東京・池袋のサンシャイン水族館で、さまざまな角度から深海の“ヘンテコ”な生物たちの秘密に迫れる企画展「ゾクゾク深海生物2025 ~奇妙奇怪ヘンテコ深海生物~」が1月17日に開幕。報道陣向けに公開された展示の見どころや、バックヤードでの有料ツアーの様子を紹介しよう。

  • サンシャイン水族館で開幕した企画展「ゾクゾク深海生物2025 ~奇妙奇怪ヘンテコ深海生物~」(会期:1月17日〜3月16日)

  • 同館の見どころのひとつ「サンシャインラグーン」。とても美しいが、今回の企画展の主役はこうした“明るい海”よりもさらに深いところにいる生物たちだ

サンシャイン水族館では、深海生物の不思議な生態を紹介する企画展を過去8回にわたり開催しており、今回は貴重な「生体展示」に加えて、水族館初展示品を含む「化石展示」、カラフルな透明骨格標本など3種の技術を駆使した「標本展示」の3種類を使い分けて構成している。企画展にあわせて限定グッズなどを販売するほか、館内併設のタリーズコーヒーでは温かいイベント限定コラボドリンクを提供する。

  • 常設展示の「タチウオ」。実は海面付近から深海の“入口”といえる水深350mまで行き来する魚であることが分かっている

  • タチウオを東日本で展示しているのはサンシャイン水族館だけだという。名前の由来や生態などは、館内にあるこういった解説ボードで紹介されているので見逃さずチェックしよう

  • 水族館初展示品を含む「化石展示」の様子

  • カラフルな透明骨格標本も見られる。明標本作家として世界的に注目を集める冨田伊織氏の標本コレクションから、今回初めて“深海生物の透明標本だけ”をピックアップして展示している

同展の会期は1月17日〜3月16日で、開催時間は各日10〜18時(最終入場は終了1時間前)。水族館入場料のみで楽しめる。入場料は、大人(高校生以上)が2,600円から、こども(小・中学生)は1,300円から、幼児(4才以上)は800円から(いずれも通常営業時。時期や特別営業時等により変動する)。土・日・祝日と特定日は、日時指定の事前予約が必要だ。

  • 会期中のみの限定販売となる、深海生物のイラストを浮かべた「アクアリウムココア深海2025 ver.」(全6種/各746円)で温まることもできる。数量限定ではないが、注文時に絵柄を選ぶことはできないそうだ

  • 上記のコラボドリンクは、同館入場者のみが利用できる「タリーズコーヒー サンシャイン水族館店」で販売される

  • イベント限定オリジナルグッズの数々。上は暗闇で光る「オリジナル蓄光キーホルダー」(4種+シークレット1種/各627円。絵柄は選べない)で、下は深海生物の「オリジナル缶バッジ」(全3種/各330円)。いずれも無くなり次第販売終了となる

  • 蓄光キーホルダーを光らせるとこんな感じ

  • 館内ではスタンプラリーも実施され、4つのスタンプを集めると、水族館出口カウンターで「ゾクゾク深海生物オリジナルステッカー」(全2種)を1枚もらえる。こちらも絵柄は選べず、なくなり次第終了となる

さらに会期中は、通常は立ち入れないバックヤードにも入れる有料の「探検ガイドツアー」を、毎日11時回限定で“深海特別バージョン”の「ゾクゾク深海ツアー」として開催。深海生物の冷凍・冷蔵標本に直接触れることもできる。アクアリウムクラブ会員証発行カウンターで当日受付を行い、参加料金は1,000円(別途水族館入場料が必要)。

  • 「ゾクゾク深海ツアー」(毎日11時回限定/1,000円)では、深海生物の冷凍・冷蔵標本に直接触れることもできる

  • サメの仲間の標本に触れて、“サメ肌”を体感できた

  • 「深海の赤い魚は捕食者に見つからないの?」という素朴な疑問に応える、かんたんな仕掛けも用意

  • 上記の答えはいったいどんなものか、実際に触れた標本の魚たちはその後どうなるのか? スタッフにたずねてみよう

水族館というと、家族連れやカップルで遊びに行く観光スポット的なイメージを持たれる人も多いと思う。最近はアニメ・ゲーム作品などとのコラボイベントも行われ、推し活の“現場”として活用される機会も増えている。

