三菱電機は2月19日、兵庫・尼崎市にある先端技術総合研究所において、「グリーン関連研究開発」の取り組みを報道陣に紹介。開発事例として、先日発表されたそよ風発電や床発電のデモと、開発中のAIを活用した「プラスチックリサイクル向けスマート静電選別検証機」を初公開した。

  • 三菱電機の先端技術総合研究所

サステナビリティの実現を経営の根幹に据える三菱電機では、グリーンな社会の実現に寄与する事業の創出・拡大をめざしている。1月15日に発表した研究開発戦略では、同社が強みとする基盤技術にデジタル技術を掛け合わせ、社会・事業に大きなインパクトを与えるフォアサイトテクノロジーの開発と共創により、社会課題を解決する新たな価値の創出を掲げた。

先端技術総合研究所は三菱電機の開発本部に所属し、他2つの研究所(情報技術総合研究所、総合デザイン研究所)やセンター、海外にある研究所と並んで、それぞれ注力する研究テーマに取り組んでいる。所員数は約1,000名で、先端技術総合研究所が保有する技術は幅広く、電力システムや宇宙、AIなどのシステム・ソリューション、メカトロニクスやロボティクス、モーター制御などの機器開発、さまざまなデバイスや材料まで多岐にわたる。

  • 先端技術総合研究所の保有技術

グリーンな社会の実現では、拡大するエネルギー需要に対応しながら、環境負荷を抑えて自然と共存できる持続可能な社会を将来像としている。先端技術総合研究所所長の高林幹夫氏は「エネルギーを創るところから、送る・貯める、使う、再利用するという一連のシステムがあり、弊社はこのエコシステム全てに自社の製品やサービスを提供しているのが特徴だ」と話す。

将来像を実現する研究開発では、「グリーン by エレクトロニクス」「グリーン by デジタル」「グリーン by サーキュラー」を三つの柱に掲げる。「エレクトロニクス」ではコアコンポーネントの効率化と小型化により省エネや電化を推進し、「デジタル」では先進的な技術の活用で、エネルギーマネージメントの効率化や再エネ利用を拡大する。炭素や部品材料の循環利用実現に向けた研究開発を推進する「サーキュラー」は、2月に入って3つの関連技術を発表している。今回はそれらについて、担当者からデモ機の見学も含めてくわしく紹介された。

  • 三菱電機が掲げる、将来像を実現するための研究開発の三つの柱

  • 先端技術総合研究所の高林幹夫所長が、グリーンな社会の将来像と研究開発の三つの柱について説明した

そよ風や床で発電するモジュール、低消費電力で活用

世の中に存在する微小なエネルギーを電気エネルギーに変換する「環境発電」(エネルギーハーベスティング)は、クリーンで省エネだが、発電量が小さく不安定という課題がある。先端技術総合研究所が2月12日に公開した新しい電磁誘導発電モジュールは、自然界のわずかな動きや人の動作で効率よく発電でき、大きな電力を必要としないIoT機器や、配線や電池交換が難しい場所での設置を可能にする。今回の取材では、そよ風発電用、床発電・工作機械用、回転センサー用の3つの発電素子とそのデモが紹介された。

  • 3つの発電素子は指先に乗るほどの大きさだが、わずかな動きや動作を効率良く電気エネルギーに変換する

モジュールは、独自の複合磁気ワイヤーを用いたコイル型の発電素子と、発電素子にかかる磁界を増大させる磁気回路で構成されている。従来の電磁誘導発電素子の1万倍以上という高出力を実現する技術をベースに、磁気回路の磁石や磁気誘導ヨーク(鉄などの磁性体の構造体)の配置を最適化することで、これまで発電できなかった非常に低速かつ軽い力の動きでも効率の良い発電を可能にしている。

そよ風発電用の発電素子は、うちわで扇ぐ程度のそよ風で発電できる。デモでは、従来品と開発品をそれぞれつないだ風車を並べてうちわで扇ぎ、同じ風力で発電する電力量の違いをモニタで可視化して見せた。人が動いたときに生じる程度の風でも発電できるので、例えば、人が通りすぎたときだけ表示する低電力のディスプレイなどに応用できそうだ。

  • そよ風発電用の発電素子はわずかな風でも発電できる

同じ技術で試作した床発電装置では、1秒間に2回踏んだときの発電量が従来の圧電素子を用いた装置の100倍となる、200mWを発電可能。発電量もさることながら、ポイントは装置の仕組みで、横から見ると床板が踏み込まれて動く外側の部分と、発電素子がある中央の部分が非接触になっていて、外側だけが上下に動くことで発電する。床発電は装置にかかる負荷が大きく、交換に必要なコストが課題になっていたが、この試作機では発電する部分が劣化しない世界初の構造になっている、と説明していた。

  • 床発電装置の試作機とデモ機

  • 手前の床発電装置内にある床発電IoTセンサーは、小型のデモ機で紹介

  • 横から見ると、床板を踏んで動く部分と中央の発電する部分が非接触な構造になっているのがわかる

他にも同じ仕組みを使ったデモとして、工作機械向けIoTセンサーが紹介されていた。発電部に温度センサーと無線通信線を内蔵した通信モジュールを接続することで、電源や通信線を必要とせず、1回の動きで温度データを送信できるという。

