ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長は10月3日、同社の法人向けイベント「SoftBank World 2024」の特別講演で登壇し、「人間のような汎用的な知能を持つAGI(汎用人工知能)は今後2~3年で実現し、その1万倍の知能を持つ『超知性』は10年以内に訪れるだろう。知能のゴールドラッシュが来た」と強調した。

  • ソフトバンクグループ 代表取締役 会長兼社長執行役員 孫正義氏

    ソフトバンクグループ 代表取締役 会長兼社長執行役員 孫正義氏

AIが「速さ」から「深さ」の時代に突入

米OpenAIは10月2日(現地時間)、66億ドル(約9600億円)の資金を調達したと発表。米報道などによれば、米Microsoftや米NVIDIA、SBGなどが投資した。Microsoftは10億ドル、NVIDIAは1億ドル、SBGが5億ドルを投資したもよう。SBGによるOpenAIへの投資は今回が初だ。

孫氏は講演時間の多くを割いて説明したのが、OpenAIが9月に公開した新たなAIモデル「OpenAI o1(オーワン)」だ。孫氏は「o1はノーベル賞ものだ。o1の出現により、AIは『速さ』から『深さ』を追求する時代に突入した」と絶賛。

  • AIが「速さ」から「深さ」の時代に突入

    AIが「速さ」から「深さ」の時代に突入

OpenAIがこれまで開発してきたChatGPTなどの「GPT」はプリトレーニング、つまり事前学習して理解する「知識」を軸にしていたモデルだ。一方のo1は、人間のように応答する前により多くの時間をかけて思考するように設計されたモデルだ。つまり、「思考」を軸にしている。

OpenAIによると、博士号レベルの物理・科学・生物に関する難解問題の正答率は、「GPT-4o」の56%に対して、o1は78%を達成した。専門家の70%よりも高い数値だ。数学やコーディングの問題にも強く、国際数学オリンピック(IMO)の予選試験では、GPT-4oの正答率13%に対し、o1は83%を達成した。

  • 「o1」は博士号レベルの物理・科学・生物の難解問題を高い正答率で解く

    「o1」は博士号レベルの物理・科学・生物の難解問題を高い正答率で解く

孫氏は「今朝、o1に『1000万円を1億円に増やしてほしい。その方法とメカニズムも具体的に示して』とお願いしてみた。すると、回答に75秒もかかった」と体験談を話した。「考えているプロセスを実感できた。この75秒の間に莫大な処理をしていると考えると、待っていること自体が楽しくなる。重要なのは回答の速さではなく深さだ」(孫氏)

GPTが「理解すること」が得意なら、o1は「考えること」が得意だ。今後、いくつものAIが「思考」するようになれば、現状では難しい「AIによる発明」が実現されるかもしれない。孫氏は「人間がアイデアを出し、AIがそのアイデアを深く考え何かの発明につなげる。皆が使い始めれば差別化は難しいだろう。まさに知能のゴールドラッシュが来ている」と力説した。

孫氏は続けて「AIの進化には8段階ある」と説明。1段階目が「人間との自然な会話(チャットボット)」、2段目が「博士レベルの問題解決力」、3段階目が「ユーザーに代わって行動(エージェント)」、4段階目が「イノベーションを創出」、5段階目が「組織全体の仕事を遂行」、6段階目が「人間の感情を理解し長期記憶を持つ」、7段階目が「自ら意思を持つ」、そして8段階目が「調和のとれた超知能へと進化」。

  • 孫氏が考えるAIの進化

    孫氏が考えるAIの進化

孫氏は「AIは怖い存在なんかではない。人工“知能”で終わらせるのではなく、人口“知性”そして超知性まで進化させると、思いやりや慈しみ、優しさといった感情を持つことができるはず。人類の幸せを願う超知性は実現できる」と語った。

孫氏「王道のやり方でLLMを開発していく」

講演では、孫氏はあることに対して苦言を呈する場面があった。それは、日本語に特化したLLM(大規模言語モデル)や、パラメータ数を抑えてエッジ側で動作する小規模モデルなど対する疑問の声だった。

「無駄なエネルギーを抑えるためにパラメータ数を少なくして効率的にAIを使おうとする動きもある。そういったモデルを『無駄がなく小さくて美しい』と主張する人がたくさんいる。しかし、私に言わせてみれば、それはただの言い訳だ。ほんの小さな成功に過ぎない。本当は『GPUが買えない』『予算が足りない』だけだと思う。『日本の道は狭いから、田んぼの畦道を通れる二輪車を作る。自動車の時代が来ても日本は大丈夫』と言っているようなものだ」(孫氏)

そう述べた上で「私はパラメータ数を数十兆、数百兆と増やしていく王道のやり方をとっていく。我々は競争をしている。一番優れた叡智に“圧倒的な価値”があるはずだ」と強調した。