近年、「DEI」というテーマに対し、さまざまな意見があるものの、その重要性は広く認識されており、多くの企業にとっても重要なテーマとなっている。
DEIとは、「Diversity(ダイバーシティ、多様性)」「Equity(エクイティ、公平性)」「Inclusion(インクルージョン、包括性)」の頭文字からなる略称。全ての人々、特に歴史的に過小評価されてきたグループやアイデンティティや障害によって差別を受けてきた人々に対してフェアな扱いを促進するための組織的なフレームワークとなっている。
企業経営において「社員それぞれが持つ多様な個性が最大限に生きることがより高い価値創出につながる」ということを背景に、推進する企業が増えている取り組みだ。
電通では、DEIについて、受動的な勉強ではなくゲーム形式で能動的に考える「DEI CARD」を活用したワークショップを開催している。
本稿では、筆者が実際に体験したワークショップの内容をもとに、「DEI CARD」の取り組みについて紹介する。
答えのないクイズを考える「TALK DEI CARD」
電通は、「DEIの課題を解決して推進していくにはクリエイティブ思考が必要なはず」という発想の下、社員が日々の業務で行っているクライアントの課題を解決するためのクリエイティブ思考を「DEI」のフィールドでも疑似体験できるカードゲームとして「DEI CARD」を開発した。
この「DEI CARD」は、誰もが持っているアンコンシャスバイアス(無意識の偏見や思い込み)に気づくためのカードゲームで、「TALK DEI CARD(クイズの時間)」と「PLAY DEI CARD(みんなの相談室)」という2つの種類のカードゲームが用意されている。
「TALK DEI CARD(クイズの時間)」は、DEI関連のまだ答えのない問題をクイズ形式に集めたカードセットで、DEI関連のクイズが書かれた「クイズカード」とそのクイズのヒントになるような世の中の制度や事例などが書かれた「インスピレーションカード」によって構成されている。
ゲームは、この2つのカードを活用してグループごとに1つのクイズ問題に対し、さまざまな角度からアイデアを出し合う形で進められる。
クイズカードには「ジェンダー」「LGBTQ+」「障害」「多文化」「年齢」など、さまざまな多様性にまつわる内容のクイズが用意されている。具体的には「企業の採用活動で老若男女にかかわらず、デジタル人材を求人したいと思った時にどうやって採用するといいでしょうか?」や「会社に新しく男女関係なく使えるトイレを作ろうと計画しています。どんなトイレを作ったらいいですか?」といった内容が記載されている。
参加者はこのクイズに対して自分の見解を述べるのだが、その際に活用されるのがインスピレーションカードだ。
インスピレーションカードには、たくさんの海外や国内の事例が記載されており、偏見を防ぐために出演者の身元が審査員に隠された状態で演奏を聴く「ブラインドオーディション」や近年増加している女子のスラックス制服の事例など、DEI関連の最新の出来事が掲載されている。
参加者はそのインスピレーションカードの内容を読むことで、近年のトレンドや新しいアプローチの仕方を学んで、その内容を踏まえて自分なりの意見を考えることができる。
筆者が参加したワークショップでは「日本に女性の首相が誕生するにはどうしたらいいと思いますか?」というテーマに対して、さまざまなインスピレーションカードを用いながら意見を発表していた。
ラジオのお悩み相談に答える「PLAY DEI CARD」
もう1つのカードゲームである「PLAY DEI CARD(みんなの相談室)」は、ラジオの悩み相談のようにDEIに関連する悩み相談を擬似体験できるカードセットだ。
7枚1セットのカードで、1セットの中には、ラジオのリスナーからのお便りのようなDEIならではの相談が書かれた1枚の「相談カード」と、その相談を自分として答えるのではなく、いろいろな役柄になりきって考える役柄が書かれた6枚の「ロールプレイングカード」が入っている。
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「PLAY DEI CARD(みんなの相談室)」のカード カードは、さまざまな立場の方々へのインタビューなどをもとにつくられています。多様な視点における理解促進のため、一部固定観念を例にした内容が含まれる場合があります。
ロールプレイングカードには年齢・居住地・職業・性別・性格(ペルソナ)が記載されており、中には海外出身とか小学生であるといった設定、ノンバイナリー(性自認と性表現の2つにおいて「男女どちらでもない」もしくは「男女どちらでもある」と自認する人々)の設定なども用意されている。
筆者が体験させてもらったワークショップでは、「AIエンジニアになるのが夢だが周りから反対されている17歳の女性」からの相談に自分のロールプレイの役割の立場から回答した。
DEI CARDの開発を担当したBXクリエイティブセンター クリエイティブディレクターの勝又祐子氏は、「社内でDEIの情報共有会などは行っていたが、参加率も上がらず、興味関心を持ってもらえなかった。発表内容をCARDフォーマットにし、インスピレーションカードなどを使って、事例を共有する仕組みをつくったことで『普段の業務に生かせそう』と、興味を持ってくれる人が増えた」とDEI CARDの開発秘話を語っていた。
また、同じく開発担当のCXクリエイティブセンター クリエイティブディレクターの諏訪徹氏は、「人は生きている上で、考えが偏ってしまうことがある。ただ、考えが偏ること全てが悪いことではなく、その偏りからアイデアが生まれることがある。しかし、そのためには自分の考えの『偏り』に気が付くことが重要」だと言う。
顧客に日々クリエイティブな発想を届けている電通のワークショップは、まさしくクリエイティブに富んだものだった。