東京都立大学(都立大)は12月12日、磁性元素である鉄(Fe)とニッケル(Ni)を含み、超伝導体ではない合金である「FeZr2」と「NiZr2」を固溶させて合成した遷移金属ジルコナイド「Fe1-xNixZr2」が超伝導体であることを見出したと発表した。
同成果は、都立大大学院 理学研究科の島田竜之介大学院生、同・山下愛智助教、同・水口佳一准教授、北海道大学大学院 工学研究院の三浦章准教授、広島大学 先進理工系科学研究科の森吉千佳子教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、材料科学・固体化学・物理学に関する学際的な学術誌「Journal of Alloys and Compounds」に掲載された。
現在、液体窒素温度(77K=約-196℃)で超伝導状態になる「高温超伝導体」の応用が進められている。高温超伝導のメカニズムは物質の磁気秩序と関連があることから、これまでは主に磁性元素を含んだ物質や磁気秩序を示す物質の周辺での探索が進められてきた。これまで、鉄系や銅酸化物系、さらに最近になってからはニッケル系酸化物での高温超伝導が確認されている。
そこで研究チームは今回、古くから知られるCuAl2型構造を有する遷移金属ジルコナイド「TrZr2」(Tr:遷移金属元素、Zr:ジルコニウム)に着目したという。TrZr2はさまざまな遷移金属がTrサイトを占有でき、その超伝導転移温度は比較的高いことが知られていた。一方、FeZr2やNiZr2など磁性元素を含む物質では超伝導が観測されておらず、その物性も十分に解明されていない状況だ。そこで今回の研究では、超伝導体を示さないFeZr2とNiZr2を固溶させたFe1-xNixZr2を新たに合成し、その結晶構造と物性を評価したとする。
固溶とは、異なる元素を物質中の原子サイトに混在させ、合金のような状態にした物質系のことだ。多結晶試料がアーク溶解炉で合成され、X線回折を用いて分析したところ、結晶構造が連続的に変化することが確認されたとのこと。Fe1-xNixZr2の結晶構造図により、FeとNiはTrサイトで固溶しており、ZrサイトにはZrのみが占有していることが明らかにされた。また、にX線回折パターンではピークシフトが観測され、ニッケル置換によって格子定数が変化していることが判明した。格子定数aおよびcのニッケル置換量依存性によれば、Fe1-xNixZr2ではニッケル置換によってa軸が長くなり、c軸が短くなることが確かめられた。ニッケルが系統的に置換されていることは、電子顕微鏡や光電子分光を用いた元素分析からもわかったとした。
超伝導特性に関しては、磁化率測定、電気抵抗率測定、比熱測定から評価が行われた。磁化率の温度依存性からは、ニッケル置換によって、大きな反磁性シグナルが観測され、超伝導が発現することが確認できたという。ニッケル置換によって、大きな反磁性シグナルが観測され、超伝導が発現することも明らかにされた。x=0.6において、今回の系の最高の転移温度(2.8K=約-270℃)が観測され、ドーム型の超伝導相図が得られたとする。ドーム型の超伝導相図は、銅酸化物系や鉄系、ニッケル酸化物系の高温超伝導体においても見られており、元素置換によって超伝導発現機構に関連する物理量が最適化されている可能性があるとしている。
続いて、磁化の温度依存性を室温まで測定したところ、30K(-243℃)付近で磁化の異常が観測された。「磁場中冷却」および「ゼロ磁場中冷却」のどちらのデータにおいても磁化の異常が確認されており、磁気秩序が生じている可能性があるという。今回の研究では磁性の詳細は解明できなかったとするが、NiZr2が磁性体であり、Fe/Ni固溶によってその磁性が弱められることで超伝導が発現し、ドーム型の超伝導相図になっている可能性があるとした。このことは、磁性近傍で発現する非従来型超伝導の可能性を示唆しているとする。研究チームは今後、NiZr2の磁性やFe1-xNixZr2の超伝導特性を詳細に研究することで、TrZr2系の転移温度のさらなる上昇を目指すとした。
今回の研究において、磁性元素である鉄とニッケルを含む超伝導体が発見され、磁気秩序近傍での超伝導の研究対象候補として新たな物質系が提案された。現時点での転移温度は低いが、今後の超伝導機構解明研究から新たな非従来型機構が見出され、超伝導転移温度が上昇する可能性が期待できるという。また、超伝導体でない2つの物質を固溶させることで超伝導が発現したことや、今回の物質が学生実験の中で発見されたことは、世の中には知られていない超伝導体がまだ多く存在していることが示されているとしている。