  • 閉館後のサンシャイン水族館

  • まるで館内をひとり占めしたかのような感覚に陥る

  • 2月24日までは同館でゲーム「学園アイドルマスター」とのコラボイベント『初星水族館』が開催中

しかし水族館は、普段はなかなか見られない生き物の生態や研究成果を学べる、“サイエンスの最前線”に触れられる貴重な施設でもある。

実際、サンシャイン水族館では2019年から水中ドローンを用いた調査を継続して行っており、これまでに新属・新種の「トリノアシヤドリエビ」の採集にもつなげたほか、深海採集において世界7例目となる「ヨコヅナイワシ」の採集実績を挙げるなど、研究機関としての側面も持つ。

同館はこれまでにも、さまざまな角度から生物の謎に迫る企画展を都度開催しており、水深200mより深い海域に棲む深海生物にスポットを当てるのはこれが9回目。暗黒・低水温・高水圧という極限環境のなかで生き残るために、独自の進化を遂げた深海生物たちの“奇妙で奇怪、ヘンテコ”な見た目の特徴や、一風変わった生態的特徴を来場者に体感してもらえるよう、さまざまな工夫を凝らしている。

  • 先ほどの冷凍標本の写真右端にいたのは「キホウボウ」という魚で、こちらは実際に館内で生体展示されているもの

  • 常設展示されている「タカアシガニ」と「ゾウギンザメ」も深海生物の仲間。撮影時は今回の企画展準備のため、一時照明が落とされていた

  • こちらも常設展示のタチウオのコーナー

  • ここからは、今回の企画展のために用意された展示コーナー

  • 色彩保存標本(後述)を実際に見てみると、標本とは思えない生っぽさに驚かされる

  • 有料ツアーのために用意された、豊富な冷凍標本たち。水槽でキレイに泳ぐ魚たちを見せるだけが水族館の役割ではなく、学術的な側面を企画を通して体感できる

水族館初の化石展示など、工夫凝らした各種コーナーに注目

同館の屋内エリア入口付近で来場者をまず出迎えるのは、飼育スタッフが実際に深海底引き網漁の船に乗船して採集したという、貴重な深海生物たち。

胸ビレと腹ビレを脚のように使い、海底を歩くまたは少し跳ねるようにして移動するというユニークな特徴を持つ「アカグツ」(アンコウの仲間)や、細い脚にまで消化器官や呼吸器官を張り巡らして生きているという「ヤマトトックリウミグモ」らが、水槽の中でひっそり佇んでいた。

  • 「アカグツ」(左)と「ヤマトトックリウミグモ」(右)

  • 水槽付近の解説ボードを読むと、ヘンテコな姿をしている理由が見えてくる

中へと進み、巨大なタコがいる水槽や「海月空感(くらげくうかん)」のあたりまで行くと、今度は深海生物の中では比較的ポピュラーな「ダイオウグソクムシ」の化石や、「メンダコ」の標本、「ラブカ」の剝製標本(実物)などの展示コーナーがある。

  • “原始的なサメ”「ラブカ」の剝製標本(実物)。顔の方から近づいてみると、かなり迫力がある

なかでも水族館では初展示となる「コミナトダイオウグソクムシ」の化石は、千葉県立中央博物館から特別に借用してきたとのこと。2016年に世界で初めて発見されたダイオウグソクムシの新種の化石で、千葉県内にある約800万年前の地層から見つかったものだという。

  • 水族館では初展示となる「コミナトダイオウグソクムシ」の化石。この石のどこに隠れているか、実際に現物を見て探してみよう

また、退色を防ぎ生きているときの見た目を保持できる「色彩保存標本」の一例として、メンダコや「センベイダコ」の姿もあった。通常の生体展示では深海の環境を再現する必要があり、照明を暗くしたりフラッシュ撮影を禁止とするなどの制限を伴う。しかし標本展示であれば、ある程度展示の制約がなくなる。普段は見られないメンダコの腹部側からの観察や、明るい照明の下での撮影も可能になり、記憶・記録に残しやすい展示となっている。

  • メンダコやセンベイダコの色彩保存標本。頭に小さく生えた“耳”のような部分はなんなのか、こちらも解説ボードを読むと、おもしろい事実を知ることができる

  • さまざまな深海生物たちを標本や模型を使って紹介

  • こちらは一般的な「液浸標本」の展示

  • ゴエモンコシオリエビのレプリカ(模型)。カニのようにも見えるが、名前は“エビ”

