8月にAI広告コピー生成ツール「AICO2(アイコ ツー/AI Copywriter 2)」の開発を発表した電通と電通デジタル。そこで、本稿では開発担当者に、ツールの特徴や開発の狙い、活用方法などを聞いた。
初代AICOの開発は2015年からスタート
dentsu Japanでは2015年末から、試作・検証を通じてAIとの共創のあり方を探るというプロジェクトをスタートさせ、初代AICO(以下、初代)を静岡大学 狩野研究室と共同で開発し、2017年5月にβ版をリリースした。
AICOシリーズでは共通して、オープンソースの自然言語処理技術が用いられている。これは、普段われわれが用いる日本語や英語のような言葉をコンピュータによって処理する技術である。
初代AICOは、電通のコピーライターが考案したコピー約1万作品をディープラーニングを用いて学習させたモデル。ユーザーが入力した「お題」に基づき、学習したコピーの「型」をベースとして言葉同士の距離を考慮し、新たなコピーを生成する仕組みだった。
当初、コピーライターやプランナーなどのクリエイティブ職を対象に開発していたが、実際の現場ではそうした職種のほか、クライアント営業などの担当者も使用し、よりスピード感とクオリティを同時に求められる現場で活用されていた。
2023年7月から大規模言語モデルをベースにAICO2の開発に着手
初代AICOは、社内ツールとして人間のコピーライターに多くの発想をもたらしただけでなく、多数のクライアント案件にも導入された。その一方で、表現手法を学習データに依存していたため、コピー表現のバリエーションが限られるという課題があった。
一方、近年の大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)の急速な普及・発展もあり、 dentsu Japanでは昨年7月からLLMをベースにしたAICO2の開発に取り掛かった。
「LLMがちょうど普及し、実用レベルに到達し始めた頃だったので、それらを使ったコピー生成、検証に取り掛かりました」(川田氏)
クリエイティブ職の仕事では成果物に新規性が要素として求められることも多くあるが、AIは過去のデータに基づいて出力するため表現に限界があり、結果、画一的なアウトプットになることも懸念されている。
しかし、岸本氏はこの点について「AIは最適解を導き出したり、特徴を見つけて学習データに近いものを出力したりすることに長けています。しかし、そうした出力は、人間の考える解とは異なる方向に向かうこともあり、時に創造的に見えることがあります。ゆえに、AIによっては思いもよらない単語の組み合わせや概念が生まれ、思考の拡張や新しい表現につながる可能性があると考えています」と説明した。
これまで、電通のコピーライターが培ってきた心の琴線に触れるコピーを生み出すための思考プロセスを再現するために、 AICO2にはファインチューニング(別の教師データセットを使って学習させること)したGPTモデル(GPT-3.5 Turbo)が実装されている。
コピーライターの知見を集約したAIが人間のコピーライターのパートナーとなることで、素早く多様な表現を検討することが可能になり、広告コピーの品質向上につながることを期待しているという。
「AICO2は、システムの作り方や考え方を根本から変えています。初代AICOは、前述の通り電通のコピーライターが考案した約1万作品のコピーを学習データの基盤としていたため、その表現力には限界がありました。そこを超えるためにどうすればいいのかを考え、キャッチコピーに加え、それらができるまでの過程を学習させました」(岸本氏)
AICO2のキャッチコピー生成のプロセス
AICO2では、最初のステップで、商品名もしくは解決したい課題を入力する。
ステップ2では、商品や解決したい課題の情報を入力する。
すると、伝えたい内容(What to Say)が表示されるので、表示された候補の中から、イメージに近いものを選択して「Howを生成」ボタンをクリック。すると、キャッチコピーが生成される。一番右側の評価は、AICO2の評価値を点数(100点満点)で表している。
「AICO2が生成したコピーに対してコピーライターが点数を付け、その結果をAICO2にフィードバックすることで、自己採点の精度をチューニングしています。コピーライターとAICO2の評価に相関が出たのを確認し、最終的に実装しました」(福田氏)
AICO2の評価
AICO2は初代に比べ、表現の質、量ともにかなり向上したという。
「クライアントにそのまま提案しても恥ずかしくないレベルのコピーがいくつも出てくるので、だいぶレベルが上がったという感覚があります。AIを用いてコピーを生成する場合、『映画のタイトルのように書いてください』といったプロンプトチューニングの手法が散見されますが、AICO2は『伝えたいことをキャッチコピーに変換するまでの思考プロセス』が組み込まれています。これは『創造的思考モデル』とdentsu Japanで呼んでいる考え方で、キャッチコピー生成以外にも応用できる仕組みだと考えています」(岸本氏)
「どのように言うか」ではなく、「なぜそのように言うか」に焦点を当てているのが創造的思考モデルであり、「このことを強調するためにあえて逆説的に言っている」「何かと対比させて言っている」「何を強調したくて、こういう言い方をしている」といった、コピーを仕上げるまでの思考プロセスを言語化したものだという。
AICO2の効果についてdentsu Japanは、東京大学次世代知能科学研究センター(AIセンター)との共同評価実験を行っている。内容は次の通り。
ファインチューニングされていないGPT-4モデル(通常のChatGPT)【B】と、コピーライターの思考プロセスでFファインチューニングしたGPT-3.5 Turboモデル(AICO2のプロトタイプ)【C】の2種類を用意し、人間のコピーライターがそれらの出力結果を参考にしながらコピーを作成。
その結果、条件付きではあるが【B】を使用した場合、何もAIを使わなかったコピーライターグループ【A】よりも品質が低下する傾向が見られた。一方で、【C】を使用すると、コピーの品質が向上することが確認できたことから、コピーライターとAIのより良い協業の可能性が示されたという。
すなわち、一定の条件下では、ChatGPTをそのまま使うとコピーライターのパフォーマンスは低下するが、AICO2を用いることで向上することが示された。
今後の展望
OpenAIのAPIにファイルアップロード機能が実装されるようになったので、今後検証を進めてから、パンフレットなど、商品情報の追加ファイルを読み込ませる機能も実装する見通しだ。
また、コピー生成以外の用途でも、創造的思考モデルを用いた生成AIの開発、活用を予定している。