シニア世代に新しい出会いと温かいつながりを届けるために誕生した、50歳以上限定のマッチングアプリ「Goens(ゴエンズ。以下Goens)」。このアプリを提供するGoensは「シニアの未来をITで豊かにする」をミッションに掲げ、社会課題に正面から向き合っている。
熟年離婚や未婚率の上昇、団塊ジュニア世代の高齢化といった社会的背景の中、50歳以上の独身者は増加傾向にある。しかし、若い世代に比べて新たな出会いの機会は著しく少なく、多くのシニアが孤独を抱えているのが現状だ。Goensはこうした課題を解決するべく、50代以上の人々に孤独を和らげる場と新たな一歩を踏み出すきっかけを提供する。
では、既存のマッチングアプリを利用している50歳以上の割合はどれほどなのか。MMD研究所が2023年9月に実施した「2023年マッチングサービス・アプリの利用実態調査」によれば、スマートフォンを所有する20歳から69歳の男女2万9,350人を対象にした調査の結果、マッチングサービスの認知度は全体で25.8%に留まることがわかった。特に20代では認知度が45.0%と最も高いのに対し、50代は17.5%、60代は12.9%と年代が上がるにつれて低下している。
また、認知者のうち実際に利用経験がある人は39.7%だったが、その多くは20代(54.8%)や30代(50.4%)に集中し、50代(19.3%)や60代(13.1%)の利用経験は少ない。この調査結果から、従来のマッチングアプリは若年層を主要ターゲットとして設計されていて、シニア世代にとって使いやすいものがあまり存在しなかったといえる(出典:MMD研究所「2023年マッチングサービス・アプリの利用実態調査」)。
今回、Goensの代表取締役社長 廣澤和也さんに、サービス誕生の背景や開発に込めた想い、そしてシニア世代の孤独を解消するための挑戦について伺った。シニア層に新しい出会いの機会を提供し、孤独に苦しむ人を減らすことを目指すGoensの取り組みを深掘りしていく。
孤独を抱える中高年の大人を支えたい
Goensの開発は、廣澤さんが父親の孤独な生活を目の当たりにしたことから始まった。14年前に妻(廣澤さんの母)を亡くして以来、父親は1人暮らしを続けていた。再就職しても新しい友人を作ることはなく、旅行や外食もいつも1人。
「楽しいね」「美味しいね」といった日常の喜びを誰かと分かち合う機会がない生活だった。ある年末、1週間で話した言葉が、商店街での買い物時に交わしたひと言ふた言だけだったと聞き、廣澤さんは胸を痛める。
その正月、父親から「そろそろパートナーが欲しい」と相談を受けた廣澤さんは、若い世代向けのマッチングアプリ「Pairs」に父親を登録しようと試みた。しかし、父親の反応は「若い人向けすぎて使い方がわからない」だった。50代以上の世代向けアプリを探しても、適したものが見つからない。そこで「ないなら作ろう」と決意し、アプリ開発に着手した。
IT企業に勤めた経験を生かし、父親とのやりとりから約2年経った頃、Goensをリリース。恋愛や新しい出会い、交流に踏み出しやすい環境を提供することで、孤独を抱える人々を支えたいという思いが込められている。
「中高年の方々は、男女を問わず新しいコミュニティや人間関係を築くことにハードルを感じやすい傾向があります。恋愛という明確な目的がある場を提供することで、その一歩を踏み出しやすくなると考えました。Goensは、父のように孤独を抱えるすべての方々の背中を押すツールの1つとして誕生しました」(廣澤さん、以下同)
視覚的な使いやすさと心理面に配慮した設計
ここからはユーザーを50歳以上と限定しているGoensの特徴について見ていきたい。重視するのは直感的な操作感とシンプルな設計だ。
画面構成は、1人ずつのプロフィールを大きく表示する仕様で、リスト形式のように小さな画像が並ぶことがなく、利用者にとっては視認性が高い。操作も「スキップ」や「いいね」といったボタンを押すだけという簡単な仕組みを採用している。
また、利用者の負担を軽減するため、有料プランはわかりやすく3種類に絞られている。たとえば、1カ月や数カ月ごとのサブスクリプションプランに登録すると、「いいね」が無制限に使えるなど、シンプルで利用しやすい料金体系となっている。複雑なオプションを排除し、マッチングしやすい環境を提供することを最優先としている。
さらに、マッチング率を高めるためのサポートも充実している。特に50代以上の世代はマッチングアプリに不慣れな場合が多く、自分の魅力を伝える写真撮影やプロフィール作成でつまずくことが少なくない。
こうした課題を解消するため、Goensでは写真撮影のアドバイス動画の提供や、プロのカメラマンによる無料セミナーの開催などを実施。これにより、利用者がより魅力的な写真を用意できる環境を整備する。
また、AIを活用した似顔絵作成機能も導入され、写真を公開することに抵抗がある利用者や写真映りに自信がない利用者にも安心して利用してもらえる工夫が施されている。
プロフィール作成に関しても、自動生成機能を導入。一定量の文章を入力するだけで、自然なプロフィール文を自動的に作成できる仕組みを用意し、「何を書けばいいかわからない」という悩みを解消している。
