岡山大学は2月10日、「ヒロズキンバエ」(以下、ハエ)を対象に、カフェインを砂糖水に混ぜて飲ませ、寿命・活動量・脂質の変化などへの影響を調べた結果、0.5%以上のカフェインを含んだ砂糖水を飲ませると7日以内で死滅することが判明し、使い方次第では実用的な殺虫効果が期待できることがわかったことを発表した。

同成果は、岡山大大学院 環境生命自然科学研究科のShine Shane Naing大学院生、岡山大 学術研究院 環境生命自然科学学域の宮竹貴久教授らの研究チームによるもの。詳細は、応用昆虫学と応用動物学に関する全般を扱う学術誌「Applied Entomology and Zoology」に掲載された。

カフェインにはドーパミンを活性化させる作用があり、ヒトの気分を高揚させる働きがあることは有名で、昆虫に対しても同様の効果があり、ハエを活性化させて睡眠に影響することが報告されている。摂取量が少量であれば、ミツバチの記憶力を向上させたり、延命効果が見られたりすることから、花粉媒介昆虫にとってカフェインがプラスの効果があることも明らかにされていた。その一方で、高濃度のカフェインを昆虫に与えた場合は、発育抑制や寿命に対する負の効果が得られたという報告もされている。このように、昆虫に対するカフェインの効果は実験によって異なるため、カフェイン散布が昆虫にどのような影響を及ぼし、害虫駆除に有効なのかどうかについてはっきりとしたことは明らかになっていなかったという。

害虫防除においては、化学農薬をはじめさまざまな総合的な害虫管理法が知られており、その中には「除虫菊エキス」といった自然界由来の物質による駆除も含まれる。そのため、自然界にも存在するカフェインも新しい農薬の候補になる可能性があるとする。

ヒトにおいてもカフェインの過剰摂取(オーバー・ドーズ)は健康に害を及ぼすことが知られているが、こと昆虫に関しては、その摂取濃度による殺虫効果の違いはほとんど注目されてこなかったという。さらに、これまでカフェインとしてコーヒー抽出物などを害虫に散布するなどの駆除方法が検討されてきたが、その効果は明瞭ではなかったとのこと。その理由について、昆虫がカフェインを取り込めていない可能性があると考察した研究チームは、今回の研究において、味の苦いカフェインを砂糖水に混ぜることでハエに摂取させ、その場合のカフェインが寿命や行動に与える影響を調べたという。

まず、濃度を変えた砂糖水をハエに飲ませる予備実験が行われた。その結果、4%濃度の砂糖水を与えると、寿命が長くなることが確認された。続いて、4%の砂糖水に異なる濃度のカフェインを混ぜて、成虫に飲ませる実験を行うと、0.5%以上の濃度のカフェインを含んだ砂糖水には強い殺虫効果が認められ、1週間以内にすべてのハエが死んだという。一方、それ以下の薄い濃度のカフェインを含んだ砂糖水には、殺虫効果は認められなかったとした。

  • カフェインを飲ませたヒロズキンバエの寿命

    (左)濃度を変えたカフェインを飲ませたヒロズキンバエの寿命。(右上)ヒロズキンバエ。(右下)実験に用いられた飼育ケージ(出所:岡山大プレスリリースPDF)

またカフェインを与えると、成虫の歩行活動量と体内の脂肪量が減少することも判明。ただし歩行活動量と脂肪量がどのようにハエの短命化と関連しているのかはまだ不明であり、今後の課題だという。それでも、カフェインのオーバー・ドーズはハエに対して明確な殺虫効果が認められたことから、研究チームは、今後殺虫剤としての使用の可能性が期待できるとする。

カフェインは自然界にも存在する物質であり、過剰に摂取しなければ、化学農薬よりも人体に与える影響は少ないと推測される。これまでもカフェインの散布などにより、害虫に対する発育や寿命に対する影響は調べられてきたが、上述したように効果については実験により結果が異なっていた。しかし今回、砂糖水にカフェインを混ぜて飲ませる方法で、顕著な寿命短縮効果が確認されたことから、研究チームは今後、カフェインを害虫に与える方法を工夫することで、農業害虫や衛生害虫の殺虫剤として実用化できる可能性があるとしている。