名古屋大学(名大)は12月6日、単層カーボンナノチューブ(CNT)薄膜透明電極を用いた有機薄膜太陽電池(CNT-OPV)を、大阪・森之宮のe METRO MOBILITY TOWNにある大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)の地下鉄引退車両の窓枠に貼り付け、発電量などを調べる実証実験を同日付で開始したことを発表した。

この取り組みは、同大大学院工学研究科および未来社会創造機構マテリアルイノベーション研究所の松尾豊 教授、大島久純 特任教授らの研究グループと、Osaka Metro、デザインソーラー、デンソーらによる共同研究の枠組みで、カーボンナノチューブ電極を用いた次世代太陽電池としては世界初の実証実験となるという。

CNTは、炭素で構成されたナノカーボン材料の一種で、薄い膜に形成することで、光を通し、導電性がある太陽電池に用いられるフレキシブルな透明電極を作ることができることが知られている。また、有機薄膜太陽電池(OPV)は、発電材料に有機半導体を用いることで、ペロブスカイト太陽電池と同じく軽量かつフレキシブルながら、より高い耐久性を発揮できる次世代太陽電池として期待されている。一般的には、裏面電極としては銀が用いられてきたが、研究グループはこれをCNT薄膜透明電極に置き換え、透光性があり両面受講可能なCNT-OPVとして10cm角のセミモジュールを作製することに成功。表面、裏面どちら側から光を入射させても同じ発電量となること、ならびに銀の酸化に伴う有機半導体の破壊がなくなるため、封止なしで2年経ても有機発電層の色素が保たれていることなどを確認したという。この色が保たれた理由としては、酸化が起こらないことためのみならず、CNTが活性酸素を消去するラジカルクエンチ能を有しており、有機発電層を保護するためだと考察していると研究グループでは説明している。

  • 10cm角のCNT-OPVセミモジュールとCNT薄膜透明電極

    10cm角のCNT-OPVセミモジュールとCNT薄膜透明電極 (出所:名大)

  • CNT-OPV

    左が従来の銀裏面電極で形成されたOPV、右がCNT-OPV (出所:名大)

  • CNT-OPV

    左が従来の銀裏面電極で形成されたOPVを封止なしで時間をおいたもの。電極が酸化されて黒ずんでしまい、同時に有機発電層が色抜けしてしまっている。右はCNT-OPVを封止なしで時間をおいたものだが、有機発電層の色に変化はなく、発電能力も保持されていることが確認されているという (出所:名大)

今回の実証実験は、実際に開発されたCNT-OPVの耐久性を実証することを目的に実施されるもので、有機発電層の上に正孔輸送層が塗布され、その上にCNT薄膜透明電極が貼り合わせられ、簡便な封止をラミネートで行った逆型有機薄膜太陽電池構造のセミモジュールを30枚作製。これらのセミモジュールを、大阪・森之宮のe METRO MOBILITY TOWNに置かれている地下鉄引退車両の窓枠に取り付け、データロガーを用いた発電量などの記録を行い、その耐久性を試験するものとなるという。

  • 窓に貼り付けられた30枚のCNT-OPVセミモジュール

    大阪・森之宮のe METRO MOBILITY TOWNに置かれている地下鉄引退車両と、その窓に貼り付けられた30枚のCNT-OPVセミモジュール (出所:名大)

なお、実証実験の期間は2024年12月6日~2025年10月下旬までを予定しており、このうち2025年1月11日~2025年10月下旬までの期間は一般にも開放される予定で、研究グループでは、多くの人の目に触れる公共の会場でCNT-OPVの実証実験を行うことで、より多くの太陽光エネルギーの利用、自然に負荷をかけない再生可能エネルギーの開発、エネルギーデバイスの産業化など、市民の関心を高めることにつながるとも考えているとコメントしている。