intelligenceの概要

    Response Intelligenceの概要

Agentic IntegrationsはAIエージェント間の統合を可能とし、New Relicの重要なオブザーバビリティデータと合理的なレコメンデーションをビジネス、テクノロジーのエコシステム全体に提供。ServiceNowやGoogle Geminiとのエージェンティックインテグレーションは、GitHub CopilotやAmazon Q Businessなど、New RelicのAIインテグレーションのエコシステム上に構築される。

  • Agentic Integrationsの概要

    Agentic Integrationsの概要

Predictionsは、機械学習アルゴリズムを活用した予測エンジンで単一のインタフェース内で履歴データの分析を行い、パターンを迅速に特定し、時系列メトリクスを予測する。問題発生前に予測を行い、システムパフォーマンスの向上やアップタイムの増加、収益の向上を実現するという。

  • Predictionsの概要

    Predictionsの概要

齊藤氏は「AIを活用したプラットフォームのアップデートにより、問題の検知から対応プロセスが変革し、問題解決を高速化してダウンタイムの短縮が可能になる。結果的に、ビジネスの稼働時間の向上につなげることができる」と強調する。

問題を把握してユーザー体験を向上させる

一方、顧客体験の改善によるビジネス貢献に関して同氏は「コロナ禍もありオンラインの消費が増加し、デジタルシフトが進んでいるが、WebサイトやECサイトなどを提供する企業にとってはオンラインにおけるコンバージョンをどのように向上していくかが重要な課題になっている」との見解を示す。

齊藤氏によると、コンバージョンを向上させるための1つの施策として、動画広告などでユーザーに期待する行動を取ってもらうことなどが挙げられるが、ユーザー体験が悪い場合は最終的にはサイトからの離脱やサービスの解約といった機会損失につながるケースがあるという。

こうした背景から、統合型のデジタルエクスペリエンスモニタリングソリューション「New Relic Digital Experience Monitoring(DEM)」の新機能としてStreaming Video & Ads、Engagement Intelligence、Public Dashboardsの提供により、課題の解決を支援する。

Streaming Video & Adsは、動画のユーザー体験品質(QoE)メトリクス、アプリのパフォーマンス、バックエンドインフラストラクチャ、広告分析を統合し、メディア配信パイプライン全体の総合的な視点を提供する。開発者と動画運用チームは、動画再生からバックエンドの問題まで、ストリーミングメディアの問題をすべて1つのプラットフォーム内で診断できるという。

さらに、ユーザーセッション分析では、動画再生、広告インタラクション、シーク操作などの詳細なタイムラインビューがカスタマーサポートチームに提供され、視聴者の満足度に影響を与える問題の迅速な解決を可能としている。

  • Streaming Video & Adsの概要

    Streaming Video & Adsの概要

Engagement Intelligenceは、ユーザーインタラクションや、レイジクリックなどの不満のシグナルを自動的に収集し、関連付けることで、手動の計装を必要とせずに即座にエンゲージメントに関する洞察を提供する。

セッションリプレイを使用するため、製品チーム、UXデザイナー、エンジニアは実際のユーザーインタラクションを確認して、ユーザー体験の向上やシステムに関する問題の修正を行うことができる。

また、AIで強化したセッションサマリーを提供し、関連性の高い瞬間をハイライトすることで、不必要なレビューの時間を節約するほか、組織が摩擦点を早期に検出してアプリケーションを調整することで、ローンチ前後のサイト放棄を減少させるという。

  • Engagement Intelligenceの概要

    Engagement Intelligenceの概要

Public Dashboardsは、ダッシュボードの公開機能でNew Relicの非ユーザーでもデータの共有に加え、権限の制御や期限の設定により安全に情報の共有を可能としている。

齊藤氏は「AIの変化でシステムが複雑化するとともにデータも爆発的に増加する中で、適切にコントロールし、迅速に意思決定を可能にしていくことがオブザーバビリティにも求められている。そのため、当社ではAIを中核とした機能のアップデートと、エコシステムでオブザーバビリティの民主化を進めていく」と力を込めていた。

  • Public Dashboardsの概要

    Public Dashboardsの概要

なお、Response Intelligence、Agentic Integrations、Predictionsはプレビュー版、Streaming Video & Ads、Engagement Intelligence、Public Dashboardsは一般提供をそれぞれ開始している。