組み込みソフトウェアやIoT関連ソリューションなどを手掛けるユビキタスAI。今回、同社 代表取締役社長の長谷川聡氏にビジネスの状況と、今後の展望について話を伺った。
--まず、2025年3月期の上期におけるビジネスの進捗について教えてください。また、各セグメント(ソフトウェアプロダクト事業、ソフトウェアディストリビューション事業、ソフトウェアサービス事業、データアナリティクス事業)の状況はいかがでしょうか?
長谷川氏(以下、敬称略):全社の上期における進捗率は約43%です。下期偏重の決算のため、それなりの数値で推移しています。2025年通期の売上高は40億2200万円の見通しです。
自社製品の開発・販売を行うソフトウェアプロダクト事業では、既存ユーザーのビジネス終了に伴う影響が出たり、一部ユーザーにおける生産計画が変更したりするなど、ロイヤリティの売り上げが減少しています。
また、昨年10月に買収した組み込みソフトウェアを手がけるグレープシステムが今期初めて1年間の売り上げが寄与するため、ソフトウェアプロダクト全体として、売り上げは増加していますが、昨年度の事業セグメントで考えると減少しています。
一方で、ソフトウェアディストリビューション事業、ソフトウェアサービス事業、データアナリティクス事業は前期を上回る形で推移しています。ソフトウェアサービス事業はグレープシステムが受託開発のセグメントが最も大きいことから対前年比では増加しています。
そのため、全社の売上高は対前年比で約40%増となっていますが、通期としては上期ほどの伸びにはならない見込みです。ただ、売り上げが拡大してもM&A(合併・買収)に伴う人件費、会社規模拡大による内部統制の整備・運用などで販管費は増加しているため、営業損失額は増加しています。
2022年に社名を「ユビキタスAI」に変更
--2022年にユビキタスから「ユビキタスAI」に社名変更をしました。現在のビジョン、ミッション、バリュー、パーパスはどのようなものでしょうか?
長谷川:当社は2017年にエーアイコーポレーションを連結子会社化し、2018年に共通のお客さまも多く、営業・事業活動の効率化を図るため吸収合併して、社名をユビキタスAIコーポレーションに変更し、2022年にユビキタスAIに社名変更しました。それから2年が経過し、互いにかなり融合してきています。
当社は自動車業界向けの売り上げが大きく、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大により、自動車の生産数が減少し、ダメージを受けていました。その際、社員にとっての会社はどのようなものだろう?と考えを巡らせた結果、基本理念を「この場、この時が、素晴らしい人生へとつながるように。 -All for wonderful life- 」としました。この基本理念を最も大切にしています。
そのうえで、社員に持ってもらいたい価値観として「自社だけでなく、かかわるすべての人たちの利益を考えて行動する」「広い視野で世界を見つめ、テクノロジーへの好奇心をもちつづける」「自分なりでいい。挑戦を楽しみ、挑戦に拍手をおくる」「専門性をもった者同士が互いを尊重し、助けあい、高めあう」「人にはもちろん、仕事や技術に対しても誠実に向きあう」の5つがあります。
通常であればパーパスやミッションが強く出ますが、基本理念や価値観がバリューの要素を持っています。パーパスは「先進かつ優れたテクノロジーで、社会を進化させる」です。そして、ミッションは「最適なソフトウェアテクノロジーを、あらゆるところに」を据えています。
当社はBtoBでビジネスを展開していることから、お客さまが先進的な製品を作るにあたり、必要なテクノロジーをソフトウェアで提供することで、先進かつ優れたテクノロジーで社会を進化させることに貢献できると考えています。
注力テーマに掲げる「車載系ソフトウェア」「IoTセキュリティ」「AI」
--注力テーマとして「車載系ソフトウェア」「IoTセキュリティ」「AI」の3つを挙げています。まずは、車載系ソフトウェアとIoTセキュリティの状況を教えてください。
長谷川:車載系は多くのものを提供していますがインフォテイメント系、いわゆるIVI(In Vehicle Infotainment:車載インフォテインメント機能)が非常に多いです。
もう1つは開発支援の領域に対する開発ツールです。ECU(Electronic Control Unit:自動車の電子制御装置)の開発支援、全般的なソフトウェア品質やセキュリティ向上の開発支援を多く手掛けています。
自動車に関しては、SDV(Software Defined Vehicle:ソフトウェア定義型車両)やコネクテッドカーは、すべてのECUがつながることから、ECUのデータも暗号化する時代になっていきます。
暗号ライブラリや通信の暗号化などでの活用、マルチメディアで言えばプレミアムコンテンツを保護するための機器認証、伝送路の暗号化が必要となり、専門領域になることから活用されています。車載ではセキュリティもキーワードになっており、ソースコードの解析やSBOM(ソフトウェア部品表)、脆弱性の検証などがあります。
また、自動車開発は複数の半導体が同時に複数のシステムを動かして問題の有無を検証する、タイミング計測向けにも提供しています。特許取得済みの弊社製品であるLinux/Android高速起動の「Ubiquitous QuickBoot」はIVIのシステムに利用されており、引き合いが非常に多いものになっています。
IoTセキュリティは、外部のコンサルティングパートナーと連携して、ガイドラインの適合や仕様の検討段階から保守までを含むライフサイクル全般にわたりサポートしています。昨今ではサイバーセキュリティ対策はやらなければならない項目であり、ニーズがあります。
もちろん、競争が厳しくなってきていますが、当社はプロトコルやデジタルインタフェースのドライバー開発に携わってきたエンジニアがいるため、細かい部分も把握できるというメリットがあります。
概略的にやるだけであれば価格勝負になりますが、お客さまが本気で検討したいという場合、当社は規格を読み込み、テストができるという強みがあるのが特徴です。
--AIについてはいかがでしょうか?
