山本昌仁・たねやグループCEO『常に本物であり続ける 美味しい素材を、より美味しくして届けるのがお菓子屋の使命』

たねやグループの今を具現化した場所「ラ コリーナ近江八幡」

 わたしたちグループは近江八幡発祥企業で、和菓子部門の「たねや」と、洋菓子部門の「クラブハリエ」を全国に47店舗を展開しています。

 実はこの「ラ コリーナ近江八幡」というたねやグループのフラッグシップ店は、本当は全く違うイメージの完成図で計画が進んでいました。しかし、お客様にわざわざ足を運んでいただくために、近江八幡の魅力や菓子屋として大切にすべきことを改めて考えると〝自然に学ぶ〟というテーマにたどり着いたんです。

 ですから、ここに小川や田んぼなど近江八幡の原風景をつくって、人々が来て癒されるような空間の中に店をつくるように変更しました。有難いことに、この年末年始も過去最高の来場者数でした。

 和菓子屋での修行時代に、師匠たちから教わったことがあります。それは、「自然の恵みである小豆一粒、米一粒に支えられて菓子屋は商いをしている。道具も自然の一部。われわれはそれで生きているのだ」ということ。師匠の教えで思いを強くした自然との共生思想が、いまのたねやグループの価値観や経営にも活かされ、このラコリーナ構想にもつながっています。

 ここではラコリーナ内をガイドが案内する有料の「ラ コリーナツアー」があります。わたしたちの取り組みや想いを開始当初は全員同じ内容で説明をしていましたが、今ではガイドごとにお客様に伝えることが違います。社員が自分なりに深掘りをして調べた知識をお客様と共感しながらお伝えする。〝わたしだけのラコリーナ〟を伝えてお客様にもそれを体感してもらう。そういう方式にしてから、来場するお客様の感動を生み、社員の伝える力も急成長しました。

 お菓子の販売も同じです。自分が食べて美味しいと思ったお気に入りの商品は、自発的に調べて熱意を持って人に伝えたくなります。嘘偽りなく、思ったままを、自分の言葉でお客様に伝えるのが、一番響きます。

 人が成長するのは自らが学ぶ姿勢になったとき。これが仕事を通して「自分になる」ということで、プロフェッショナルへの第一歩だと思っています。

現地に入り、一番美味しい状態をお菓子にして届ける

 行き先不透明な時代に生き残っていくには、見せかけや流行り廃りではなく〝本物〟であり続けないといけない。お菓子屋として当たり前の〝美味しい〟を実現するためには、生産地に行き現場を見て、素材の味を確かめることが必須です。

 例えば夏に出す「清水白桃ゼリー」という商品があります。生産地で食べるもぎたての桃は絶品ですが、これは地元の人しか食べられない味です。完熟の桃は実が柔らかいため輸送はできません。でも、現地で湯剥きしてゼリーに仕上げれば、もぎたての味を保存してお客様に届けられる。そういうことがお菓子屋としての出番だと思っています。

 気候変動も激しい中で、現地で話を聞くとそこにはたくさんのヒントがある。それを拾い上げて、わたしたちの商い、商品のセールスポイントに落としこんでいるのが、他社とは違うところではないかと思います。

 生産者がつくったストーリーある小豆などの農作物をいかに調理し、〝一番美味しい菓子〟としてお客様に伝えられるかがわれわれの使命だと思っています。