三菱電機は、防衛システム事業の取り組みについて説明。「防衛、宇宙の高い技術力を活用し、安心・安全な社会の実現に貢献する」という基本方針を示すとともに、防衛システム事業における受注高および売上高を拡大し、2026年度には営業利益率10%を達成し、2030年度には売上高6000億円以上、営業利益率10%以上を目指す計画を打ち出した。また、将来的には、防衛システム事業をグローバルに積極展開し、海外事業を柱のひとつに育てる考えも示した。

  • 営業利益率10%以上めざす三菱電機の防衛事業、その強みと成長戦略を紐解く

  • 防衛システム事業の概況と強みについて説明した、三菱電機 常務執行役 防衛・宇宙システム事業本部長の佐藤智典氏

防衛事業の受注高は急拡大、「今後も高水準続く」

日本では防衛予算が大幅に増額し、2023年度から2027年度までの5年間の防衛力整備計画は約43兆5,000億円と、前5年間の約2.5倍の予算規模となっている。それにあわせて、三菱電機の防衛システム事業の受注高は、2022年度には1,400億円だったものが、2024年度は6,000億円に急拡大しているところだ。

三菱電機 常務執行役 防衛・宇宙システム事業本部長の佐藤智典氏は、「防衛力の抜本的強化に伴う防衛費増額を背景に、防衛システム事業は、受注高、売上高ともに拡大している。従来は多いときでも受注高は2,000億円台の水準であったが、それを大きく上回り、今後も高い水準が続くだろう。また、2023年度からの契約制度改善により、適正な利益が得られるようになっている。受注から納入までのリードタイムは3~4年が多く、2026年度には新たな制度で契約した案件がほとんどを占めるようになる」と述べた。

「防衛・宇宙」の技術保有、キーデバイスにも強み

三菱電機の防衛システム事業の強みについて、佐藤事業本部長は、「防衛に関する大規模システムにおいては、国産ミサイルやレーダーシステムのプライムコントラクターとなっており、衛星システムでも、静止軌道から低軌道の衛星に加えて、月探査、火星探査システムなど、多岐に渡る衛星システムのプライムコントラクターとして事業を推進してきた。防衛省やJAXAなど、防衛の大規模システムと衛星システムの双方に、多くの契約および納入実績がある。防衛と宇宙領域で高い技術力を保有している点が強みである」としながら、「安全保障においては、宇宙領域は必要不可欠となっており、防衛と宇宙の双方の技術を持っていることがこれからの強みになる」とも述べた。

また、国内外の顧客に対して、陸海空の様々な装備品の中核となるセンサーや情報処理システムを提供している点も強みにあげた。

防衛システムにおいては、レーダー、ミサイル、指揮システムで多くの実績があり、装備品の中核となるセンサーや、情報処理の技術も保有。「近年は装備品の運用方法が変化し、戦闘機や艦船などによる単体運用から、それらをつなげたネットワーク化による領域横断の運用が重視され、センサーや情報処理に付加価値が移行している。たとえば、センサーを活用した警戒管制レーダー、情報処理システムを活用した指揮統制、センサーと情報処理システムを活用した迎撃ミサイルシステムにより、レーダーによる発見から情報処理、ミサイルによる迎撃というサイクルを短時間で実行することに寄与している」と述べた。

さらに、最先端の高周波デバイスの開発や製造技術を社内で保有しており、デバイスからシステムまでを垂直統合で開発できる点も強調した。

高周波デバイス事業は、社内研究所や事業部門と連携し、先進技術の開発および製品化を推進。高品質デバイスの量産技術と製造実績をもとに、民生品を含めて50億個以上の出荷実績を持ち、これらを大型レーダーやミサイルシステムに組み込んでいるという。「社内に高周波デバイス事業を持つことは、防衛システムの要求に応じて、キーデバイスを柔軟に開発、製造し、複雑で高度な防衛システムの開発につなげられる」と語った。

宇宙領域も重視、人工衛星や望遠鏡の製造技術を活用

防衛省の国家防衛戦略では、「スタンド・オフ防衛能力」、「統合防空ミサイル防衛能力」、「無人アセット防衛能力」、「領域横断作戦能力」、「指揮統制・情報関連機能」、「機動展開能力」、「持続性・強靭性」の7つを重点能力と位置づけおり、これらの領域のすべてに三菱電機の防衛システム事業の技術が貢献できるという。

  • 防衛システム事業の主要な取り組みと今後の成長戦略を説明した、三菱電機 執行役員 防衛・宇宙システム事業本部 副事業本部長兼防衛システム事業部長の洗井昌彦氏

統合防空ミサイル防衛能力では、「センサーから迎撃ミサイルまで、国産による統合防空ミサイル防衛能力に貢献できる国内唯一の企業である。弾道弾、高速滑空弾などの高速、高機動の脅威に対して、レーダー技術で早期に発見、追尾し、精度の高い経路予測と射撃計算により、短時間でミサイルを射撃し、迎撃するシステムを実現できる。警戒管制レーダーでは新たな脅威に対する警戒監視の強化を進め、迎撃ミサイルシステムでは新たな脅威への迎撃能力の強化を進めることで、飛来するミサイルなどの脅威から国を守ることに貢献している」(三菱電機 執行役員 防衛・宇宙システム事業本部 副事業本部長兼防衛システム事業部長の洗井昌彦氏)という。

