クラウド型の業務支援ソフトを手がけるサイボウズは11月7~8日までの2日間、幕張メッセ(千葉市美浜区)で同社最大の年次イベント「Cybozu Days(サイボウズデイズ) 2024」を開催している。7日の基調講演には、代表取締役社長の青野慶久氏が登壇。同社の近況や製品の開発状況を各責任者とともに説明した。
青野氏は冒頭、「企業規模問わず、日本全国各地でさまざまな企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいる。その裏で大活躍しているのが、kintoneを活用したノーコード開発だ」と切り出した。
成長を続けるkintone、青野社長「まだまだ改善できる」
同社が提供する「kintone」は、ノーコードで業務アプリが開発できるクラウドサービス。難解なプログラミング言語を覚えなくても直感的にアプリを作ることができるのが最大の特徴だ。
2024年11月時点の導入企業数は3万7000社を超え、この1年間で5500社ほど増えた。東証プライム企業の3社に1社が導入しており、毎月650社が新たに導入している状況だ。また、毎月10万のアプリが作成されており、アプリの設定変更回数は月180万回に上る。2023年のkintoneの売上高は130億円(前年比25%増)を突破した。
kintoneは、現場主体でアプリをサクッと開発でき、この特徴が多くの企業からウケている。柔軟でスピーディーにアプリの設定を変更できる点もDXを推進するうえでは欠かせない。kintoneの導入担当者は、非IT部門が93%を占めている。
またサイボウズは、日経コンピュータが8月に発表した「顧客満足度調査 2024-2025」で、「業務効率化・内製支援ソフト/サービス部門」と「グループウェア/ビジネスチャット部門」の2部門で1位を獲得した。
青野社長は、同調査結果を受けて「満足度の高いサービスを提供できていることをうれしく思う。ただ、まだまだ改善の余地があるはずだ」と語り、kintoneの今後の戦略と機能強化について説明し始めた。
kintone×生成AI、「AIの民主化」を後押し
青野社長は、kintoneに生成AIを追加した新機能「kintone AIアシスタント(仮称)」のβ版を2025年1月に提供することを明らかにした。
同β版は、「kintoneの検索機能」と「検索拡張技術(RAG)」を組み合わせた新機能。RAG(Retrieval-augmented generation)とは、大規模言語モデル(LLM)によるテキスト生成に、外部情報の検索を組み合わせることで、回答精度を向上させる技術のこと。RAGを活用してアプリに蓄積されたデータを検索する機能を搭載することで、自然言語による検索などができるようになる。
ユーザーが自然言語で検索すると、複数のアプリ内のデータを横断的に検索し、生成AIが回答を生成する。例えば、「製造業の企業にSFA(営業支援システム)の提案をします。参考になる過去の案件とその概要を教えてください」と質問すれば、AIがkintone上にある複数のアプリの情報を参照し、情報元となるアプリ情報とともに答えてくれる。
検索結果にはアクセス権が反映され、権限のないユーザーには公開されない。ユーザーは大量かつ多様な情報の中から知りたい情報を素早く探せるほか、これまで蓄積した案件情報や問い合わせ対応履歴といった情報を有効活用できるようになる。
基調講演に登壇したサイボウズ マーケティング本部 マーケティング戦略部 副部長の山田明日香氏は「情報検索の効率化によってデータ活用が促進する。これにより、データをさらに登録する動機が生まれ、好循環が進む。kintoneと生成AIを組み合わせることで、企業のデータ活用を支援していきたい」と語った。
また、同β版では、AI機能の作成のほか、作成したAI機能の設定を柔軟に変更することも可能だ。管理画面から、回答の精度を調整する「システムプロンプト」や、何を質問すれば分からないユーザー向けに「定型プロンプト」を事前に設定することができる。
「『こういう入力ができる』と例を示すことで、入力の手間を省くことにもつながる。誰もが気軽に、そして安全に利用できるAIを提供し、AIの民主化を後押ししていきたい」(山田氏)
同社は今後も、kintoneに組み合わせるAIの開発を進めていく。現在、優先するべき通知をAIが分析する機能や、チャット形式による情報検索機能など、さまざまなテーマで研究開発を進めているとのことだ。
「kintoneはITの知識がない人でも業務アプリを簡単に作ることができる。AI活用に関しても、シュッシュッとできるような環境を整えていく。5年先や10年先のことを考えると、AIを活用しないという選択肢はない。ノーコードとAIで、さらに現場主体でアプリ開発ができるようにしていきたい」(山田氏)
大企業でも広がるkintone活用、専用機能を続々投入
kintoneといえば“中小・中堅企業向けのノーコード開発ツール”というイメージが強いかもしれない。実際、毎月650社が新たにkintoneを導入しているが、そのうち約9割が中小・中堅企業だ。一方で、大企業でもkintoneの活用は広がっている。先述した通り、東証プライム企業約4000社のうち3社に1社が導入している状況で、kintoneを全社プラットフォームとして活用する大企業が増えている。
さらに大企業におけるkintoneの全社導入を促進すべく、サイボウズは全社導入向けの専用ライセンス「ワイドコース」を2024年7月に提供開始した。最大1000アプリという上限をユーザーに応じて変更できるようにしたほか、専用機能・専用APIも提供している。
大規模利用向けの機能として、kintoneのポータル表示を強化する「ポータル拡張」や、組織や役職を横断して利用できる「プレセス管理強化」などを提供している。また、2025年春には、kintone上にある各アプリの特徴、権限設定、アプリ間の関連を分析できる機能「アプリ分析」を提供する予定だ。
「アプリ分析機能は、どの部署がどれくらいkintoneを使っているのか、アプリをたくさん作っているのはどの部署かといったことを、グラフや関連図で可視化できる。kintone利活用の推進や、アプリの棚卸しの際に有効な機能だ」と、サイボウズ エンタープライズプロモーション部長 事業戦略室 国内EP市場販売責任者の池田陽介氏は説明した。
加えて、課題に対して適切な対策を行えるように、リクエスト状況や応答時間などをデータで可視化する機能や、「Google Big Query」や「Amazon RDS」といった外部システムのデータをkintone上で操作できるようにする機能など、全社での利用を促進する機能を拡張していく考えだ。
三菱重工業はkintoneを全社で活用している大企業の1社だ。同社は2020年にkintoneの導入を開始したが、2024年9月現在、開発した業務アプリ数は963で、3年で10倍の数に増えた。海外拠点を含めて3000人でkintoneを活用している状況だ。
具体的には、課題となっていた海外拠点のアナログな社内決済業務をわずか1カ月でkintoneで運用できるようにした。その後、幹部層を通じて、他拠点へ口コミが広がったことでアジア5拠点に水平展開。DX部門のメンバーが海外拠点に直接出向き、現場と協調してアプリ開発を進めたという。
一方で、kintone以外にも、大企業に特化したノーコード開発ツールはたくさんある。ドリーム・アーツは9月に同社が提供するノーコード開発ツール「SmartDB」を主軸として、日本の大企業の海外拠点のDX推進を支援する機能・オプション群を2024年内に展開していく構想を発表した。
サイボウズは、どういった戦略で競合製品との差別化を図っていくのだろうか。基調講演後に合同取材に応じた青野社長は、「われわれが提供する最大の価値は“誰でも作れる”という体験。他社が提供しているノーコード開発ツールはプロ向けの機能が多い印象だ。中小・中堅企業から大企業まで規模問わず、現場主導で自分たちに合ったアプリやAIを開発できる。そして、日々の業務の変化とともに柔軟に改善できる。そういった体験の実現が、kintoneの差別化ポイントだ」と語った。