難治性不妊症の反復着床不全で子宮内膜症を合併している患者は、子宮内膜症がない患者に比べ、子宮内に歯周病菌が増殖していることが山梨大学と手稲渓仁会病院(札幌市)の研究で分かった。反復着床不全は原因が明らかになるケースが珍しく、今回の研究で歯周病と不妊の関連性が示唆できるとしている。今後、歯周病の治療や予防が着床率の向上に効果があるかどうか、調べるという。

不妊症は妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性生活を送っているにもかかわらず、一定期間妊娠しないものをいう。近年は人工授精や体外受精といった数種類の不妊治療が保険診療で受けられる。ただ、体外受精の場合は年齢ごとに、保険診療で胚移植が行える回数に制限が設けられている。胚移植を何度行っても着床しない反復着床不全は医師と患者双方にとっても悩ましい問題となるが、原因が突き止められることはまれだ。

今回、山梨大学大学院総合研究部医学域の小野洋輔臨床助教(生殖・周産期医学)、吉野修教授(生殖免疫学)、手稲渓仁会病院不育症センターの山田秀人センター長(周産期医学)らの研究グループは、同大附属病院と手稲渓仁会病院を受診した反復着床不全の43人の患者を対象に、子宮内の細菌叢の解析を行った。陰圧がかけられる細い棒を使い、子宮の内膜の組織を微量採取した。組織に含まれる細菌の遺伝子解析を行い、子宮内膜症の既往がある12人と、そうでない31人の細菌叢を比較した。

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    今回の研究の模式図。子宮内の細菌の遺伝子解析を行った(山梨大学提供)

その結果、子宮内膜症の患者群は、より多くの種類の細菌が住み着いていることが分かった。加えて、歯周病の原因菌で嫌気性菌のディアリスター菌と、レンサ球菌が多く存在していることも分かった。歯周病には様々な細菌が関与しているが、ディアリスター菌は歯ぐきの中でも深い歯周ポケットにいて、通常のブラッシングではなかなか除去できない厄介な菌だ。歯科医院で専用の器具を用いて除去する。レンサ球菌は健康な場合は害を及ぼさないが、免疫の抵抗力が下がると様々な症状を発症する。

より詳しく細菌と子宮内膜症の関係を調べたところ、ディアリスター菌は反復着床不全の場合、子宮内膜症がある患者群の方が、ない患者群に比べ、約11倍存在することが分かった。小野助教らは、これらの結果から「妊娠する場である子宮内において、菌種が多かったりすると炎症があったりして、着床が難しくなる可能性がある」と結論づけた。同時に「今回の研究からは、歯周病だから反復着床不全になるのかまでは分からなかった。現在流通している抗生物質や乳酸菌製剤で不妊が改善するのか、研究を進めたい」とした。

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    子宮内膜症のある不妊症患者と、ない不妊症患者でディアリスター菌やレンサ球菌について、どのくらい差があるか示した表。子宮内膜症のある患者の方に有意に多く存在している(山梨大学提供)

近年、産婦人科領域では、将来の妊娠するための力である妊孕性(にんようせい)を確かめるプレコンセプションケアの重要性が唱えられている。このケアでは子宮内膜症や子宮内のポリープ、卵管の癒着などといった妊娠に支障を来す臓器の状態のほか、心身で妊娠しにくい状態が生じていないかをチェックする。ブライダルチェックという名称で検査を実施している医療機関も多い。

吉野教授は「プレコンセプションケアで『心身を整える』といっているが、歯周病を治療することも必要かもしれない。歯周病は早産の原因にもなるとされているので、研究を進めて、リスクがどれくらいなのか、科学的根拠を基に示したい」と話している。

研究は日本医療研究開発機構(AMED)と日本学術振興会の科学研究助成費助成事業を受けて行われた。成果は「ジャーナル オブ クリニカル メディシン」電子版に8月7日に掲載され、山梨大学が同月22日に発表した。

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