また、Goens独自の機能として注目すべきなのが「つぶやき機能」だ。この機能を通じて、利用者は自由につぶやきを投稿し、他の利用者から「いいね」やコメントを受け取ることができる。
これにより、価値観や趣味の共通点を見つけやすく、相手に興味を持つきっかけを生み出している。たとえマッチングが成立しなくても、他者との軽やかなコミュニケーションを楽しむ場は、孤独解消につながる一助になっている。
Goensは、こうした機能や設計を通じて、50歳以上の利用者が安心して新しい出会いを楽しめる場を作り上げている。視覚的な使いやすさだけでなく、心にも配慮したアプローチで、利用者の孤独感を和らげ、温かみのあるコミュニティの形成に取り組んでいる。
プリで孤独感をさらに深める人を減らすために
現在、Goensのユーザー層は50代が約6割、60代が約3割で、70代以上も1割弱を占めている。シニア世代のためのマッチングサービスとして、幅広い年代に支持されていることが伺える。利用者の大半は離婚経験者で、新たなつながりを求めてアプリを利用している。
しかし、ユーザーから寄せられる悩みや要望は多岐にわた渡る。特に男性利用者にとっては、孤独を解消する場として大きな期待が寄せられる一方、アプリに不慣れで操作に戸惑うことも少なくない。
また、「いいね」を送ってもマッチングに至らない、やり取りの途中でメッセージが途絶えるといった状況が、かえって孤独感を深めてしまうケースを運営側は「課題」として捉えている。「孤独を和らげるためにアプリを使って相手を探しに来たはずが、かえって傷ついてしまう方もいます。優しい世界を作りたい」と廣澤さん。
こうした課題に対応するため、Goensではイベントやセミナーなどのイベント開催にも力を入れている。まずはオフラインのイベントについて紹介する。
「東京で実施した食事会イベントはとても好評でした。今後は関西など他地域への展開も視野に入れています。現在はクリスマス会の企画も進めているところです」
サービス設計にあたり、男女比や利用者層の特性を考慮する。女性は新しいコミュニティに飛び込みやすい傾向がある一方で、男性は地域や家庭以外でのつながりを築くことが苦手とされる。特にコロナ禍以降、男性の孤独感が深刻化している現状について、廣澤さんは次のように指摘する。
「傾向として、今のシニア男性は若い頃から仕事に集中するあまり、友人と話す機会が減りがちです。地域のコミュニティや子育てを通じたつながりも女性ほど築けないことが多い。仕事一筋だった方が多く、新しい人間関係を作るのに苦手意識を持つ人が多いと感じます」
オンライン・オフラインを行き来する取り組み
続いては、オンラインイベントについて取り上げる。最近新たに立ち上げられたオンラインセミナーでは、デート時のファッションの選び方や老後の資金計画、ふるさと納税の仕組みなど、シニア世代が日常で直面する課題や不安にフォーカスしたテーマで企画を実施していく予定だ。
「例えば、デートに適した服装のアドバイスや、老後の備えに関する具体的な情報提供など、多岐にわたるテーマを取り扱っていきたい」と廣澤さん。これらのセミナーを通じて、ユーザーは新たな知識を得るだけでなく、孤独感の軽減や自信の向上といった付加価値を享受していけるだろう。
さらに、Goensでは利用者の地域性やニーズに応じたイベントの企画にも注力している。旅行会社やイベント会社との連携を視野に入れ、バスツアー、や地域限定の交流会など、日常を彩る特別な体験の提供を目指している。「1人で過ごすことが多かった方が、こうしたイベントを通じて新たな楽しみを見つけてくれたらうれしいですね」と廣澤さんは語る。
デジタルサービスが持つ無機質なイメージに対し、人間味や温かみを感じられる場を提供したいという思いが、Goensのサービス設計の根底にある。オンラインとオフラインを融合させたアプローチは、シニア世代が安心して参加できるコミュニティ作りの新しい形といえる。
多様なつながりを提供するサービスを目指して
最後に今後の展望について伺うと、廣澤さんはGoensを恋愛だけにとどまらず、多様なつながりを生むプラットフォームへと進化させたいと語る。現在は恋愛マッチングを主軸としているが、「友達を作りたい」「趣味を共有したい」「地域で集まりたい」など、最終的には孤独を解消するための幅広いニーズに応えるサービスへの拡張を目指している。
「アプリ立ち上げ当初から一貫して、テーマは孤独の解消です。恋愛は利用者が集まりやすい入り口ですが、そこから友人関係や地域コミュニティなど、さまざまなつながりを提供できる場にしたいと考えています」
Goensは恋愛マッチングの機会にとどまらず、利用者が「寂しいときに戻れる場所」としての役割を果たすことを目指している。「利用者がマッチングして一度卒業しても、また新たなつながりを求めて気軽に戻れる場所であるのが理想です。寂しさを感じたときにいつでもアクセスできる安心感を提供し、社会全体の孤独感を少しでも和らげたい」と補足してくれた。
今後もGoensはマッチングをきっかけに多様な関係性を築き、孤独感を軽減するための包括的なプラットフォームとして、利用者が帰属意識を持てる緩やかなコミュニティの実現に向けて動いていく。