近年、よく耳にするようになった「オブザーバビリティ」(可観測性)という単語。そして、導入が増加傾向にあるオブザーバビリティツール。今回、同ツールを提供し、グローバルで市場をけん引するNew Relic CEO(最高経営責任者)のAshan Willy(アシャン・ウィリー)氏にインタビューを行った。
Ashan Willy(アシャン・ウィリー)
New Relic CEO(最高経営責任者)
サイバーセキュリティとコンプライアンスのリーディングカンパニーであるProofpointのCEO を務め、世界で最も信頼されるサイバーセキュリティブランドの1つとしての同社の評判を高めた。非公開企業への移行を成功に導き、在職期間中に収益を5倍に増やす。
そのほか、WebexやJuniper、Polycom、Ciscoで上級管理職を務めた経験を持つ。エンジニアリング、製品管理、グローバル市場における戦略策定において、25年以上のリーダーシップを経験。
5カ年計画で取り組む重点分野
--就任してから1年以上が経過しました。この1年での現在における心境とNew Relicとしての成長について教えてください。
ウィリー氏(以下、敬称略):この1年間でNew Relicは大きな変化がありました。私たちは成長戦略にもとづいて非公開企業となり、5カ年計画を立てました。会計年度の終わりは3月ですが、計画で示していたよりも早く進展し、非常に満足しています。
私はこの業界に約30年間携わっており、インターネットが誕生した頃にキャリアをスタートしました。それ以来、CiscoやWebexなどの企業でエグゼクティブとして、さまざまな役割を担ってきました。
直近の8~9年間は、サイバーセキュリティ企業であるProofpointのCEOを務め、多くの顧客を世界中に持ち、特に日本にも多くの顧客がいました。そして、ここ1年少し前にNew RelicのCEOとして招かれました。
Proofpointでは、CEOとして事業を倍増させることができました。New Relicでも同様に、顧客に利益をもたらす賢明な方法で成長させることができると考えています。
プライベートカンパニーとして初年度であるため、具体的な数字は開示できませんが、現在では8万5000アカウント以上の顧客を抱えており、昨年は4000アカウントの新規顧客を獲得しました。また、過去9カ月間でNew Relicの歴史上最大の取引が4件ありました。
組織も拡大しており、来年度初めには今年度の初めよりもエンジニアが25%増加する予定です。このように拡大しており、私たちは非常に健全で市場において順調に成長しています。
--5カ年の計画とは、どのようなものですか?
ウィリー:New Relicはオブザーバビリティの分野を創り出しました。創業者はカナダ出身のLew Cirne氏で、彼はWilyという会社を設立しました。その後、WilyをCA Technologiesに売却し、2008年にNew Relicを設立しました。
私たちは今後、特にAIの新しい世界においてオブザーバビリティの分野を進化させることを目指しています。すべての顧客にとってのオブザーバビリティパートナー、そしてシステムインテグレーターや他の技術パートナーにとってのオブザーバビリティパートナーとして選ばれることを目指しています。
さらに付け加えると、オブザーバビリティの分野は非常に断片化されています。トップ5のベンダーが市場シェアの35%しか占めておらず、統合してリーダーになる機会があります。それが私たちの目標です。
いくつかの重点分野があります。まず、オブザーバビリティ全体として、ビジネスが拡大しており、ますます多くの企業がデジタル化しているため、私たちの戦略はすべてのオブザーバビリティ機能を単一のプラットフォームで提供し、顧客に優れた経済モデルを提供することです。このモデルは消費志向のモデルで、市場の他のどの提供よりも優れています。
私たちは単一のプラットフォームでデータを取り込んでおり、年間約3EB(エクサバイト)のデータを処理しています。この膨大なデータを活用して、AIインテリジェンスを導入し、顧客のダウンタイムをゼロにするために積極的に対応しています。このプラットフォームを活用することで、他にはない独自のポジションを確立しています。
日本は品質基準を求めるレベルが他国よりはるかに高い
--日本でのビジネスについて教えてください。
ウィリー:日本に関しては、ジャパン・クラウドとの合弁会社としてNew Relicの日本法人を2018年に設立し、現在では共同事業を解消しています。これは日本でのビジネス拡大を見越しての判断であり、健全さを示すものです。
また、日本法人の増員を予定しています。日本は私たちにとって重要な市場であり、その理由は3つあります。
まず第1に、日本は先進的で大きな市場です。しかし、私たちにとっての主な理由は、日本企業が非常に品質にこだわる点です。私は世界中の企業と話をしていますが、日本は品質に非常に関心を持っており、そのためオブザーバビリティが品質を確保するための重要な要素となります。
第2の理由は、品質の必要性から日本は他の地域よりも早く私たちのオブザーバビリティプラットフォームの機能を採用する傾向があることです。私の業界経験の中で非常に珍しいことです。日本は通常、やや保守的な傾向がありますが、オブザーバビリティに関しては、脆弱性管理やオブザーバビリティ、SAP機能などをリリースした際、日本での採用が他の地域よりも早いのです。
最後の理由として、日本は自動化に力を入れています。AIの次のステップとして、特にAIが自動化を支援することを考えると、私たちはその最前線に立ちたいと考えています。そして、日本は物理世界におけるAI自動化に備えるための良い国だと感じています。
--グローバルと比較した日本の顧客ニーズや課題は?日本市場の位置づけは?