長谷川:当社ではエッジAI関連製品のラインアップを強化しています。代表的なものとして、独Brighter AIが提供している「brighter Redact」というものがあります。これは、人の属性を変えずに個人が特定できないソリューションであり、引き合いが非常に多いソリューションです。
通常の製品ラインアップの中でAI製品は少ないのですが、スタートアップと共同で取り組んでいるものとして生成AI系も取り扱っています。そのうちの1つがデータグリッドが提供するAI外観検査向け不良品画像生成ツールの「Anomaly Generator」です。
このツールは不良再現性が低く、不良品データの収集が難しいといった課題に対して、生成AIを用いて高品質な不良品データを高速生成することができるものです。現状では分野が限られてしまっていることから、今後どのように適用領域を広げていくかがカギになります。
ビジネスプラットフォーム「HEXAGON」とは?
注力テーマの話からも外部とのパートナーシップに積極的に取り組まれているかと思います。その中で御社が推進するビジネスプラットフォーム「HEXAGON」(ヘキサゴン)について教えてください。
長谷川:前述のように新型コロナウイルスで事業環境が変化しました。自分たちの強みを再認識したところ、イノベーションは難しいが「リイノベーション」は可能ではないかと感じました。当社における最大の強みは製造業のお客さまが多く、顧客基盤を活用したプラットフォームビジネスができると考えました。技術的なことを説明できる社員も多く、その強みを活かす取り組みとして、2022年からスタートさせました。
HEXAGONは「製造業顧客」「学術機関」「国内ベンチャー・スタートアップ」「海外パートナー」「ベンチャーキャピタル・インベスター」「エンジニアリングパートナー」の6つの領域で構成されており、現在の賛同企業は98社です。
海外企業やスタートアップ、学術機関などが手掛けた技術を当社がメーカーとして最終製品を開発・販売できるノウハウがあるため、連携していくための取り組みです。どの企業でもいえることですが、やはり自社だけのオーガニックな成長は難しい側面があり、特に売れる製品を企画することはハードルが高いものになっています。
スタートアップなどのアイデアや技術と、当社の経験値とノウハウを組み合わせてマネタイズを最短距離で実現することを目指しています。
これに加えて、資金調達のサポートや当社でカバーできない部分を支援してもらうためスタートアップの支援側の企業・団体とも連携して、HEXAGONを形成しています。当社が販売に至るような製品にはなっていないものの、テック企業で想いが一緒になれるような企業さんにも参加いただいています。
私自身は以前、スタートアップの経営にかかわり、現在は上場企業の経営者のためスタートップの経営者の辛さは身に染みて理解できます。自分が経験してきたことでスタートアップの経営者をサポートできないかという想いがあります。HEXAGONの取り組みでは、販売面で連携しつつ、スタートアップの経営者の愚痴聞き役になるといったことで支援ができればと思っています。
そして、2025年にパッケージソリューションの提供を開始します。これは、スタートアップの製品をパッケージ化して販売するものです。まとまったカテゴリーでパッケージ化できる部分をスタートアップパッケージとして展開しようと考えています。
一例として、スマートファクトリーのパッケージでは、先ほどのAnomaly Generatorやスマートグラス、バイタルデータのセンシング、タブレットを使った紙帳票のDX(デジタルトランスフォーメーション)化などをパッケージ化するイメージです。
今後の展望
--最後に2025年の展望、抱負についてはいかがでしょうか?
長谷川:中期経営計画は2025年3月期で計画年度が完了するため、新しい中期経営計画を策定します。次期中期経営計画では2027年3月期に売上高50億円の実現を目標に設定しています。
既存事業については組み込みソフトウェアが中心のため短期間でスケールさせていくわけでなく、安定した収益増加を目指します。私見にはなりますが、デジタル化が広がると自動車やマイコン、ECUが統合されていくと、8ビット、16ビットといった性能が低い半導体が集約され、OSを搭載したソフトウェアで動くインテリジェントなものが増加していくのではないかと推測しています。
そのため単にセンシングするだけではなく、センシングした結果をIoT機器内でも活用できるようになっています。人口減少に伴う人手不足に対する自動化や効率化が求められるようになると、解決する機会は増えていくことからソフトウェアの需要はテクノロジーの進化とともに高まると考えています。
そのような意味で当社はハイレベルな組み込みのエンジニアが多くいるため、お客さまが求める技術を提供することができます。コンポーネント製品だけではなく、開発支援ツールなどエンジニアの経験とノウハウを使い、取り組んでいきます。
また、受託開発を手がけるグレープシステムを一昨年に買収しており、当社のお客さまからの受託開発、製品販売を伴わない受託開発も可能になったため、売り上げを拡大できるポイントになると見込んでいます。
方向性としては、やはり組み込みソフトウェアが軸になりますが、これまでの製品販売からツールの販売に広げ、それをサービスにも適用するとともに、スタートアップとの取り組みの中から新しいものを生み出していければと考えています。