
ビッグマック指数にみる日本経済
「気づいたら日本はビッグマックがG7で一番安い国になってしまったー」と危機感を訴えるのは、日本マクドナルドHD社長兼CEOの日色保氏。
英国の経済誌「The Economist(エコノミスト)」が毎年発表している各国の経済力をはかる指標のビッグマック指数(※)で、2024年7月期、日本は世界54カ国中44位。 (※世界各国のマクドナルドで販売されているビッグマック1個当たりの価格を比較することで、その国の物価や通貨の購買力格差をみることができる指標)
1位はスイス(1214円)。7位のアメリカ(856円)と比較しても日本(480円)は約4割も安い。アジア圏の韓国、タイ、中国よりも下という位置で、世界における円の価値は依然として低い。
日色氏は「給料を上げて日本経済を立て直し、昔のような強い日本にしていかなければ」と声を強める。
しかし、日本国内では原料高、エネルギーコスト上昇で物価高騰が続く。中小企業の賃上げは物価上昇に追い付かず実質賃金はマイナスが続く中で、国民の生活は日に日に苦しさを増している。農林水産省によれば、昨年12月のキャベツの全国平均小売価格は平年より3.4倍、主食のコメも令和6年度産の全銘柄平均価格は対前年比で155%と、生きていくために最低限の主食でさえ手に入れることが困難だ。
食費が家計を圧迫している中、あらためて外食企業は自分たちの存在意義をいかに示していくかが業界全体の課題となっている。
日本マクドナルドでは2022年から2年間で5回の値上げを実施。コストアップ分を価格転嫁しなければ経営が立ち行かない状況下、"安さ"が一つの売りであるファストフード企業は、安さ以外の新たな顧客を惹きつける何かが必要だ。そこで同社はファストフードの強み"早い、うまい、安い"に次ぐ新たな武器として、"便利"さを打ち出している。
デジタルとピープルの融合
日色氏が社長に就任したのは2019年。ちょうどコロナ禍開始の厳しい環境での経営の舵取りであった。同氏は以前から進めていたDX化を、計画より前倒して迅速に推進してきた。
例えば自身のスマートフォンからどこでも注文ができる"モバイルオーダー"というサービス。店内の列に並ぶことなく「店の席に座ったまま」「駐車場で車の中にいるまま」商品の受け取りが可能だ。店に向かう移動中にスマートフォンで注文しておけば、着く頃に出来立ての商品を受け取ることもできる。
また、デリバリーサービスも強化。19年12月時点での対応店舗は710店舗のところ、23年同月時点で2239店と3倍に増加させた。自社デリバリー以外にも、出前館やウーバーイーツといった外部のデリバリー企業ともパートナーシップを結び、顧客のもとへ運ぶ足を増やした。
これにより〝家から一歩も出ずにマックが食べられる"という文化が定着。女性客は、「化粧も着替えもせずに食事がとれる便利さを体験すると、もう戻れなくなる」と話す人もいる。
デリバリーは通常商品に加え運賃代が上乗せされるが、その注文数・売上は伸長しており、「安さ」よりも「便利さ」に顧客が価値を見出しているということがわかる。便利さにまつわるこれらのサービスを強化したことで、一店舗あたりの稼ぐ力は向上している。
一方で、同社は"スマイル0円"をメニューに記載する企業。DXを推進しつつも、お客様へのおもてなしを重視している。そのため店内では人を使うべきサービスには人を配置。省人化でロボットをつかうだけでなく、コンシェルジュ的な役割で人を配置し、「デジタルと人との融合サービス」も意識して行っている。
日色氏が社長就任以降、業績は右肩上がりで順調にきている。2023年12月期の同グループ全店(FC含む)の売上高は前年比8.4%増の7777億円で、営業利益は20.9%増の408億円の過去最高となった。24年12月期は前年同期比6.2%増の8260億円を見込む。
年間を通して客単価、客数は伸びているが、個別月で見ると伸び悩んでいる月もある。同社はそれに対して販促施策やマーケティング戦略で、年間でプラスになるようなバランス経営を行っている。
他の外食企業ではサイゼリヤが価格現状維持戦略を行い好調だが、大半の企業は原料の高止まりにより値上げをしている。
「今年はコスト高や為替を見極めながら価格政策をどうしていくかが重要になる。外食にかけるお金に敏感になっている中で、マクドナルドの親しみやすさ、リーズナブルでいいねと思ってもらえるか。それと同時に収益性をいかに確保していくかに取り組む」と日色氏。
日本経済再興に向け、経済同友会副代表幹事も務める同氏は、「30年続くデフレ脱却にはマインドセットが必要。適度のインフレとそれにより収益拡大、それを賃金に反映、そして消費が拡大という好循環に向かう経営を行っていくべき」と話す。物価上昇に賃金上昇が追い付く状態になるまで、価格価値を上回るサービスを生み出せるかが各企業の勝負どころとなる。