みずほ証券チーフマーケットエコノミスト・上野泰也の見方「地価に先高観があるが、日本経済の長期成長では悲観論」

日銀は10月10日、生活意識に関するアンケート調査(2024年9月調査)の結果を公表した。調査期間は8月8日~9月3日である。各種データの中から、2つ取り上げたい。

(1)「経済成長力DI」

「長い目で見たとき、日本経済の成長力について、どう思いますか」という設問への回答選択肢は3つある。回答比率「より高い成長が見込める」―「より低い成長しか見込めない」で上記DIは算出されており、選択肢「現状並みの成長が見込める」は用いない。

 今回の調査では、「より高い成長が見込める」が3.3%、「現状並みの成長が見込める」が46.0%、「より低い成長しか見込めない」が49.1%になった。「経済成長力DI」は▲45.8で、前回6月調査から3.7ポイント上昇。ジグザグの動きを伴いつつも、23年3月からは緩やかに上昇してきている。

 とはいえ、▲45.8という大幅なマイナスの水準は、将来の日本経済についての成長期待が、人々の間では盛り上がっていないことを示している。このDIがピークをつけたのは13年6月(▲26.7)。直近データより約19ポイントも高い水準である。当時は、12年12月に発足した第2次安倍内閣が大々的に打ち出した「アベノミクス」の「3本の矢」への期待感が広がっていた。日本の主要株価指数の水準は足元で当時よりも高くなっているが、日本の国内経済の将来に関する人々の見方は、引き続き冷静である。

(2)「地価見通しDI」

「先行きの土地の価格(地価)はどうなると思いますか」という設問への回答選択肢は3つある。回答比率「上がる」―「下がる」で上記DIは算出されており、選択肢「変わらない」は用いない。

 今回の調査では、「上がる」が42.5%、「変わらない」が34.5%、「下がる」が20.5%になった。「地価見通しDI」は+22.0で、前回6月調査から5.9ポイント低下した。

 このDIのピークは、調査初期の06年9月に記録した+31.9である。前回6月調査では+27.9まで上昇しており、「アベノミクス」期のピークである+23.3(13年6月調査)よりも高かった。地価についての人々の見方は、このところ強気に傾いている。

 けれども、そうした地価先高観の原動力が「日本経済の成長力がはっきり向上した」というような認識でないことは、「成長力DI」からすぐにわかる。大幅な円安をうけて割安感が強まった日本の不動産には、海外の投資マネーが流入しており、さまざまな地価指標が水準を切り上げている。そうした現象を見聞きしたことなどを背景に、回答者の4割以上が地価の先行きについて、上昇が続くと回答したと推測される。「平成バブル」崩壊よりも前に世の中に漂っていた「地価の右肩上がり神話」が復活してきたということでは全くないだろう。