名古屋大学(名大)と農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の両者は11月18日、「可視-近赤外分光法」および「近赤外分光法」により、成熟しても果皮の白いイチゴ(白イチゴ)の糖度を良好な精度で推定することを可能にしたと共同で発表した。
さらに、「近赤外ハイパースペクトラルイメージング法」(以下、NIRHSI法)を用いて得られた果実表面のスペクトルデータから、ノイズとなる「そう果」(イチゴ果実表面の小さな種子のようなもの)を自動識別する機械学習と画像処理を組み合わせたアルゴリズムを開発し、より正確な果実表面の糖度分布を可視化できるようになったことも併せて共同で発表された。
同成果は、名大大学院 生命農学研究科のマ・トク助教、同・稲垣哲也准教授、同・土川覚教授、農研機構 農業機械研究部門の関隼人研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、2本の論文として、食品科学に関する全般を扱う学術誌「foods」に掲載された(論文1本目・論文2本目)。
“光”による非破壊での白イチゴ糖度計測手法を開発
糖度は、イチゴのおいしさを決める熟度や甘さなどに関わる重要な指標だ。現在の糖度計測では、一般的に屈折糖度計を用いて搾汁液が分析されており、破壊試験を伴うためにすべてのイチゴに対して活用できない点が課題となっている。また果実の着色と糖度との間には、必ずしも相関があるとは限らないため、外観のみで選別して価格を決定するとミスマッチが起こり得るという。特に今回の研究対象である白イチゴは、見た目での熟度判定が難しく、適切な品質を確保するためには、非破壊で個々の果実の内部品質を評価する技術が求められていた。
もし非破壊での内部品質の評価手法を開発できれば、顧客ニーズに応じた安定した品質の果実を提供できるだけではなく、自動選別による付加価値化、作業の省力化なども期待できるという。そこで研究チームは今回、可視-近赤外分光法および近赤外分光法を用いた白イチゴの糖度推定と、NIRHSI法による白イチゴの糖度分布の可視化技術の2つの開発を目指したとする。
可視光線とは、ヒトの目が捉えられる約380~約800nmの波長域の光(電磁波)のこと。一方で近赤外線とは、可視光の長波長(赤色)側の外側から1mmまでの幅広い波長域を指す赤外線のうち、2500nmよりも短く可視光線に近い領域の光のことをいう。白イチゴに対し、可視-近赤外分光システムと近赤外分光システムを用いて得られる分光スペクトルを調べた結果、良好な精度で糖度の推定に成功したといい、これらの糖度の推定精度は一般的な果皮の赤いイチゴの推定精度と同等だったとしている。
なお白イチゴの可視-近赤外領域のスペクトルでは、赤いイチゴと同様に、アントシアニンとクロロフィルに由来する吸収が観察されたという。研究チームは今後さらに研究を進めることで、白イチゴがなぜ白く見えるのかを分光法から説明できるようになることが期待されるとした。
また、今回用いられた分光システムにおける測定方法を最適化するため、スペクトルのノイズ評価方法が提案された。このノイズ評価技術により、堅牢なモデル開発のためのスペクトル測定条件を決定できるといい、迅速なイチゴの選別システム開発や、現場での熟度判定システムの開発に貢献するという。
“そう果”を自動識別するアルゴリズムも新たに完成
続いて糖度分布の可視化技術について、用いられたNIRHSI法は近赤外分光法を空間的に拡張したものであり、対象物の成分のばらつき(分布)を画像として可視化する手法だ。今回の研究では、白イチゴを測定して得られた「ハイパースペクトラルデータ」(各画素にスペクトル情報を持つ画像データ)の果実表面から、そう果を自動識別する機械学習と画像処理を組み合わせたアルゴリズムが開発された。