領域横断作戦能力は、従来の陸海空に加えて、宇宙、サイバー、電磁波を従来領域にまたがって活用することで、自衛隊全体の能力を高めるもので、特に宇宙領域の活用が重要になるという。洗井事業部長は、「三菱電機は、宇宙領域において、グローバルに活動する自衛隊向けに、円滑な通信を確保する防衛通信衛星や、宇宙デブリなどの監視によって、宇宙空間の安定的利用に貢献する宇宙設置型光学望遠鏡事業に取り組んできた。こうした長年にわたる国内外の衛星開発や製造実績を活用し、情報通信および宇宙領域把握能力の強化に貢献していく」と述べた。

ここでは、宇宙事業において培ってきた大型望遠鏡の製造技術と最新のレーダー技術を融合したディープスペースレーダーを地上に設置して、日本周辺の静止軌道上を常時監視。信号処理などの最先端技術を活用した電子戦システムでは、相手が発信する電波の収集、分析、妨害を行い、電磁波領域の任務遂行に寄与しているという。

新興企業との連携から海外展開まで、成長戦略も紹介

洗井事業部長は、今後の成長戦略についても触れた。

衛星観測ソリューションサービスは、スタートアップ企業のSynspectiveと連携して、高頻度で取得した衛星画像を提供し、データ分析に基づいた将来予測を提供するもので、衛星を利用したサービス提供型ビジネスの取り組みのひとつとなる。

認知領域戦支援システムでは、偽情報や戦略的情報発信を通じて、他国の世論や意思決定に影響を与える情報戦や心理戦などへの対応を図るもので、コグニティブリサーチラボとの共同開発により、生成AIなどの最新技術や脳科学、認知科学などの知見を活用。フェイクニュースや挑発行動、偽情報などの認知領域への攻撃情報をビッグデータとして収集し、AIを用いた解析によって、認知領域戦の支援を行う。

「人々の思考や認識への攻撃するものであり、有事だけでなく、平時から行われているものであり、対策がますます重要になる領域だ。SNSなどの情報、国内外への攻撃、思考を数値化して把握する。また、目的や影響度を判定したり、攻撃を受けた国内外の思考を改善し、正常化させたりする行動案を、理由とともに提示することになる。完成時期は言えないが、現時点で、かなりのものが出来上がりつつある」(洗井事業部長)

さらに、グローバル展開も強化する。

三菱電機では、防衛装備移転三原則に基づき、各市場の特性に応じた3つの事業戦略によって、グローバル事業を展開する。

東南アジア諸国市場では、完成品装備移転を行い、日本の抑止力向上に貢献するという。すでに、日本初の完成品装備移転として、フィリピン空軍向けに警戒管制レーダーを納入した。今後、固定型レーダーを2基導入する予定だという。

欧州、豪州、インド市場では、次期戦闘機のアビオニクスに関して、日英伊による国際共同開発を進めており、開発コストや技術リスクを分担することで、効率的に競争力を持った装備品の開発につなげている。

「次期戦闘機の機能や性能に大きな役割を果たす航空機搭載電子機器(ミッションアビオニクス)の開発に共同で取り組んでいる。量に勝る敵に対する高度なネットワーク戦闘、ステルス性、高度なセンシング技術が求められている。三菱電機は、F-2戦闘機に搭載したレーダーなどの開発実績と、先端技術の適用によるセンシング技術の向上に貢献。各アビオニクスのセンサー情報を統合し、複数の僚機間も含めたネットワーク戦闘を実現する」という。

また米国市場向けには、防衛産業のグローバルサプライチェーンに新たに参画することで、グローバルな安全保障に貢献。具体的には、RTXとの提携により、米海軍向け艦艇搭載レーダーSPY-6の構成品の供給、F-15戦闘機に搭載したレーダーの構成品の修理請負のほか、戦闘機搭載用ミサイルであるAIM-120の国産化に関する検討役務を防衛省から受注しており、これを進めることになる。

佐藤事業本部長は、「日本の装備品の技術水準は、諸外国に比べても高い。なかでもレーダーの技術は、世界最先端である。また、次世代警戒管制レーダーは世界初の技術を使ったものになる。今後は、海外パートナーとの連携やサプライチェーンのなかで事業を拡大していく」と述べ、「三菱電機の防衛システム事業は、日本およびアジア地域の安全保障を担うものである、装備品の提供だけでなく、技術を用いた抑止力の価値を提供することが、国民に対する安心安全な社会の実現に貢献する。しっかりと取り組み、社会に貢献したい。三菱電機の防衛システム事業について伝えることにも力を注いでいく」と語った。