  • 工作機械向けIoTセンサーのデモ機

これらに使われるモジュールのコイルの大きさに関しては、最低限の電力を作り出すために巻き付けるワイヤーの量がある程度必要となるため、現在はこのサイズだが、発電素子の形状や磁気回路も含めて最適化し、小型にすることも検討しているという。そうなれば、家電製品の省電力や小型化だけでなく、ウェアラブル機器などへの応用も広がりそうだ。

混合プラ片を静電気+AIで自動選別、世界初の技術検証

報道陣向けの視察会では、2月19日から開始した、同社グループ保有の静電選別技術にAIを組み合わせた世界初の「スマート静電選別」技術を用いた検証実験の様子も初公開された。

  • 検証実験を開始する「スマート静電選別」検証機

検証を行う背景としては、世界的にプラスチックリサイクルに関する政策や法整備が進んでいることがある。今後は、埋め立て処分などを行っていた廃棄物からも、再生材として製品に使用可能なプラスチックを選別・回収することが必要となる。

三菱電機では、プラスチックの高度選別装置として、比重の違いを利用した「比重選別」、原子密度の違いを利用した「X線選別」と、摩擦帯電特性の違いを利用した「静電選別」をそれぞれ開発している。なかでも「静電選別」は、汎用性が高く、多種多様なプラスチックに対応可能で、特許保有数も三菱電機が世界一だという。これまで多種多様な業種の企業約30社の廃プラスチックのサンプルを用いて評価試験を行い、高純度に選別できることが確認されている。

しかし実際のリサイクルでは、回収される混合プラスチック片の組成が廃棄物によって変化するため、装置を調整する専門知識やオペレーションノウハウが必要という課題があった。そこで、選別前後の組成識別するセンサーと識別アルゴリズムによって、選別機を最適な条件に自動制御するAI技術を搭載した「スマート静電選別」技術を開発し、小型の検証機を製作して実用性や仕様などを検証する。

  • 「スマート静電選別」の仕組み

検証機では、サンプルとなる廃プラスチックを破砕した2種類のプラスチック片をドラムで回転して擦り合わせ、一方はプラス、他方はマイナスに帯電させ、高電圧電極によって選別する様子が紹介された。通常はプラスチック片の種類によって選別する仕切りを動かすが、スマート静電選別では、原料組成、選別結果、比電荷分布の3つのセンシングによって、仕切りをAIで自動で制御する仕組み。それぞれのセンシングでは、帯電量センサー、プラスチック種類識別センサー、重量センサーを用い、他にもハイパースペクトルカメラを使っている。

  • 検証機の特徴

  • さまざまなセンサーが使われている

装置の設計や使用する技術をさらに検証し、完成されたスマート静電選別の技術を世界に展開することをめざす。さらに、他の高度選別装置のスマート化を進め、また、原料組成や選別結果などのトレーサビリティデータといった選別プロセスの情報、そして仕切り位置の制御などのオペレーションのノウハウを、顧客のプラスチックリサイクルを支援する「RaaS」(Recycle as a Service)として提供することも計画されている。

デジタルとサーキュラー領域の研究リソースを4倍に

もうひとつの技術である、カーボンリサイクルシステムはパネルで説明された。東京科学大学 環境・社会理工学院 融合理工学系 エネルギー・情報コースの大友順一郎教授らと共同で進めるもので、2月19日から先端技術総合研究所内で実証試験を開始した

まず、二酸化炭素を還元して一酸化炭素を資源として活用可能にする、独自の酸素キャリア粒子を用いたケミカルループ方式のCO2還元技術を開発。次に、酸素を受け取った酸素キャリア粒子と水素(H2)を反応させて水(H2O)を生成することで生じる、CO2還元反応とH2酸化反応を別々に繰り返し行うことで、COが再びCO2に戻る反応を抑制でき、高いエネルギー効率でCOを生成することを可能にする。

三菱電機では、実証試験の成果を活用した、CO2の回収から利用まで一貫して実現するCCUシステム(※)の構築をめざし、工場でのカーボンニュートラルの実現やCO2排出量の削減に取り組む。

※CCUシステム(Carbon dioxide Capture and Utilization):工場などから排出されたCO2を回収し、燃料や化学品、建材などの製造に利用すること

  • 東京科学大学と行っている、ケミカルループ方式によるCO2還元技術の概要

三菱電機は、東京科学大学以外の大学や国内外の研究機関との連携を進めており、オープンイノベーションを積極的に活用していくとしている。また、2024年の時点で研究リソースは、全体の85%がエレクトロニクスで占められていたが、デジタルとサーキュラー領域への投入割合を4倍に拡大し、2030年には3つを均等にすることを予定している。

  • 今後の研究リソースの投入割合については、デジタルとサーキュラー領域を4倍に拡大