物流業界の人手不足が深刻だ。リクルートワークス研究所は、2040年には1100万人余りの労働者が不足し、特にドライバーについては労働需要に対する不足率が24.2%におよぶとの試算を発表している。

トラックドライバーの時間外労働の上限規制が強化された、いわゆる「2024年問題」が本格化してから半年が経過した。労働時間が短くなることで輸送能力が不足し「モノが運べなくなる」可能性が懸念されている。帝国データバンクによると、2024年上半期(1~6月)に倒産した物流業は27件と前年同期(15件)からほぼ倍増して過去最多となった。

2024年問題に対して、物流業界は手をこまぬいているわけではない。実際に、2024年問題に際して物流面の対応を行う企業は約6割に上る(出典:帝国データバンク)。運送費の値上げやスケジュールの見直し、運送事業者の確保など、対応策は多岐にわたる。

セイノーホールディングス傘下の西濃運輸は、短期的なスキマバイトサービス「タイミー」を活用して、トラックドライバーの正社員採用を拡大している。未経験者が気軽に挑戦できる環境を整え、「本気でドライバー職を志望」している人材の確保を積極的に行っている。

  • セイノーホールディングス傘下の西濃運輸は、「タイミー」を活用して正社員採用数を急拡大させている

    セイノーホールディングス傘下の西濃運輸は、「タイミー」を活用して正社員採用数を急拡大させている

西濃運輸、タイミー活用で“体験採用”を拡大

西濃運輸 市川支店 支店長の葛岡健一氏は「2024年問題以前にもともと運送業界は良くないイメージが強かった。3K(きつい、汚い、危険)のイメージが根強く、自社で採用を行ってもなかなか応募につながらなかった。そこで、まずはリアルなドライバー職について知ってもらうことから始めようと、スポットで働けるタイミーの活用を始めた」と振り返る。

  • 西濃運輸 市川支店 支店長 葛岡健一氏

    西濃運輸 市川支店 支店長 葛岡健一氏

タイミーは、働き手の「働きたい時間」と事業者の「働いてほしい時間」をマッチングするサービス。履歴書や面接なしですぐに働くことができる点が特徴だ。報酬は当日受け取ることができ、事業者は、来てほしい時間を設定すると、条件に合った働き手がシステムを介して自動的にマッチングされる。タイミーでの業務をきっかけとして、正規雇用につなげている事業者も多い。

西濃運輸はタイミーを2020年より活用し、物流倉庫作業スタッフの確保や、トラックドライバーの正社員採用につなげている。未経験者でもトラックドライバーに挑戦できるように、「ドライバーの付帯業務」の経験ができる求人を出している。応募者は、トラックの助手席に座り、ベテランドライバーと一緒に配達・集荷・現場作業を体験する。

  • 西濃運輸は「ドライバーの付帯業務」の経験ができる求人を出している

    西濃運輸は「ドライバーの付帯業務」の経験ができる求人を出している

いきなり一人で作業してもらうのではなく、職場の雰囲気と仕事の楽しさを知ってもらうことが募集の一番の目的だという。「初日は簡単な業務をやってもらいながら業務や職場の雰囲気を知ってもらうようにしている」(葛岡氏)ように、未経験者が挑戦しやすくなるような工夫を凝らしている。また、「思っていた業務と違った」「入社したら違った」とならないように、体験者の疑問がなくなるまでコミュニケーションを密にとっているとのことだ。

タイミーを活用したドライバー体験を通じて、興味を持つ人は徐々に増えた。2023年末にこの取り組みを始めたが、十数人が体験を通じて入社を決めた。月平均で20~30人ほどがドライバーの配達・集荷・現場作業求人に応募してくるという。

葛岡氏は「自社で行っていた中途採用では、4年間で1人しか採用できていなかった。実際に入社するかどうかは別として、月に30人も応募して来てくれるのは夢みたいな話だ」と手ごたえを感じている。

スキマバイトの経験で「新しいことに挑戦」

和田翔太さんは、タイミー経由のドライバー職経験を通じて、西濃運輸の正社員になった従業員の一人だ。前職で派遣社員として物流倉庫管理を担当していた和田さん。契約期間終了を目前に控え、正社員への就職活動を行いながらタイミーでスキマ時間に仕事を探していたところ、西濃運輸のドライバー募集を見つけたという。

「派遣社員の時から手に職をつけたいと思っていた。西濃運輸のドライバーの付帯業務の経験を通じて、職場の雰囲気や社員の人当たりの良さを感じることができた。仕事の話だけでなくプライベートの話も親身に聞いてくれてうれしかった。ここでなら、新しいことに挑戦できるかもしれないと思った」と和田さんは振り返る。

  • 西濃運輸でトラックドライバーとして働く和田翔太さん

    西濃運輸でトラックドライバーとして働く和田翔太さん

西濃運輸は未経験で入社する人に対して、動画を活用したオンライン研修や免許取得に関わる費用の一部を補助する免許取得補助制度を用意している。また、「インストラクター制度」も用意し、入社者に対して先輩社員のインストラクターを付け、運転の基本を指導して独り立ちできるまで見守っている。

和田さんはすでに独り立ちしており、配達や集荷、現場作業などを一人で行っている。「最初は体力的にきつかったが、だんだん体が慣れてきた。取引先から覚えてもらえることや、任せてもらえる仕事が増えることにやりがいを感じている。できるだけ早く一人前になれるように、コツコツ頑張って行きたい」と和田さんは笑顔を見せた。

女性もドライバーとして活躍できる会社へ

西濃運輸は今後、さらなる人手不足の解消に向け、女性や外国人、障がい者の採用拡大も目指す。

同社が抱えるドライバー約7400人のうち、女性のドライバーは約90人と全体の1.2%程度と少ない。業界全体でみても、トラックドライバーの女性活躍はまだまだ進んでいない状況だ。

「ドライバーの業務は確かに体力を必要とするが、活躍している女性ドライバーもたくさんいる。『女性にドライバーは向いていない』という根強いイメージを払しょくするために、タイミーを活用して、誰もが気軽にドライバー職に挑戦できる環境を作っていきたい。女性が活躍できる場所が広がることで、物流業界全体の人手不足解消にもつながるだろう」(葛岡氏)