ウィリー:日本が求める品質のレベルは、世界の他の地域よりもはるかに高いと言えます。日本は非常に高い品質基準を持っています。私たちのビジネスは品質を確保することにあることから、製品自体が非常に高い基準を持つ必要があります。これが大きな違いの一つです。
次に、日本では労働力不足とスキル不足が顕著です。先進的な社会でありながら、デジタルネイティブな労働者が少ないため、日本は独自の市場となっています。そのため、日本は自動車産業で自動化を受け入れたように、デジタル産業でもAIによる自動化を受け入れ、オブザーバビリティがその重要な要素となると考えています。
グローバルにおいてAPACはビジネスの約30%を占めています。その中で日本は、最大の市場であり、すべての地域の中で最も成長が速いです。
競合他社と比べたNew Relicの優位性とは
--競合他社に対する優位性はどの点にありますか?
ウィリー:まず、第1の利点は単一のプラットフォームに移行するという決定を下しました。したがって、顧客がNew Relicを購入すると、業界で唯一のすべての機能を利用できます。
第2の利点は、私たちのルーツがアプリケーション自体にあることです。エンドユーザーに影響を与えるアプリケーションに対して、New Relicほど深い洞察を提供する企業は他にありません。世界中の顧客は、私たちを競合他社と比較したときに、展開に関する深い洞察を提供し、ダウンタイムを誰よりも早く減少させることができる点を評価しています。
第3の利点は、現在のオブザーバビリティの状況を見たときに、世界には約5000万人のソフトウェアエンジニアがいますが、そのうちオブザーバビリティを使用しているのは約300万人に過ぎないということです。
私たちには、他のエンジニアにもオブザーバビリティを利用してもらう機会があります。単一のプラットフォームを持っているため、エンジニアが働く場所にオブザーバビリティを提供することができます。
つまり、私たちは他のツールのためのオブザーバビリティのインテリジェンスシステムとなりつつあり、現在もそうです。最近では、Amazon Q BusinessやGitHubとの連携について発表しています。
「インテリジェントオブザーバビリティ」を標榜するNew Relic
--今後の製品に関するビジョンや戦略はどのように考えていますか?New Relicに限った話ではなく、他社も含めてオブザーバビリティプラットフォームは機能が多いような気もします。
ウィリー:機能が多いというのは、その通りです(笑)。これには、いくつかの要因が関係しています。この分野には多くのツールが存在するため、ユーザーは非常に断片化された体験をしています。
次に、多くのデバイスやクラウドから大量のデータが生成されており、そのデータが他のデータとどのように関連しているのかを理解するのが難しいという問題があります。これが2つ目の大きな問題です。
そして3つ目は、データの量です。私たちは年間3EBのデータを収集していますが、ユーザーがこれほど大量のデータをどのように扱うかが課題です。大量のデータがあり、それを解釈する必要があるためユーザーにとって非常に難しい状況です。
こうした状況であることから、ユーザーにマッチした多くの機能を備える必要があるのです。ユーザーは必要な機能を選択して、使います。
今後のビジョンとして、昨年11月に当社は「インテリジェントオブザーバビリティ」を紹介しました。そして、今年2月の年次イベント「New Relic Now+」では、多くのインテリジェントオブザーバビリティ機能について発表する予定です。
では、インテリジェントオブザーバビリティとは何でしょうか?それは、システムが環境内で何が起こっているかを積極的に知らせ、環境内で起こっていることに対応し、行動を起こし、その結果を知らせる能力です。
これを実現するためには、いくつかの条件が必要です。まず、すべてのデータを単一のプラットフォームに集約する必要がありますが、これはすでに達成しています。
次に、さまざまな場所からデータを収集できる必要がありますが、これも達成しています。私たちは自社のオブザーバビリティツールだけでなく、オープンソースのOpen Telemetryもサポートしており、世界中のデータを収集することができます。
さらに、新しいLLM(大規模言語モデル)の機能を適用することで、環境内で何が起こっているかを積極的に知らせ、問題を診断するために必要な場所にユーザーを導くことができます。さらに、他のツールに移動して修正を自動化することも可能です。
AIの活用で自律的な対応を可能にするプラットフォームへ
具体例を挙げます。例えば、AbemaTVのユーザーでワールドカップの試合を視聴している際に問題が発生したり、イオンでオンライン注文をしている際に問題が発生したりした場合、現在ではエンジニアがその問題を調査して診断する必要があります。しかし、インテリジェントオブザーバビリティを導入すると、その状況は変わります。
問題を検出し、その原因が新しいソフトウェアの展開によるものであると判断します。実際、70~80%の問題はソフトウェアの展開が原因です。次に、その問題を特定し、別のシステムに指示してソフトウェアを以前の状態に戻すことができます。これにより、正常に動作するようになります。
同様に、例えばストリーミングTVを視聴している際に多くのユーザーがいる場合、システムは自動的に容量の限界に達していることを検出し、クラウドプロバイダーにスケールアップを指示して、エンドユーザーが問題を感じる前に解決することができます。
非常に複雑で高度な技術ですが、私たちはそれを実現する技術を持っています。これがインテリジェントオブザーバビリティです。また、インテリジェンスシステムとして他のプラットフォームにも対応を提供します。
例えば、MicrosoftやServiceNow、Atlassianなどが挙げられます。そのため、業界内のさまざまなベンダーと協力して、彼らのためのインテリジェンスシステムを構築しています。
AIエージェントを通じて情報を提供し、それぞれのシステムでアクションを取れるようにします。例えば、MicrosoftのGitHubでのソフトウェアロールバックの場合、多くの開発者がGitHubで作業しているため、ロールバックもGitHubで行いたいと考えます。私たちはMicrosoftに情報を提供し、AIエージェントを使用することで、それを実現します。
私たちは彼らのリリーススケジュールに依存する必要がありませんし、彼らも私たちのリリーススケジュールに依存する必要がありません。これがAIエージェントを使う優れている点です。すべてにLLMを適用し、生成AI、比較AI、AIエージェントをそれぞれ複合的に使用して機能を提供しています。