米IBMは9月23日(現地時間)、科学者や開発者、ビジネスのコミュニティ向けに、オープンソースで利用可能な気象・気候のさまざまなユースケースに対応する新しいAI基盤モデルを発表した。IBMとNASAがオークリッジ国立研究所の協力を得て、共同開発した今回の基盤モデルは、短期的な気象予測と長期的な気候予測に関連するさまざまな課題に対処するための、柔軟でスケーラブルな方法を提供するという。

基盤モデルに加え、2つのファインチューニングモデルも公開

気象や気候に関する基盤モデルは、arXivに最近公開された論文「Prithvi WxC:Foundation Model for Weather and Climate」で概説されているように、独特な設計と学習体制により、既存の気象に関するAIモデルよりも多くの応用例を検討することができるという。

潜在的な応用例としては、局地的な観測にもとづいたターゲットを絞った予報の作成、異常気象パターンの検出・予測、地球規模の気候シミュレーションの空間解像度の向上、数値気象・気候モデルでの物理プロセスの表現方法の改善などがあるとのこと。

上記の論文における実験の1つでは、基盤モデルは元データから無作為に抽出したわずか5%のサンプルデータから地球の表面温度を正確に復元しており、これはデータ同化の問題への広範な応用を示唆しているという。

今回発表した基盤モデルは、NASAのModern-Era Retrospective analysis for Research and Applications, Version 2 (MERRA-2)による40年間の地球観測データを使用して事前学習した。グローバル、地域、ローカルの規模にファインチューニング可能な独自のアーキテクチャを備え、基盤モデルとしての柔軟性が、さまざまな気象研究に適しているとのことだ。

基礎モデルはHugging Faceでダウンロード可能なほか、特定の科学的・産業的応用に対応する「気候と気象データのダウンスケーリング」「重力波パラメタリゼーション」の2つのファインチューニングモデルも利用を可能としている。

気候と気象データのダウンスケーリング

ダウンスケーリングは、低解像度の変数から高解像度の出力を推測する気象学の一般的な実装の1つ。入力するデータには、気温、降水量、地上風などがあり、これらの解像度はさまざまであり、気象と気候データの両方を最大12倍の解像度で表示でき、局地的な予報と気候予測を生成する。ファインチューニングされたダウンスケーリングモデルは、Hugging FaceのIBM Graniteページで公開されている。

重力波パラメタリゼーション

重力波は、大気中に遍在しており、雲の形成や航空機の乱気流など、気候や気象に関連する多くの大気プロセスに影響を与える可能性がある。従来、既存の数値気候モデルは重力波を十分に捉えておらず、重力波が気候プロセスにどの程度正確に影響を与えるかという点で不確実性につながっていた。この気象・気候基盤モデルは、科学者が重力波の発生をより正確に推定し、数値気象・気候モデルの精度を向上させ、将来の気象・気候現象をシミュレーションする際の不確実性を抑制するのに役立つという。NASA-IBM Prithviモデル・ファミリーの一部としてHugging Faceで公開されている。

すでに、IBMは新しい別の気象予測ユースケースでモデルの柔軟性をテストする目的で、カナダ環境・気候変動省(ECCC)と協業し、モデルを使用してリアルタイムのレーダーデータを入力として取り込む降水ナウキャストと呼ばれる手法を使って、短期の降水量予報を模索している。また、15kmの解像度での全球モデル予報からkmスケールへのダウンスケーリングアプローチもテストしている。