神戸大学は9月19日、妊娠中期(妊娠24~28週)の妊娠糖尿病スクリーニング検査で用いられることが多い「随時血糖値測定法」を単独で使用すると、多くの妊娠糖尿病が見逃される危険性があることを明らかにしたと発表した。
同成果は、神戸大大学院 医学研究科の冨本雅子大学院生、同・谷村憲司特命教授(産科婦人科学分野)、同・廣田勇士准教授(糖尿病・内分泌内科学部門)らの共同研究チームによるもの。詳細は、アジア糖尿病学会が刊行する糖尿病に関する全般を扱う学術誌「Journal of Diabetes Investigation」に掲載された。
妊娠糖尿病は、出産すれば(妊娠が終われば)治るが、妊娠中の血糖値の制御が悪いと、母親や胎児にさまざまな悪影響を与えてしまう。胎児が大きく育ち過ぎて難産になるなどの妊娠・出産時に悪影響が出る可能性があるほか、その母親と胎児の将来的な糖尿病の発症に関連するとされている。つまり、妊娠糖尿病を確実に見つけて治療すれば、母子の将来的な糖尿病を未然に防げる可能性があるのだ。
現在の日本では、分娩を取り扱う多くの施設において、日本産科婦人科学会によるガイドラインに従い、妊娠糖尿病のスクリーニング検査が行われている。妊娠7か月ごろ(妊娠24~28週)に「随時血糖値測定法」か「50g糖負荷試験」の実施が推奨されている。どちらも検査前の絶食は必要とせず、さらに前者は食事からどれだけ時間が経過したかも考慮せずに血糖値を測定し、100mg/dL以上で要精密検査となる。後者は、50gの糖が含まれる検査用の炭酸飲料を飲んで1時間後に血糖値を測定し、140mg/dL以上で要精密検査であり、前者よりも正確とされているが、より簡便な前者を実施している施設が多いのが現状だという。
同・大学の医学部付属病院産科婦人科では、妊娠前からすでに糖尿病が存在しているものの、検査を受けたことがないなどで診断が付いていない妊婦に対し、負担の大きい糖負荷試験を避けるため、50g糖負荷試験と同時に随時血糖値測定を実施しているとする。そこで研究チームは今回、50g糖負荷試験から妊娠糖尿病と診断された妊婦の随時血糖値を調査することで、随時血糖値測定法による妊娠糖尿病スクリーニングの問題点を探ることにしたという。
2019年2月から2022年1月までに同大学病院にかかり、妊娠24~28週に50g糖負荷試験を受けた763人の妊婦のカルテ調査が行われた。その結果、241人(31.6%)に50g糖負荷試験で異常(1時間後の血糖値が140g/dL以上)があり、最終的に99人が妊娠糖尿病と診断された。この99人の随時血糖値が確認されたところ、71人(71.7%)は異常(血糖値が100mg/dL以上)がなかったとする。つまり、随時血糖測定法のみで妊娠糖尿病を見つけ出そうとすると、50g糖負荷試験を行っていた場合に発見できていたはずの妊娠糖尿病妊婦の約7割が見逃される危険性があることがわかったのである。
さらに、兵庫県内の分娩を取り扱う87施設で、妊娠糖尿病スクリーニング検査として、実際にどのような検査が行われているのかについて、2022年6月~7月にアンケート調査が実施された。回答率は72.4%で、妊娠20週以降に妊娠糖尿病スクリーニング検査を行っている施設が88.9%あり、そのうち、随時血糖値測定法を使用している施設が42.9%と最も多く、次いで50g糖負荷試験が38.1%という結果だったとした。
同県内の分娩取り扱い施設においても広く行われている随時血糖値測定法だが、今回の研究により、非常に見逃しが多い検査であることが判明した。この危険性を産婦人科医や妊婦に理解してもらい、見落としの少ない50g糖負荷試験によるスクリーニング法を普及させる必要があるとする。
今回の研究では、50g糖負荷試験で異常があった患者全員に対する精密検査が行われたが、随時血糖値測定法で異常があった患者については、その他の条件も考慮して精密検査に進むかが決められた。それを受けて研究チームは現在は、随時血糖値測定法で異常があった患者に対しても、全員に精密検査を行うことで、50g糖負荷試験だけでなく随時血糖値測定を組み合わせることによっても見落としをさらに減らせるかどうかを調べているとした。
研究が進むことで、妊娠糖尿病の検出率を高め、多くの母親や胎児を妊娠糖尿病による妊娠・出産時の病気から守ることができるようになり、さらには母子共に将来的な糖尿病の発症リスクも減らせるとしている。