生成AIが今後1年で発揮できる可能性については、依然として楽観的な見方が広がっている一方で、ITリーダーはビジネスリーダーや取締役会から生成AIに対する投資が具体的なインパクトをもたらしていることを証明するよう、より強いプレッシャーがかかるでしょう。
こうした背景を踏まえ、本稿では、生成AIとクラウドの観点から、企業が注目すべき2025年の予測を3つに分けて紹介します。
(1)ビジネスチームとITチームのギャップを埋める
ビジネスチームとITチームのギャップを埋めることに、頭を悩ましている企業は少なくありません。いつの時代でもビジネスチームとITチームは分断された状態にあり、ビジネスユーザーは必要なテクノロジーの範囲を理解せずにITチームにリクエストを行い、ITチームは解決すべきビジネス上の問題を把握せずにインサイトの作成を依頼していました。
AIアシスタントやコパイロットのようなユーザーフレンドリーなAIツールの普及により、ビジネスプロフェッショナルがアナリティクスを活用してより良い意思決定を行うことが可能になり、ビジネスリーダーはより「賢明」になりました。
AIとアナリティクスへのアクセスへの民主化の動きは2025年も続くでしょう。その動きと共に2025年は、逆の動きも現れるかもしれません。それは、ITチームやデータサイエンティストが、企業全体の幅広いニーズに対応するため、より高度なビジネス感覚を身につけ始めることです。
2025年には、最先端の企業では、マーケティング部門や財務部門からIT部門やデータサイエンティスト、さらには経営陣に至るまで、全社員がデータ、アナリティクス、AIを活用して成長を加速させる体制を整え、ギャップが縮小していくことでしょう。
(2)ハイブリッドクラウドインフラでは、もはや不十分
2024年が生成AIの試験的な年であったとすれば、2025年は生成AIを本格的に導入し、規模拡大を目指す企業が登場する年となるでしょう。つまり、単にハイブリッドクラウドインフラを導入するだけでは十分ではなく、企業はデータやアナリティクスにおけるミッションクリティカルなニーズを満たすために、マルチクラウドやハイブリッド機能の活用を求められることになります。
ハイブリッド環境の拡大に伴い、企業のデータは、オンプレミス、メインフレーム、パブリッククラウド、エッジの各環境にまたがることとなります。企業は、データが存在する場所にAIモデルを導入し、ビジネス全体でデータとワークロードをシームレスに移動させることが求められています。その結果、価値ある洞察を導き出し、組織のニーズに対応する機能が必要となります。
しかし、AIモデルやサービスには膨大な量のデータが投入されるため、セキュリティとガバナンスの重要性も増します。デロイトの調査によると、生成AI導入の最大の障壁は、コンプライアンスのリスクとガバナンスの懸念とのことです。
オンプレミスでもパブリッククラウドでも、企業がAIモデルやアプリケーションをプライベートで実行するようになると、モデルのエンドポイントやオペレーションに対するコントロールを維持しながら、柔軟性と多様なデータセットへのアクセスを確保する必要があります。そのため、オンプレミスとクラウドの両方のデータソースを統合できるハイブリッドデータ管理プラットフォームの重要性が増していくでしょう。
(3)企業はパブリックなLLMよりプライベートなLLMを好む
エンタープライズAIのイノベーションが今後の主役となる中、企業はパブリックな大規模言語モデル(LLM)の利用を避け、より正確な洞察を提供できるエンタープライズグレードのLLMやプライベートなLLMを選択するようになるでしょう。
マッキンゼーの調査によると、現在、独自のモデルを大幅にカスタマイズして開発している企業は半数以下(47%)にとどまっています。しかし、企業がビジネスや業界に合わせたAI主導のチャットボットやバーチャルアシスタント、エージェントアプリケーションを開発するにつれ、2025年にはこの状況が変わると予測されています。
エンタープライズグレードのLLM導入が進むにつれ、高速なパフォーマンスを実現するGPUのサポートや、セキュリティとプライバシーを強化する堅牢なデータ・ガバナンス・システムが求められるようになります。また、企業は、汎用のLLMを単なる情報提供ツールから、フィールドサポートや人事、サプライチェーンの現場で正確で信頼性の高い業界固有や組織固有のデータリポジトリとして活用できるよう、検索機能を強化する方向に進むと考えられます。
次回は、2025年に向けて企業が検討すべき新しいテクノロジーに関する予測を紹介します。
著者プロフィール
Cloudera株式会社 ソリューションズ エンジニアリング マネージャー 吉田 栄信(よしだ えいしん)
クラウド、ビッグデータ、データガバナンス、PaaS、Webアプリケーションなどのアーキテクトとしての設計や実装の経験を持つソリューションエンジニア。過去にはヒューレット・パッカード エンタープライズでビジネス・ディベロップメント、DXCテクノロジー・ジャパン株式会社でチーフ・テクノロジストの職務を担当し、2019年6月にCloudera株式会社に入社。