新潟大学(新大)は1月17日、地球では希だが、火星では無数に存在する特殊な火山地形「ルートレスコーン」の形成メカニズムに関する研究を行い、それらの地形の空間分布と山体サイズが自己組織化プロセスによって決定されることを実験的アプローチから明らかにしたと発表した。
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地球上(左)と火星(右)で見られるルートレスコーン。(左)アイスランドのミーヴァトン湖において撮影されたもの。(右)「CTX Global Mosaic v.1.0」(Dickson et al., 2023)を用いて作成されたもの。(出所:新大プレスリリースPDF)
同成果は、新大 自然科学系(理学部)の野口里奈准教授、新大 理学部理学科 自然環境科学プログラムの中川航氏(研究当時)によるもの。詳細は、火山学と地熱研究に関する全般を扱う学術誌「Journal of Volcanology and Geothermal Research」に掲載された。
ルートレスコーンは、地表を流れた溶岩と湖や河川といった水環境との接触によって発生する連続爆発で形成される、直径数~数百m程度の小丘状の火山地形だ。通常の火山は、地下深くのマグマ溜まりからマグマが上昇し、地表に到達・噴出したその場所で形成される。それに対してルートレスコーンは、地表に噴出した溶岩が流れ着いた先で、水を含んだ地層を覆うことにより爆発を引き起こして形成される。そのため、ルートレスコーンは別名「シュードクレーター(偽火山)」とも呼ばれている。
地球上では、アイスランドに多数存在するものの、他ではハワイ島沿岸部などに小規模に存在する程度であり、一般的な地形ではない。一方、火星では広大なルートレスコーンフィールドが存在することが報告されており、その存在や形成メカニズムの解明は惑星地質学において重要な課題となっている。そこで研究チームは今回、溶岩に相当する加熱した水飴と、水を含んだ地層に相当する重曹・ケーキシロップの混合物を用いた室内アナログ実験を実施し、溶岩と水の相互作用によるルートレスコーンの形成過程の再現を目指したという。
溶岩は自然界においては1000℃以上あり、それが水を加熱することによって水の気化・膨張による爆発が発生する。しかし、今回の実験で用いられた水飴の加熱温度はおよそ140℃が限界で、水を十分に加熱・気化させられない点が難点だ(それ以上加熱するとカラメル化してしまうため)。そこで今回の研究では、発泡現象をより激しくするため、お菓子のカルメ焼きを作る際にも使われる化学反応である「重曹の熱分解」が利用された。
重曹とは炭酸水素ナトリウムであり、それが水飴の熱によって分解し二酸化炭素が発生することで発泡現象が盛んになり、ルートレスコーンを形成する際の爆発を模擬することが可能だ。そのため、水を含んだ地層の模擬として重曹とケーキシロップの混合物が用いられた(ケーキシロップは粘性などの調整のために使用された)。実験では、加熱水飴のビーカー内での分厚さ(=流し入れる水飴の量)を変化させ、ビーカー内に形成される火道の数やサイズの詳細な観察・分析が行われた。
実験の結果、形成中の周囲の火道に上昇経路を奪われて切り離されることで、火道が維持できなくなる現象が観察されたという。この切り離された火道(失敗火道)と、水飴表層まで突き抜けた火道の数、および加熱水飴の分厚さの関係から、ルートレスコーンの空間分布には、従来指摘されてきた水の争奪のみならず溶岩表層へ突き抜けるための火道の争奪も重要な役割を果たすことが判明したとする。
実験において観察された加熱水飴層が分厚いほど火道の争奪(=失敗火道本数)が発生するという傾向は、火星表層で溶岩が分厚いほどルートレスコーンの分布数が少ないこととも調和的だという。一方で、火道数が多い(=ルートレスコーンが数多く形成される)場合、噴火に利用可能な水が限られる環境では爆発回数が減少することにつながるため、結果として山体サイズが小さくなることが予想されるとした。これに関しても、火星表層で溶岩の薄い場所では明瞭なコーン地形が見られないことと整合的としている。
また、失敗火道と思われる構造は地球上で実際の溶岩露頭中にも存在することから、火道の争奪はルートレスコーン形成中に普遍的に起こりうることが示唆されたとする。これらの実験と実際の露頭での観察結果から、溶岩の分厚さに起因する噴火中における火道の合体・切り離しは、ルートレスコーンの空間分布と山体サイズを決める重要な要素であることが示されたとした。
今回の研究成果は、地球上のルートレスコーンの形成メカニズムの理解を深めるだけでなく、火星や他の惑星における類似地形の形成過程の解明にも寄与することが期待されるという。研究チームは今後、地球上での詳細な露頭調査を実施し、地球・火星のリモートセンシングデータと組み合わせることで、より精緻な形成モデルの確立およびルートレスコーン形成当時の環境推定の高度化を目指すとしている。