今、企業におけるAI導入には2つのアプローチがあります。迅速にROIを得ようとソリューションの導入を急ぐ組織もあれば、長い目で見て、長期的な研究投資に基づいて将来的に利益を得ようとする組織もあります。

AI移行のフェーズにかかわらず、どの組織もスキル不足、電力消費、サプライチェーンの問題、予算の制約など、共通の課題に直面しています。AIの導入を検討している組織は、将来的に痛みを伴い、さらに高くつく課題を回避するため、最初から適切なリソースとテクノロジーに投資することが不可欠です。

AIへの明確な投資傾向

Statistaによると、2013年から2022年の間に企業がAIテクノロジーに投資した金額は推定9,342億ドルで、年々着実に増加しています。フィナンシャル・タイムズによると、生成AIの登場により、最近1年ほどでAIへの投資はさらに加速し、マイクロソフト、グーグル、アマゾンといった大手IT企業がシリコンバレーのベンチャー・キャピタルからの投資を上回る勢いでリードしています。

さらに、最近発表されたマッキンゼーの報告書は、2023年が生成AIにとって「飛躍の年」であったとし、調査対象の回答者の3分の1が、少なくとも1つ以上の業務において生成AIを定期的に使用していると回答しています。

AIへの投資を増やしていく一方で、現状では多くの組織が、大規模なAI導入にはコストがかかると感じています。インフラや人材に関するコストに加え、環境への影響やエネルギー消費量も考慮する必要があります。

組織によってはコストが一時的な制約となる可能性がありますが、組織はAIプロジェクトの収益化とROIへの明確な道筋を示し、必要なインフラを購入し、規制要件を満たすために二酸化炭素排出量を相殺する必要があります。

AI活用に適切な基盤を築く

どのような課題があろうとも、AIプロジェクトの成功がもたらす変革のメリットと価値は、無視できないほど大きいといえます。ほとんどの業界ではまだAI導入の初期段階にありますが、ユースケースが明確になり、多くの組織で蔓延している保守的な考え方を超えた先にのみ、導入の加速がみえるのです。

この変化に備え、今こそ、AIをベースとした未来に向けて強固な基盤を確保するために何が必要かを考え始める時です。

AI導入について成功の可能性を高めるために、組織が検討すべき重要なポイントは以下の通りです。

(1)GPUのアクセシビリティ

サプライチェーンを評価し、AIプロジェクトに最初からGPUを組み込む必要があります。GPUがなければAIプロジェクトは成功しないため、GPUへのアクセスは極めて重要です。GPUが膨大に必要になった結果、オープンな市場での入手が困難になり、組織によっては、テクノロジーへのアクセスをホスティング・サービス・プロバイダーに求める必要があるかもしれません。

(2)データセンターの電力とスペース

AIとその膨大なデータセットは、特に電力に関して、すでに拡張されたデータセンターに深刻な課題をもたらします。今日のAIの実装では、ラックあたり40~50キロワットの電力密度を要求する可能性があり、これは多くのデータセンターの能力をはるかに超えています。

AIの拡大により、データセンターのネットワークと電力要件は変化しています。従来のデータセンター・プロバイダーが対応できるよりもはるかに高いファイバー密度と、より高速なネットワーキングが要求されます。AIプロジェクトを成功させるためには、電力効率およびスペース効率の高いテクノロジーが不可欠となります。

フラッシュ・ベースのデータ・ストレージ・テクノロジーは、HDDストレージと比べてはるかに電力効率とスペース効率が高く、従来のハードディスク・ドライブよりも冷却やメンテナンスも短時間で済むため、この問題の緩和に役立ちます。

(3)データの課題

データをどこから入手し、何を考慮に入れるかを自由に選択できる他のデータベースのプロジェクトとは異なり、AIプロジェクトでは、AIモデルを訓練し、新たなイノベーションを促進するために大量の情報からインサイトを抽出し、膨大なデータセットを利用します。

このことは、AIモデルを完全に理解すること、そしてモデルに新しいデータを導入することでどのように結果が変化するかということに関して、大きな課題を提示しています。データ・モデルや非常に大規模なデータセットを理解するためのベスト・プラクティスは、モデルを以前の状態に戻すことができる「チェックポイント機能」を導入することです。

効果的に時間を巻き戻すことで、データやパラメーターの変化の意味をより理解しやすくなります。また、インターネット上のデータをトレーニング・モデルに使用することに関する倫理的および実績の側面、またLLMやRAGベクトル・データセットから選択されたデータを削除(しようと)した場合の影響についても、まだ十分に検討および対処されていません。

(4)人材への投資

AI導入に乗り出す企業は、スキル不足に直面することになります。現在、データ・サイエンティストや関連スキルを持つスペシャリストが世界的に不足しており、需要に対応できていません。その結果、適切なスキルを持つ人材の確保が難しくなっており、高額の給与が要求されます。こうした人材不足は今後5~10年にわたって重要な問題になるとみられています。

そのため、組織は採用を通じて人材に多額の投資をするだけでなく、社内でより多くのAIスキルを開発するために、社内トレーニングにも投資する必要があります。

組織のAI導入が軌道に乗り、具体的なユースケースの開発、インフラ要件の調整、スキルへの投資、短期的または長期的なROIへの明確な戦略立案などを進めるにつれ、単独で課題を克服することが非常に困難であることに気づくようになるかもしれません。

多くの場合、他社との連携が必要になります。そこに、クラウドサービス・プロバイダーやマネージドサービス・プロバイダーといったスペシャリスト、組織がAIの目標を実現するのに役立つサービスやインフラを提供する真のチャンスがあるのです。

ピュア・ストレージ インターナショナル CTO Alex McMullan(アレックス・マクマラン)

SunとVERITASで、コンサルティング・パートナーを経てプロフェッショナル・サービスに転身し、金融サービスにおける大規模な UNIX およびストレージ・システムの設計と実装に数多く従事した。その後、UBSインベストメント・バンクに入行し、同行のストレージおよび分散コンピューティング・インフラを管理するとともに、シリコンバレーの革新的な新興テクノロジーの評価に従事した。
さらに、UBSインベストメント・バンクからBarclaysに移り、ストレージ、データベース、データ・ウェアハウスのエンジニアリング部門などを6年ほど統括した後、2014年にピュア・ストレージに入社した。