光って自分の身を守る!? 捕食されないための生存戦略がおもしろい

今回の展示の中で印象的だったのが、深海生物ならではの特徴である、光を使った生存戦略のひとつ「カウンターイルミネーション」の紹介の仕方だ。

  • 光を使った生存戦略のひとつ「カウンターイルミネーション」を、映像などを使って説明するコーナー

チョウチンアンコウのように、真っ暗な海の中で光を放って獲物を呼び寄せ、捕食するために発光器官を発達させた深海生物は多いと言われているが、逆に自分の身体を光らせることで、捕食者から自分の身を守る深海生物もいる。

どういうことかというと、“中深層”と呼ばれる完全な暗闇ではないエリアでは、わずかな光によって魚影ができてしまい、それを見上げられる深さにいる捕食者から見つかると格好のターゲットになってしまうのだ。

しかし、たとえばムネエソという魚は、自分の腹側に発光器官をもっている。それを光らせて自身の影を隠し、深海に注ぐ光のカーテンに紛れるようにすることで、捕食者の目をごまかして逃げていくのだという。実際の姿はかなり小さいので、今回の展示ではサイズを大きくしたムネエソの模型に光ファイバーを仕込むことで、発光器官が光る様子を再現している。

  • ムネエソの仲間である、カタホウネンエソの色彩保存標本

  • 腹部のつぶつぶした部分が発光器官

  • こちらはムネエソをかたどった模型

  • 腹部に光ファイバーを仕込むことで、発光器官の位置を分かりやすくしている

カウンターイルミネーションがどういう生存戦略なのかについては、アザラシがいる水槽にほど近い壁面ディスプレイで、アニメ動画や海洋研究開発機構(JAMSTEC)による実際の生物の動画や、全身に発光器官をまとったゴマフイカの色彩保存標本を使って紹介している。

  • ゴマフイカの色彩保存標本

  • JAMSTECによる海中で撮られた記録動画

ちなみに色彩保存標本は、いわゆるホルマリン漬けのような液浸標本とは異なる保存液を用いることで退色を防ぎ、生きていたときの見た目をある程度維持できるという特徴があり、深海生物の特徴である発光器官も観察しやすいとのこと。今回の企画展では、同館飼育スタッフが先行研究を参考にしながら作製したという、オリジナルの色彩保存標本を多数展示しているので、そこも見どころのひとつといえる。

  • サンシャイン水族館の飼育スタッフが作成した色彩保存標本

  • 生きているときに近い色彩を残した色彩保存標本に挑戦したという、同館飼育スタッフの平井愛美氏

  • サンシャイン水族館オリジナルの色彩保存標本と、透明標本作家・冨田伊織氏の作品を同時に楽しめるコーナー

  • 透明骨格標本とは、硬骨や軟骨をそれぞれ赤と青に染め分け、他の組織を透明化させる染色方法によって作製された標本のこと。生物が持つ骨の繊細さを色の違いを比較しながら観察してみるのもオススメとのこと

  • 「透明標本」ガチャが用意されるほど人気を集めているそうだ

今回の企画担当の瀬川裕啓氏は、今回の企画展について「(深海生物が)ヘンテコになった理由は種によってさまざま。生きている様子から分かるものは生体展示、大昔からヘンテコな種は化石展示、発光する生物は光る理由を分かりやすく映像や模型で……と、それぞれのヘンテコに合った展示方法を採用した。子どもや、普段あまり水族館に来る機会のない人にも、楽しみながら海の不思議を学んでもらえるような企画に仕上げた。ヘンテコな姿や習性を通して、深海とはどのような環境なのかを多くの人々に知ってほしい」とコメントを寄せている。

  • 企画担当の瀬川裕啓氏

  • 今回の企画展とはまったく関係ないが、サンシャイン水族館で飼育されているコツメカワウソには個人的に注目している。3匹の子どもも生まれたが、まだ公式X(Twitter)でしかお目にかかれていないのが残念。今回は閉館後ということもあって、皆バックヤードで眠りについていたようだ

  • ペンギンやさまざまな海獣に会える屋外エリアは静まりかえっており、イルミネーションだけが美しく煌めいていた