デジタル庁が開発する「デジタルマーケットプレイス(DMP)」が10月31日から正式公開される。行政機関で容易にSaaS製品を調達できるようにソフトウェアやサービスをカタログ化する仕組みで、まずは事業者向けに登録を開始し、来年1月からは行政機関の登録・利用が開始される予定となっている。

DMPの目的やメリットなどについて、デジタル庁の企画官である吉田泰己氏らに話を聞いた。

  • デジタル庁企画官の吉田泰己氏(左)と同参事官主査の永岡大誠氏(右)

    デジタル庁企画官の吉田泰己氏(左)と同参事官主査の永岡大誠氏

行政機関の調達を効率化、短縮化するDMP

行政機関が民間製品を利用する際には調達を行う。通常は一般競争入札で、行政機関がシステムを構築してもらうように仕様書を策定し、ベンダーからの提案と価格の入札を受けて総合評価で調達先を決める。決まるまでは、公募する公告期間が2カ月、意見調整する機関が2~3週間といったスケジュールが必要となる。

さらに金額の大きい調達だと最大で半年という調達の時間が必要で、前年度に予算要求し、システム構築するので、導入に2年かかかる場合もあるという。この機関、事業者側は担当者を配置する必要があり、「資本体力が必要という課題があった」と吉田氏は説明する。

「これまでの行政のIT調達の仕組みをアップデートする」。吉田氏はそうDMPを位置づける。

  • 従来の調達では仕様書に対する提案に対して入札するため期間が長く、参入障壁も高い。既存のSaaSをカタログサイトから導入できるようになればこれが簡素化できる

    従来の調達では仕様書に対する提案に対して入札するため期間が長く、参入障壁も高い。既存のSaaSをカタログサイトから導入できるようになればこれが簡素化できる

クラウドベースのSaaSは、すぐに利用開始できるというメリットがあるが、これまでのIT調達では難しく、行政機関でも一からの開発が不要なSaaSをすぐに利用できるため、デジタル庁ではこうした環境の構築が必要と判断した。そうした既存のSaaS製品を行政機関が調達しやすくする環境を整備すれば、資本体力のある大手ベンダーだけでなく、中小企業やスタートアップも参入しやすくなる点もメリットだと吉田氏は話す。

そうして開発されたのがDMPだ。基本的にはSaaSをターゲットにしており、既存のクラウドサービスを登録し、それを行政機関が目的などに応じて検索して調達に繋げるための取り組みとなる。

  • 対象となるのはSaaSとその導入支援サービス。IaaSやPaaSはガバメントクラウドの領域で、従来の受託開発などは、今まで通り一般競争入札になる

    対象となるのはSaaSとその導入支援サービス。IaaSやPaaSはガバメントクラウドの領域で、従来の受託開発などは、今まで通り一般競争入札になる

DMPは、すでにサービスとして提供されているSaaS製品をカタログサイトに掲載し、行政機関が求める仕様にあわせて絞り込み検索をして目的の製品を見つけられるようにする。吉田氏は「長い公告期間を取らずに、迅速に調達できる環境の実現を目指す」という。 これまでの、受託開発といういわばテーラーメイドで導入する場合、行政機関の仕様によって金額も変わるが、SaaSだとライセンス料金として決まっているので、DMPのような仕組みに適している。そのため、DMPではSaaSを対象としており、開発事業者だけでなく海外ベンダーの国内販売会社やシステムエンジニアのような導入支援サービスもターゲットとする。

すでに「α版」としてリリースされており、現時点ではどのように検索できるかという体験を構築してきた。事業者にも登録してもらい、すでに400以上のソフトウェアが登録されているということで、吉田氏も「かなり関心を持ってもらった」と話す。

  • 2023年度からテストとしてα版を提供してきた

    2023年度からテストとしてα版を提供してきた

α版の検証を経た上で、10月31日からは正式版としてリリース。行政機関の調達を前提とした機能を作り込んでいく。1月以降は、実際に調達ができるように行政機関がアカウントを作成して調達できるようにする。

DMPの使い方としては、まず行政機関が政策の企画段階でどんなソフトウェアを利用できるか検索して、そうしたソフトウェアを踏まえて予算要求や仕様策定をするための参考に使うことができる。文字通りのカタログとしての使い方だ。

政策の仕様が決まっているのであれば、その仕様にあわせて検索をして絞り込みをしてそのまま実際の調達契約に進むこともできる。調達に進まなくても、市場にどういったソフトウェアがあるか、行政機関が把握することができるため、事業者にとってもマーケティング観点から掲載するメリットがある、と吉田氏は指摘する。

  • 正式版となったあとは、事業者の登録からスタートし、来年には行政機関の登録も受け付ける

    正式版となったあとは、事業者の登録からスタートし、来年には行政機関の登録も受け付ける

DMPは「調達モード」も備える。このモードをオンにすると、恣意性を排除するためにソフトウェア名などフリーワードでの検索はできなくなる。行政機関は調達段階では仕様が策定されているため、それをもとに「調達仕様チェックシート」を作成して、対象となるソフトウェアを絞り込む。

デジタル庁では調達仕様チェックシートを作成し、そのチェックシートの通りに絞り込めるUIにしていくという。最終的には検索結果をPDF形式などで出力することで、調達の証拠としてできるようにする。仮に検索結果が1件であればその事業者と随意契約を行い、複数社なら指名競争入札となる。いずれにしても、従来の一般競争入札のような長いプロセスを短縮できることになる。

  • 調達プロセスでは、調達仕様チェックシートを使って容易に検索、調達ができるようにする

    調達プロセスでは、調達仕様チェックシートを使って容易に検索、調達ができるようにする

正式版のリリース後は、まずは事業者の登録機能だけが開放される。事業者は基本契約を締結する必要があり、α版で登録していた事業者も改めて契約する必要があるという。その上で、1月には行政機関が利用できるように検索機能や調達選定機能をリリースする。

  • 実際の検索画面。目的や機能ごとに設定されたタグを使った絞り込みも可能

    実際の検索画面。目的や機能ごとに設定されたタグを使った絞り込みも可能

「車輪の再発明をなくしたい」DMPが行政機関の業務効率化につながるか

DMPでどういった利用が想定されているのか、吉田氏は「まずは軽いSaaSの調達から開始される」と想定する。その後は、「段階的に大規模SaaSの調達に使ってもらえればいい」と話す。

  • 吉田氏

    吉田氏

DMPの適用範囲としては、国はバックオフィス業務やコミュニケーションツールでもSaaSの採用が中心になると吉田氏。自治体では、防災、教育、子育て支援などのSaaS製品が多く出ているので、そうした分野での調達が増えるとみている。

DMPはSaaSに特化していて、これによって「車輪の再発明をなくしたい」と吉田氏は強調する。これまで行政機関では、各自治体などで個別に仕様を策定して同じようなシステムを一から開発してきた。

これに対してDMPを活用することでSaaSの調達がより一般的になり、サービスにあわせて行政機関の業務プロセスの標準化が行われ、政府や自治体全体でソフトウェア開発の重複投資が減少していくとしている。

事業者のターゲットとしては、中小企業やスタートアップでも全省庁統一資格など一定の基準を満たせば登録が可能だという。各自治体などで個別の調達ルールがあればその対応も必要だ。

そもそも業務用途なのでゲームやエンターテインメントなどは対象にならないが、サプライチェーンリスクなども考慮されるが、例えば政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)までは必須ではなく、それぞれの行政機関が、それぞれの調達基準やセキュリティガイドラインに応じて調達する形になるため、必ずしもベンチャー企業だと難しいわけではないという。

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